一分一秒を争う命の現場で。救急情報システム「Smart119」の挑戦

「救急車を呼びたい。でも、ここはどこ?」

突然のけがや病気に見舞われた際にコールする「119」。一秒でも早く救急車を呼ばなくてはならない場面で、問題となるのが所在地の伝達です。もしも発生場所が山間部や見知らぬ土地だった場合、正しい位置情報の伝達は困難になり、救急搬送までに時間が生じてしまいます。

ここに着目したのが、千葉大学発医療スタートアップの株式会社Smart119(以下、Smart119社)です。Smart119社は、救急医療の現役医師である中田氏がCEOを務め、救急医療に関連するSaaSを展開しています。

今回、救急情報システム「Smart119」と世界的位置情報アプリ「what3words」を連携し、119番通報者の居場所をピンポイントで特定する新機能開発に着手しました。

救急情報システム「Smart119」で何が実現できるのか、「what3words」との連携でどんな課題を解決するのか、同社CTOの山尾恭生氏に話を伺いました。

テクノロジーで救急医療の現場を変える

──Smart119社の概要を教えてください。

山尾:Smart119は、救急医療における課題をテクノロジーで解決することで、より多くの命を救うことをミッションに掲げる企業です。

事業としては、救急医療に関連するSaaS型ソフトウェアの開発・提供をしています。CEOの中田をはじめ医療現場の人間がチームを組織しているため、専門知見を用いたソフトウエア開発やAI解析が強みです。地方自治体や医療機関と連携しながら、救急医療のDX化を推進しています。

──救急医療の現場において、DX化は進んでいるのでしょうか。

山尾:いまだにアナログな部分が多いですね。

救急搬送する際も、通報を受けた指令センターが救急隊に情報を伝え、そこから救急隊が医療機関に電話連絡するというリレー方式になっています。「48歳男性、頭痛を訴えており、既往歴は……」といった内容を電話口で説明する必要があるんです。

もし、その医療機関での受け入れが不可能であれば、他の医療機関に再度同じ説明を一からしなくてはならないという問題もあります。

アナログであるがゆえに、時間のロスが起こっているのが現状です。

──そこに、課題感を抱いたと。

山尾:はい。救急情報システム「Smart119」は、先ほど申し上げたアナログなプロセスを解決する仕組みとして開発しました。

ステップとしてはまず、患者さんの情報を救急隊がタブレットに入力し、医療機関を複数選択します。すると、病院側のパソコンやタブレットに情報が表示されるため、医師や看護師が受け入れ可否のボタンを押します。その可否情報をもとに、一番近い医療機関に搬送するという流れです。

──リレー方式で確認する必要はなくなるということですね。かなりの時間短縮になるのではないでしょうか。

山尾:山梨県でおこなった実証実験では、医療機関を決めるまでの時間が約60〜70%短縮できたというデータが出ました。

消防隊からは、「傷病者の患部の状態、交通事故の状況、心電図モニターなどを撮影して送ることができるので、情報量を多く伝達できると感じた」などの感想をいただいています。

搬入中に患部の写真やバイタルも伝達できるので、受け入れ側の医療機関からも時間短縮や正確さの面で一定の評価を受けることができました。

3つの言葉で位置情報を共有、迅速な救助が可能に

── 今回「Smart119」と連携した「what3words」は、どういった場面で用いられるのでしょうか。

山尾:119通報者が救急車を呼ぶシーンで用いられます。

これまでの「Smart119」は、消防司令センターの救急要請から医療機関への搬入・受け入れまでを効率化するシステムでした。そのため、おもに救急隊員や医療従事者の利用を想定した機能開発をおこなってきました。

「what3words」と連携し開発した新機能は、119通報者、つまり一般の方が使えるものです。今回の取り組みにより、なおのこと救急搬送の効率化がめざせると考えています。

──「what3words」とは何か、具体的に教えてください。

山尾:地球上を3m×3mで区切り、それぞれの区画に3つの単語で構成する「3ワードアドレス」を割り当てるというものです。「///しなやか・はれぎ・ききょう」のように、シンプルな3つの単語によって、正確な居場所を共有することができます。

──「Smart119」とはどのように連携するのでしょうか?

