事態が憂慮すべき展開を続ける中、ウクライナは地上戦の枠を超えてロシアへの抵抗を強めている。インターネットを活用してロシアの攻撃に対抗し、ロシアの権力の中枢を積極的に攻撃し、何か支援をしたいと考える人たちからの(資金援助を含む)支援を集め、デジタル戦線で戦っているのだ。ロシアが常時警戒態勢から全面攻撃態勢に移行したことに驚いた人もいるかもしれないが、早期警戒の兆候をすでに認識していた人たちにとってはそのようなことはない。
ウクライナ時間3月1日のインタビューで、Oleksandr (Alex) Bornyakov(オレクサンドル[アレックス]ボルニャコフ)情報変革(Information Transformation)担当副大臣は「戦争は4日前に始まったわけではありません」と語った。「8年間続いているのです。ロシアはずっと攻撃していました」。
ウクライナの積極的なデジタルキャンペーンは、すでに大きな成果をあげ始めている。ボルニャコフ氏によると、2月28日の時点で、世界中からさまざまなオンライン寄付によって1億ドル(約115億6000万円)が集まったという。このうち2500万ドル(約28億9000万円)は、ウクライナ当局が共同管理しているアカウントや、官民パートナーシップでネットワークを運用しているアカウントへの暗号資産寄付によるものだ。その半分以上は、ウクライナのレジスタンスを支援するための物資にすでに費やされているという。
ボルニャコフ氏は、以前から国のデジタル戦略の最前線に携わってきた。
先週まではそれが意味していたものは、同国のDiia City(ウクライナのITセクター向け仮想組織)イニシアチブの運営だった。それは、より多くの外国のテック企業がウクライナに進出して事業を展開することを奨励する大規模な計画、大きな優遇税制やその他の優遇措置で取引を有利なものとすることで、ウクライナのエコシステムでより多くのスタートアップが成長することを奨励することなどだった。
だが今週の時点でのボルコニャフ氏の仕事は、レジスタンス活動を支援するために暗号資産で資金を調達するという同国の大きな動きを管理すること、他のデジタル活動家の草の根活動を管理して連携させること、そして戦闘が激化する中で、コミュニケーションのための不測事態対応計画を考えることだ。
それぞれの領域で開発がどんどん進んでいる。彼にインタビューしたときには、ロシアがテレビ塔を爆破したというニュースが流れていた。ハイテク企業は、コンテンツやサービスの遮断を発表し続け、より多くの人々が逃げ惑い、戦い、銃撃戦に巻き込まれていたのだ。
ボルニャコフ氏本人は、いまでもウクライナに安全にとどまっていることは認めたが、正確な居場所は明かさず、取材に協力したアシスタントもまた別の場所にある防空壕からその作業を行った。またうまくいくコミュニケーションチャンネルを見つけるまでには、複数の経路を試す必要があった。これらがいつまで続くのかはわからない。私たちはみんな、この事態に終止符が打たれ、ウクライナが自立して強くなることを望んでいる。
物事が急速に進展している中で、私たちはボルニャコフ氏に話を聞き、いわゆるIT軍団の台頭、ウクライナのサイバーセキュリティ、ウクライナが取っている暗号資産への賭けなど、より大きなデジタル化の動きの中で、現在どのような状況にあるかを聞き出すことができた。その内容は、大局的に見れば、これから起こることに備えるだけでなく、冷静さを保ち、前進し、プレッシャーの中で繁栄さえできるかもしれないものだ。以下、そのインタビューと対談の内容を、長過ぎる部分を割愛し簡単に編集したものを掲載する。
TechCrunch:お時間をいただき、ありがとうございました。いま現地は極めて混沌とした状況だと思います。まず、どちらから通話をなさっているのでしょうか?まだキエフですか、それともどこか別の場所でしょうか?
オレクサンドル・ボルニャコフ氏:ウクライナにいますが、キエフではありません。大変なできごとですが、今のところ無事です。しかし多くのウクライナ人は無事ではありません。
了解しました。質問に入ります。魅力的なのはレジスタンス活動のデジタル化ですね。まず、IT軍団について質問させてください。IT軍団は、草の根のクラウドソース型ハッカー集団で、ロシアの多くのサイトをダウンさせ、大混乱を引き起こしている団体ですね。副首相でデジタルトランスフォーメーション担当大臣のFederov(フョードロフ)氏がそれを支持してTwitterで宣伝しました。Telegram(テレグラム)内のグループには、現在約27万人以上のメンバーがいます。これは政府とどんな関係があるのでしょうか?
