【男前マルチツールの世界】
マルチツール。それは、手に収まるほどのコンパクトなボディにさまざまな道具を詰め込んだ“ハンドツール”。とかく専用ツールに比べ「間に合わせ」と思われがちですが、そこにはマルチツールだからこそ味わえる奥深い世界が存在します。
そんなマルチツールの男前な魅力を紹介する連載第19回は、ROXON「STORM S801Sマルチツール」(実勢価格:5500円前後)です。
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ROXON(ロクソン)は、中国のメーカーCHAMFUNの自社ブランドと思われます。ブランドサイトに詳しいことは書かれていませんが、問い合わせ先がCHAMFUNなので間違いないでしょう。ご存じの人もいるかと思いますが、チャイナブランドに限らず、世界中のマルチツールは中国のメーカーが製造しています。CHAMFUNはそんなサプライヤーのひとつです。
今回ご紹介するROXONの「S801S」は、19種のツールを収納したフルサイズのマルチツール。最近は軽量小型なものばかり紹介してきたので、ひさしぶりのフルサイズにやや戸惑いを感じました。
重量は313gとかなりのヘビー級。折り畳んだ状態では手のひらから少しはみ出すぐらいですが、その厚みと存在感はハンパない。なぜこんなにも重いのか? そして厚みがあるのか、使い方のレビューと合せて紹介していきます。
ボディの材質はステンレス合金を中心としたフルメタル仕様。部分的な肉抜き加工など軽量化している部分もありますが、“工夫”と感じられるようなデザインはしていません。シャーシにできるだけ大きめのツールを詰め込んだような無骨なスタイル。ただ、ハンドルの表面処理は綺麗だし、各可動部も正確かつ確実に動きます。
折り畳み式のメインツールはふたつ。プライヤーとハサミです。専用ツールに負けないサイズと仕上がり。どちらもスプリングを内蔵し、リバウンド機能があるので開閉を頻繁に行う作業に適しています。少ない力で開閉できるのもスプリング式の魅力です。
プライヤーの先端は閉じた状態で幅約5mm、厚さ約3mm。ニードルプライヤーというほど細くはありませんが、とてもしっかりしています。先端部から溝が切られており、基部に近い部分にケーブルカッターとワイヤーカッターを装備。カッター部分は打ち込みになっており、レンチ等では交換できません。
前述の通りリアクション機能があるので、モノを掴んだ状態でハンドルに力を込めるとグッとわずかにしなって把持力が増します。ハンドルが大きく握りやすいのも良いですね。
▲ハンドル内に収納されたもうひとつのメインツール、ハサミ
刃渡り約4cmの比較的大きなハサミ。このクラスの多機能マルチツールでは端役になりがちなハサミですが、このモデルは充分に大きく主役級の存在。プライヤー同様リアクション機能が内蔵され開閉しやすい。厚紙からティシュのような薄いものまで幅広く切れます。
▲もうひとつの切るツールであるナイフ
ナイフはワンハンドでオープン可能。ハンドルの外側にあり、ハンドルを開く必要がありません。刃渡りは先端部から基部まで約6.5cm。直刃部が5cmで先端部が1cm。包丁のような汎用的な使い方から細かな切り出しまでできるかなり便利なナイフです。
ナイフを展開するとバネ板状のロックが自動でかかります。力を込めて切っても勝手に閉じることはありません。収納する際は、ナイフの基部にあるロック板を押しながら折り畳みます。マルチツール自体が重いので切る際にこの重みが良い方向に作用します。ちなみに今回のモデルは、旧モデルより硬くて分厚いステンレス鋼にアップグレードされていて、実際切れ味は良好でした。
▲ナイフ側のハンドルに収納された切る系ツール
ナイフ側のハンドル外側には缶切り、リーマー、ロープカッター(シートベルトカッター)等の切る系の仕事をこなすツールを装備しています。似た仕事のツールがナイフを中心とした外側のハンドルに付いているのは良いマルチツールの特徴のひとつ。なぜなら、ナイフの位置さえ覚えれば迷うことなくツールを選ぶことができるから。いくら多機能でも、似た仕事をするツールがてんでバラバラなところにあっては使い難いということです。マルチツールの基本は「切る、開ける」だと思うので、頻繁に使うであろうツールはハンドルの外側にあるのがベストです。
▲ナイフの反対側のハンドルに収納されたノコギリ
