【大人のひとり時間充実モノ】
時計、なかでもアンティークウォッチは大人が夢中になるもののひとつ。ではどんなふうに楽しめばいいのか。時計に関するNo.1ライターで、時計コレクターでもある名畑政治さんにアドバイスをお願いした。
名畑政治(なばた・まさはる)さん
1959年、東京生まれ。'80年代半ばからフリーライターとして活動を開始。'90年代に入り、時計、カメラ、ファッションなどのジャンルで、時計専門誌や男性誌で取材・執筆。'94年から毎年スイス時計フェア取材を継続中。現在は時計専門ウェブマガジン『Gressive』編集長。
■アンティークウォッチは人間味が魅力
名畑政治さんは、日本を代表する時計ライター。30年以上に渡ってスイスや日本の時計ブランドの工房取材を続けてきた。現在は時計専門ウェブマガジンの編集長を務めている。
徳間書店『GoodsPress』が1990年代に別冊として刊行した「オメガ」や「ブライトリング」「セイコー」のヒストリーブックの著者でもある。時計はもちろん、カメラやアウトドアグッズ、ギターなどさまざなアイテムに詳しく、またそのコレクターでもある。
「今の時計は昔の時計よりも求められる品質基準が高いので、最新技術で効率良く、ディテールまで完璧に作られています。でも、アンティークウォッチは違います。今の時計にはない人間味というか、“味”や“面白み”、“遊び”があります。それがいちばんの魅力といえるでしょう」
名畑さんがアンティークウォッチの魅力に目覚め、コレクションを始めたきっかけは、1976年頃、高校2年生のとき。母方の祖父が亡くなり「形見の時計」を伯母から渡されたことだった。
「手巻きで、文字盤のインデックスがアラビア数字なのが気に入って、大学生のときにときどき使っていました。その後、この時計がマニアの間で〝セイコーの隠れた名機”といわれるモデルの最終バージョンだったと知って興味が湧いたんです。それが、歴代のモデルを収集するきっかけになりました」
名畑さんは自分自身の経験から、アンティークウォッチを楽しむなら、いきなりアンティークウォッチショップに行って高価な人気モデルを購入するなどの無理をせず、家にある「昔の時計」を探してみることから始めたら、と勧める。
「時計の修理屋さんに持ち込んでみたら、とても良いものだった、ということもありますから。楽しいからすることなのに、無理をしたら楽しくありません」
アンティークウォッチを探すというと、今はまずインターネット上のフリーマーケットやオークションが頭に浮かぶ。
だが、時計はできるだけ実物を手にして、自分の目で見て吟味したいもの。お気に入りのアンティークウォッチショップを見つけて通ったり、フリーマーケットに足を運ぶことで素敵な1本に出会えることもある。
またアンティークウォッチには時計にまつわる「物語」を味わうという楽しみもある。作られた時代や、その時計に関するエピソード、関連の本や資料を探すのも面白い。
名畑さんは収集した時計の当時の雑誌広告なども集めている。
「1本の時計から思いもよらぬ世界が、楽しみが広がります」
■アンティークウォッチにハマるきっかけになった1本
オメガ
「シーマスター オートマチック」
有名な東京世田谷のボロ市で、1980年代半ばに格安で購入した1960年代のオメガ。アクリル製の風防に日付表示を拡大する丸いレンズが付いた珍しいタイプ。「アンティーク時計っていいなぁ」と改めて実感した1本。ベルトを交換してある。
■初代より「がっしりラグ」が好み ストラップを特注して愛用中
セイコー
「キングセイコー 2代目モデル」
2021年には限定復刻版も発売された2代目「キングセイコー」のオリジナル。30年ほど前、立川の街外れにある普通の時計店で見つけた。がっしりしたラグと日付なしのデザインが好み。ストラップは無着色のクロコダイルの特注品。
■祖父から受け継いだ、時計に興味を持つきっかけとなった1本
セイコー
「ロードマーベル 36000」
「ロードマーベル」は1958年に諏訪精工舎から登場した高精度モデルのシリーズ。祖父から受け継いだこのモデルは1967年に発売された、ハイビートムーブメント搭載の最終版。「グランドセイコー」に興味を持つきっかけにもなった。
■迷ったけれど、購入して正解だった1本 復刻ブレスで宇宙飛行士と同じ仕様に
オメガ
「スピードマスター プロフェッショナル 3rdモデル」
オメガマニアを自認する名畑さんにとって最も愛着のある1本。1997年に都内のアンティークショップで発見。即決できなかったが、見つけた翌日に「やっぱり買わないと」と店に駆けつけて購入。ブレスレットは宇宙飛行士が使ったタイプの復刻版を装着。