彼らは副首相の呼びかけに応じただけのボランティアです。彼らのことはよく知りません。そして、個人レベルで調整を行うリーダーみたいな人もいません。とにかく大きなグループなのです。そして、そこには個人だけでない関係者が含まれていると思っています。組織も参加しているのです。ロシアですら「(IT軍団)が持っている力は、この世界でアメリカ、中国、ロシアの3カ国しか持っていないものに匹敵する」と言ったそうです。つまり、彼らの力を合わせれば、最大の国家的サイバー防衛グループに匹敵するのです。
相手を倒した数ではという意味ですよね?
ええ、どれだけの被害を及ぼせるかという意味ですね。
彼らがどこにエネルギーを注ぎ込むのかに対して、何らかの調整は行っているのでしょうか?
特定の人やグループと1対1のレベルでコミュニケーションをとっているわけではなく、グループ内にタスクを投入すれば、彼らがそれを実行するという流れです。その数分後には、いくつかのインフラがダウンします。私たちが依頼したら、どんなインフラでも破壊してしまうのです。
ロシアが、ウクライナと利害関係のあるものを地上とサイバースペース両方で最大限激烈な方法で攻撃しようとしていことを考えると、IT軍団は対象を攻撃する活動以外にも何か関与しているのでしょうか。
戦争は4日前に始まったわけではありません。8年間続いているのです。ロシアはその間、ずっと攻撃を続けていました。つまり、インターネット上のサイバーセキュリティレベルでということですが。そのような中で、私たちは非常に高度なサイバー防衛システムを開発してきました。だから、もしかしたら……そうですね、ロシアは私たちを攻撃しようとしていたのかもしれません。しかし、成功はできませんでした。サイバーディフェンスは、まったく別の人たちが担当しています。防衛のためには、制限されたシステムにアクセスできるようにする必要がありますが、誰にでもアクセスさせるわけにはいきませんし、IT軍団は公開グループですので誰が参加しているのかはわかりません。なので、守備側は完全に別の人たちの肩にかかっているのです。
IT軍団に関するより大きな戦略をお持ちですか?
まあ、このインタビューは公開されるものですから、戦略についてはあまり話せません。でも、ヒントのようなものはお答えできます。私たちは何年もの間、ずっとネットで攻撃を受けていました。それでも決して反撃はしませんでした。私たちは自分たちを守るだけだったのです。なので、インフラが攻撃され、カードや行政サービスが使えなくなったときに、私たちがどのような気持ちになったのかを、今回初めて伝えることができたわけです。ということで、これが答です。
IT軍団とその連携について、もう1つお聞きします。私にとって興味深いのは、彼らの規模と影響を示すことで、公に知られることが彼らにとって有利に働くという点です。しかし、Telegramはそれほど安全ではないという主張や、検閲される可能性があるという主張、そしてロシアがそれをコントロールしているという主張など、他の側面も考慮する必要があります。これらはどの程度、気になさっていますか?
まあ、実際にはメッセンジャーを使い分けています。でも、Telegramは……(笑)、Telegramとしての利用は多いですね。でも同時に、実のところほとんど全部のメッセージングアプリを使っています。個人的な好みはありません。私たちのチームの他のメンバーも、さまざまなメッセージングアプリを使ってコミュニケーションをとっています。この観点で私たちを打ち負かすのは本当に難しいでしょう。
他のコミュニケーションチャネルはどうでしょう。持ちこたえられていますか?
接続は維持できています。影響を受けた電子機器はまだありません。基地の1つが攻撃されましたが、大都市の中の1つに過ぎません。まだ他にたくさんありますので。おそらく、彼らはこの先接続を撹乱しようとすると思います。彼らが最初にそれをしなかったのは、事態を簡単なものだと思っていたからでしょう。単に街に侵入して、中央広場に集って、祝杯をあげるだけだと思っていたのです。だから、そもそもインフラには一切手をつけていなかったのです。しかし、やっとロシア人は自分たちがここでは歓迎されていないことに気づいたのです。彼らは領土を占領しつつあります。そしてほぼ1週間経って、彼らは我々のインフラを破壊し始め、民間の施設を攻撃し、民間人を殺し始めました。
イーロン・マスク氏のStarlink(スターリンク)の拡張は、通信計画にどのように関わってくるのでしょうか?