刃渡り約7cmのノコギリもワンハンドオープンが可能。ライナーロックも装備し、力強く切れます。ただ、刃の間隔はもう少し細かくても良いかなと感じました。このノコギリを使うとすれば、薪用の小枝とか、その程度の太さがメインだと思うので、刃のかかりやすい大きさならなお良かったかも。
このようにハンドルをオープンにするととても握りやすい。結構力を入れて切ることに集中できます。
▲ノコギリ側のハンドルにはボトルオープナー類
栓抜きと立派なボトルオープナーも付いています。このボトルオープナーを装備すると、一気にハンドルに厚みが出ますね。最近のワインはこれが無くても開けられるタイプが増えているので、以前に比べると活躍の機会が減ったかと思いますが、ヴィンテージ物のワインをアウトドアで飲みたいという人にはマストなツールです。栓抜きをボトルの縁に掛けるとテコの原理でコルクを開けやすくなります。
▲分厚くて頼りがいのあるヤスリ兼マイナスドライバー
ハンドルの外側にあるツールで一番丈夫そうなものが、両面がヤスリで先端が幅広のマイナスドライバーです。ツールの厚みは約2mm。ヤスリを使用する際は力を入れることが多いので、長さよりも丈夫さを重視したものと思われます。先端部はクリッパーなど何かをこじ開ける作業にも適しています。
精密な専用ツールではありえない雑な使い方ができるのもマルチツールの魅力のひとつ。中でもこじ開ける系の作業がちゃんとできるツールを搭載しているあたりが、かなり優秀だと思います。
ハンドル内側にプラスドライバーを装備。付属するナイロンケースにはエクステンションアダプターと9種のビットが収納されています。プラスドライバーは短いながらもフルサイズの大きさ。使い勝手が良く活躍の機会は多いと思います。
そして付属するビットの充実ぶりが素晴しい。この価格でこれだけ付いてくるのはうれしいですね。このビットを使う時は、写真向かって一番左の銀色のエクステンションアダプターをプラスドライバーに挿してから任意のビットを装填します。
ビットは六角が4種、マイナスが2種、プラスが2種、そして星型のトルクスが1種付属します。かなり汎用性に優れたラインナップ。特に自転車関連のボルトを開け閉めするにはとても便利でした。
エクステンションにはマグネットによる脱落防止機能付き。ただ、そんなに強力な磁力はないようなので過信は禁物です。
▲ガラスブレーカーは徹甲弾と同じ素材
ノコギリがある側のハンドルの先端には黒い小さな突起が付いています。これは、車内に閉じ込められた際にガラスを割って脱出するためのもの。材質は硬度の高い炭素鋼タングステンが使われています。
ボディ自体が重いので叩きつける際には、この重さが武器になります。女性や子供でも軽い力でガラスを突き破れます。
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収納ツールの数と比較しても分厚いボディの謎を考察してみます。
まず、物理的に一つひとつのツールが大きく肉厚だから。そして、肉厚ボディの最大の理由はメーカーの成り立ちにあると考えます。
ROXONブランドの作り手であるCHAMFUNは、世界中のベンダー(売り手)に卸しているサプライヤーです。ベンダーの要望で「このツールはうちでは要らないからこっちに変えて」とか「このツールを追加して」などのカスタマイズに柔軟に対応する必要があります。
完全な自社ブランド自社生産のメーカーであれば、先に用途やコンセプトがあり、それに則したデザインが採用されます。しかし、CHAMFUNの場合は後々の変更や改良を考慮した「余白」を設ける必要があったのではないか。少なくとも彼らが得意とする作り方は、そのような余白を活かしたデザインにしているのだと思います。
決してスタイリッシュなデザインではありませんが、実用性に充分耐えられるだけの品質と豊富なアクセサリーを含む内容はお買得。ユーザーが何を重視するかで評価が分かれますが、重量さえ理解していればこのマルチツールは多くの人におすすめできる1本だと思います。
<取材・文/GOL>
GOL|歯科技工士、ECディレクター、webライターまで幅広く活動しております。指先に伝わるハンドツールの質感や重さ、音などアナログな部分に惹かれて今に至ります。一番好きなのは懐中電灯。
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- Original:https://www.goodspress.jp/reports/444562/
- Source:&GP
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