山尾:まず、119番通報者のスマートフォンなどに「Smart119」のシステムを経由してSMSを送信します。SMSで届いたURLにアクセスすると3つの単語が表示されるので、その単語をオペレーターに伝達します。

オペレーターがコンピューターに入力し、救急隊が位置情報を取得して救助に向かう、という流れです。

──どういった場面で役立つと考えていますか?

山尾:さまざまな場面を想定しています。

たとえば、公園や海辺など広大な場所にいるとき。目印がなくても自分の居場所を正確に伝えられるようになります。地方の場合は、住所自体が広い地域を示すことがあるので、3m×3mというピンポイントなアドレスが役立つと考えます。

交通事故の際にも、交差点のどちら側で倒れているのかを正確に伝えられるので、より迅速な救助ができるようになるはずです。

──素早い対応が必要な救急医療の場で活躍する機能ですね。実運用の目処がありましたら教えてください。

山尾:「what3words」と連携する基本的な機能は完成しているので、要望を受けながら追加開発していくというプロセスです。現在おこなっている実証実験で、有効性を確かめ、年内の実運用をめざしていきます。

アルゴリズムを活用した命を救う仕組み

──「Smart119」に今後追加を予定している機能などがあれば、お聞かせください。

山尾:すでに一部実験的に実装して、検証しているものをご紹介すると、脳と心臓の二大疾患をより早く専門的に治療するためのAIを開発しました。

具体的な疾患としては、脳卒中と心筋梗塞です。この二つは迅速かつ専門的な治療を受ければ命が助かる可能性が高まり、予後がよくなると言われている疾患です。

開発した予測アルゴリズムは非常に高い精度が出ていて、脳卒中に関しては学術論文で効果を報告しており、心筋梗塞も現在論文を提出しているところです。

──具体的にはどういったものなのでしょうか?

山尾:脳卒中の場合を例にご説明します。

これまでに脳卒中の疑いがあった方の症例を1500弱集め、実際に脳卒中だったか否かの診断データを集約し、機械学習してアルゴリズムを作りました。

このアルゴリズムを使って、患者さんのデータや状態をもとに脳卒中なのかをイエスかノーかで判定し、脳卒中のなかでもどの種類にあたるのかを予測していきます。

──AIが判定することで生まれるメリットは何でしょうか?

山尾:専門医がいる病院への素早い搬送が可能となります。

これまでは救急隊の経験に委ねられている部分があったため、脳卒中や心筋梗塞の搬送経験が少なければ、正確なアプローチが難しくなるといった課題がありました。

AIを活用すれば医師側も所見を含めた情報が見られるので、受け入れ可否の判断や治療法の選択がしやすくなりますし、到着次第すぐに治療に取り掛かれるよう準備もできます。

──Smart119社では、医療機関側、患者側と、さまざまな観点から救急現場の課題解決を目指しているのですね。最後に、これからの目標を教えてください。

山尾:引き続き、救急医療の現場で不便なこと、無駄なことを解決していきたいです。そして、救急医療を必要とする患者さんが素早く医療を受けられる世界をつくりたいですね。

CEOの中田は、一人の医者として目の前の患者さんを救いたいという思いだけでなく、救急医療の仕組み自体を変えていきたいという思いで、Smart119を起業しました。現在、救急搬送数は右肩上がりとなっていますが、だからといって救急隊や医療従事者の数を増やすのは容易ではありません。そうなると、これまでのアナログな仕組みに切り込んでいき、変えていく必要があります。

彼のビジョンの実現に貢献できるように、テクノロジー側の人間として、引き続き私もチャレンジを続けたいと思います。

(文・早坂みさと)


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