いいですか、そうした計画についてはお話できません。でもまあ、バックアップには何段階もあって……もちろんまだ計画だけですが。とはいえ、もし不測の事態に備えていなければ、私たちはとっくの昔にやられていたはずです。彼らがサイバー空間でどれだけ攻撃を仕掛けてきたか、ご存知ないでしょう。ということで、私たちのインフラは動いているし大丈夫です。サーバーを叩けば落ちるというものではありません。
発信なさっている国際的なメッセージの中には、他の人たちに自分たちでできることをして欲しいと訴えるという点で、とても効果的で直接的なものがあります。最近の例では、ICANNにロシアのトップレベル国別ドメイン名を「永久的または一時的に取り消す」こと、DNSを停止させること、そしてTLS証明書を失効させることなど、あらゆることを要請しています。これらの妥当性についてはどのようにお考えでしょうか。そして彼らから返事はあったでしょうか?
ICANNからの返事はありません。彼らがどのようなアクションを起こすのか、起こすべきなのかはよくわかりません。しかし、組織、あるいは人々が共通の人道的価値観を共有しているならば、ここで立ち上がらなければ、影響を受けるのは世界であることは間違いないでしょう。事態はこのまま終息しません。プーチンは完全にいかれていますし、さらなる追い打ちをかけてくるでしょう。彼のこの10年間の活動を見れば、限界に挑戦していることがわかります。そして、彼は「力による会話」を理解していると思います。ですから私の立場は、とにかく全力で反撃することです。そうでなければ、考えたくはありませんが、もしかしたら最終的には核兵器まで行ってしまうかもしれません。しかし、彼の国は、問題を解決するには戦争以外の方法があることを感じなければなりません。
そこで一部の団体や草の根レベルで国際協力を呼びかけているわけですね。サイバー防衛に関しても、米国や他の国々と連携しているのでしょうか?
たくさんの連携が取れていると思います。
(彼は他国の支援を高く評価し、特に米国と英国に感謝を述べたが、具体的な内容には触れようとしなかった)
暗号資産について少しお話させてください。ウクライナはこの週末、ウォレットのアドレスをツイートし、さまざまな暗号資産が莫大に流れ込んでいるようです。そのウォレットをウクライナ政府のために、あるいはウクライナ政府に代わって実際に運用しているのは誰なのでしょうか。
そうですね、私たちが運用しているファンドは、ウクライナの暗号資産取引所が運営しているものです。つまり、これは官民合同のパートナーシップのようなものです。より迅速な対応を行えるように、このたび、ある取引所と提携したところです。誰も手を出せないように、資産がしっかり確保できるようにする必要があります。もちろん、高速交換、高速送金も必要です。政府だけが関わっているわけではないのですが、私たちがアカウントを管理してます。そのほとんどがマルチ署名のアカウントです。つまり、それを使おうと思ったら、少なくとも3人くらいの署名をもらわなければなりません。
(ボルニャコフ氏はそのうちの1人だが、すべての口座の署名者ではない)
Kuna(クナ)はあなたが取引をしている取引所です。これが、暗号資産取引所との間の提携で、暗号資産を実際の通貨に交換するのを支援しているということですか。
はい。ほぼ、その通りです。
了解です。また、みなさんはどの暗号資産を扱い、どの通貨に交換しているのでしょうか?
主にBitcoin(ビットコイン)、Ethereum(イーサリアム)、Tether(テザー)を扱っていますが、Polkadot(ポルカドット)で500万ドル(約5億8000万円)という巨額の寄付をいただきました。他の暗号資産での寄付を希望される方も多いので、暗号ウォレットを追加中です。交換先の通貨としては、米ドルとユーロが多いと思います。
Airdrop confirmed. Snapshot will be taken tomorrow, on March 3rd, at 6pm Kyiv time (UTC/GMT +2 hours).
Reward to follow!