■コレクションの1本1本に思い出と物語があります
▲スイスのビエンヌに本社を構えるオメガ。その博物館の館長とも親交が深く、コレクションを絶賛されている名畑さん。こちらはクロノグラフの「スピードマスター」を中心にしたコレクション。「シーマスター」や「レイルマスター」も自慢の逸品
アンティークウォッチを収集するなら、自分がお気に入りのブランドやモデル、テーマを決めることを勧めたい。
名畑さんがお気に入りで情熱的に収集してきたのが、オメガとセイコーという、スイスと日本を代表する2つの老舗ブランド。なかでも高精度な3針のシンプルモデルが中心だ。
オメガの場合は、昔スイスの天文台が行った精度コンクールに関連したモデルが中心。またアポロ計画で宇宙飛行士と共に月に行った、通称“ムーンウォッチ”も大好きで収集している。
セイコーの場合も3針の「グランドセイコー」「キングセイコー」を中心に収集してきた。
そのコレクションの中には、ブランドの関係者も驚くレアモデルがいくつもある。どれも地道にアンティークショップやフリーマーケットなどを訪ねている間に出会ったものだという。
「アンティークウォッチショップでは『時計には掘り出しモノなどありません。今、ここで購入した方が良いですよ』というセールストークを聞きます。でもそれは間違い。掘り出しモノは必ずどこかにあります。ぜひあなたの手で、自分の『掘り出しモノ』を見つけてください」
▲こちらは、天文台コンクールや精度検定所で優れた成績を残したオメガの高精度ムーブメントを搭載したもの、またはその関連コレクション。時計マニアの間では「30mmクロノメーター」と呼ばれ、中には一般に市販されていない精度検定用と思われるレアモデルも
▲「グランドセイコー」「キングセイコー」を中心にしたセイコーのコレクション。「ロードマーベル」の歴代モデルや「グランドセイコー」「キングセイコー」など、セイコーマニアにとっては垂涎のモデルがズラリ
■名畑政治さんからアンティークウォッチ入門者に5つのアドバイス
1. 掘り出しモノは必ずある
アンティークウォッチショップでは「掘り出しモノなどないから、今、これを買いなさい」とよくいわれるもの。でもそれは間違い。掘り出しモノはどこかにかならずある。知識と経験で審美眼を身に付ければ、必ず見つかるものです。
2. 人気モデルを無理して買わない
ロレックスやオメガを筆頭に、人気ブランドの人気モデルは、どうしてもアンティークウォッチの値段も高め。他人の目を意識して見栄を張り、無理して買うと結局後悔することに。背伸びをしないで自分が納得できる1本を探しましょう。
3. まずはシンプルな手巻きのノンデイトモデルを
アンティークウォッチも時計。だから、ちゃんと動くものでないと持つ意味がない。そこでオススメしたいのが、シンプルな手巻き、ノンデイト(日付なし)の針モデル。壊れにくく、修理やメンテナンスの費用も安くて済みます。
4. オススメは造りがしっかりしたこの4ブランド
入門者にオススメしたいブランドが、モバードやロンジン、ジャガー・ルクルト、IWCの1950年代のモデル。価格もお手頃なものが多いし、ムーブメントやケースの造りがしっかりしていて、メンテナンスをすればきちんと動くはずです。
5. 修理屋さんは純正部品を使って行うところで
アンティークウォッチを楽しむとき、欠かせないのが時計修理屋さん。費用が安過ぎるところは純正部品を使わず、価値を損なう可能性も。なので、選ぶなら正規のメンテナンスをブランドから引き受けているところをオススメします。
■現行品でアンティークの味わい 復刻モデルを楽しむという方法も
ロンジン
「ロンジン ヘリテージ クラシック」(29万8100円)
ロンジンが1934年に発表した「セクターダイヤル」が特徴の手巻きモデル。そのデザインを現代的なサイズ、最新の自動巻きムーブメントで再現。現代的な精度や防水性も備えガンガン使えるのが魅力。SSケース。
※2022年4月6日発売「GoodsPress」5月号72-75ページの記事をもとに構成しています
<取材・文/渋谷康人>
【関連記事】
◆「100年使える腕時計」だから保証も100年です
◆腕元に品をもたらすドイツ時計「ノモス」の新作タンジェント
◆銀座のランドマーク「和光の時計塔」90年を記念したグランドセイコー
- Original:https://www.goodspress.jp/features/448025/
- Source:&GP
- Author:&GP
Amazonベストセラー
Now loading...