Follow subsequent news re Ukraine’s crypto donation campaign at @FedorovMykhailo— Ukraine / Україна (@Ukraine) March 2, 2022
Airdrop(エアドロップ)が承認されました。寄付権利確定は明日3月3日、キエフ時間(UTC/GMT+2)の午後6時に行われる予定です。(日本時間では3月4日午前1時)
報酬は追って配布!ウクライナの暗号資産寄付キャンペーンに関する続報は、@FedorovMykhailoをフォローして下さい。
(訳注:Airdropとは暗号資産の無償配布のこと。暗号資産による寄付に対してウクライナが WORLD という暗号資産を無償配布することを事前に表明していた)
【編集部注】日本時間3月3日の夜、上記のAirDropが中止されたことをフョードロフ氏自身が発表した。
After careful consideration we decided to cancel airdrop. Every day there are more and more people willing to help Ukraine to fight back the agression. Instead, we will announce NFTs to support Ukrainian Armed Forces soon. We DO NOT HAVE any plans to issue any fungible tokens
— Mykhailo Fedorov (@FedorovMykhailo) March 3, 2022
検討の結果、airdropを中止することにしました。ウクライナの反撃に協力を申し出る人は日々増えています。その代わり、ウクライナ軍を支援するためのNFTをまもなく発表する予定です。私たちは、FT(代替可能なトークン。ex.普通の暗号資産トークンなど)を発行する予定はありません。
もう寄付金は使われているのでしょうか?それとも、まだ使わずに待っているのでしょうか?
半分はすでに何かの機材に使われています。具体的に何をとは言えませんが、今日も大きな買い物が行われました。活用しています。防衛省とも連携しているので、Kunaと私たちだけでなく、防衛省も巻き込んでの活動です。ですから、基本的には私たちがニーズを理解して、彼らがロジスティクスを助けてくれるのです。これが終わったら、みなさんに完全な透明性のある報告をするつもりです(別途Kunaから聞いたところでは、機材の購入にはドローンやその他の補助的な機材も含まれているとのことである)。
関連記事:ウクライナへの暗号資産による寄付金、政府基金の使われ方
これまでにどれだけの資金が使われたのでしょうか。また、これまでにどれくらいの寄付金が集まったのでしょうか。
これまでに約2500万ドル(約29億円)の資金が集まり、1400万ドル(約16億2000万円)ほど使ったと思います。
なぜ、暗号資産を使わないルートではなく、暗号資産による寄付を選んだのでしょうか?資金調達のルートはたくさんあります。
さて、みなさんはご存じないかもしれませんが、ウクライナ国立銀行は、これに先立って、最初に大規模な国家的キャンペーンを行っています、こちらは、ほとんど通常の通貨とカードで資金調達をしています。ということで作業は並行しています。暗号資産だけではありません。ファンドは沢山あるのです。人道支援に重点を置いているものもあれば、軍事だけに重点を置いているものもあります。政府業務をサポートするために存在するものもあります。つまり、正確には知りませんが、さまざまな機関の力を合わせると、1億ドル(約115億7000万円)ほど調達できたと思います。
余談になりますが、副大臣が担当されたテックシティプロジェクト「Diia City」についてお聞きしたいのですが。今は少し後回しになっているようですね。
この時点では、そう、後回しになっています。このプロジェクトに関しては比較的すばらしいスタートを切ることができました。巨大企業や国際的な企業など、何百もの企業が参入していましたが、残念ながらロシアの侵攻によって、これがご破算になってしまいました。延期ということにしておきたいと思います。しかし現在は、企業はほとんどの人員を避難させているところです。
ウクライナに残って仕事を続けている人もいますが、多くの人が去ってしまいました。とても残念なことです。
私もそう思います。本当に、信じられないようなことが起きてしまったんです。私たちの領土でこのような悲劇が起こるとは、想像もしていませんでした。でも、いずれは再建します。そしてもちろん、現状を打開できると思っています。しかしその道のりはとても険しいものでしょう。
画像クレジット:Pierre Crom/Getty Images
[原文へ]
(文:Ingrid Lunden、翻訳:sako)
- Original:https://jp.techcrunch.com/2022/03/04/2022-03-02-ukraine-deputy-minister-talks-it-army-and-deploying-25m-in-donated-crypto/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:Ingrid Lunden,sako
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