全車ハイブリッドのe-POWERで帰ってきた“四角い”エクストレイル

四角いエクストレイルが帰ってきた!

やっぱりエクストレイルはこうじゃないと!

8年半ぶりのフルモデルチェンジで新型へとスイッチしたエクストレイルを見て、そう感じた人も多いのではないでしょうか。何を隠そう、筆者自身もそのひとり。

新型エクストレイルは4世代目となりますが、「遊びに使えるタフギア」をキャッチフレーズとし、2000年にデビューした初代や2007年デビューの2世代目は四角いデザインが特徴的。その四角さこそが“エクストレイルらしさ”だったように思えます。

ところが2013年デビューの3世代目はそれまでとは一転して丸みを帯びたデザインに。「なんだかエクストレイルっぽくないな」と思ったのは最初だけで、気が付けば見慣れてしまっていたわけですが、こうしてフルモデルチェンジで四角いデザインのエクストレイルが復活すると、「やっぱりエクストレイルはこうだよね」と思ってしまうのが正直なところ。エクストレイルはやはり四角くてこそではないでしょうか。

■新型エクストレイルは全車がハイブリッド

そんな新型エクストレイルですが、車体サイズは全長が30mm短くなった一方で、全幅は20mmワイドになりました。全長が短くなったとなれば「室内や荷室が狭くなったのでは?」と心配する向きもあるかもしれませんが、そこは問題なし。パッケージングの進化により、後席も荷室も従来以上に広くなっています。

シートレイアウトは基本が2列5人乗りで、4WDモデル(すべてのグレードにFF車と4WD車を設定)の中間グレード「X」のみ3列シートの7人乗りが選択可能。ちなみにハイブリッド車の7人乗りは先代に存在せず、新型の7人乗りはエクストレイル史上初の「7人乗りハイブリッド」となります。

ハイブリッドといえば、日産の決断には驚きました。

なんと、新型エクストレイルは全車がハイブリッドなのです。しかもそのシステムは、先代エクストレイルのハイブリッドから刷新されて「e-POWER(イーパワー)」に。e-POWERはエンジンが発電機に徹し、駆動力はその電気を使ってモーターで生み出すのが特徴。おかげで電気自動車のような静かさと滑らかさ、そしてキレのいい加速をもたらしてくれます。

ガソリン車を廃止し、全車ハイブリッドのe-POWERに。それが新型エクストレイルに起こった最大の変革なのです。

ところで、どうしてガソリン車を設定せずに全車e-POWERとしたのか? たしかにe-POWERが優れたシステムなのは認めますが、構造上どうしてもガソリン車に対する車両価格が上がってしまいます(新型の価格帯は319万8000円~504万6800円で250万円ほどから変えた従来モデルよりもボトム価格が高い)。それがユーザー層を狭めてしまうことは避けられないでしょう。

「日本ではハイブリッドが一般化している。そして、日本にはe-POWERが適しているから」

開発者は、日本向けのエクストレイルがハイブリッドだけになったことをそう説明します。さらには「電動化を推進していくという日産の商品戦略」も関係しているのだとか。

いずれにせよ、新しいエクストレイルはハイブリッドのみの展開。そして注目はe-POWER自体の進化で、何を隠そう従来からある「ノート」や「キックス」、そして「セレナ」用のe-POWERをそのまま搭載したわけではありません。なんと、エンジンは新開発の1.5Lターボ(従来は1.2Lの自然吸気)なのです。

■アクセル全開時でも静粛性が高い

このエンジンは技術的にも相当興味深いもの。「可変圧縮」という技術が組み込まれていて、通常のエンジンだと一定になっている“圧縮比(爆発力を高めるためガソリンと空気の混合気を圧縮する比率)”が、走行状態に応じて8:1から14:1まで自在に変化するのです。

その機構により、パワーが必要な状況は“低圧縮×ターボを強く効かせる”、一方で燃費を重視する状況では“高圧縮×ターボ控えめ”とエンジンの特性を変化させられるのがこの仕掛けのキモ。ちなみにこの技術を市販車に搭載しているのは日産だけという、凄い仕掛けです。

走りはどうか?

静かで滑らかなのかノートなどこれまでのe-POWER車と同じですが、加速が力強くなっているのが印象的。アクセルを踏み込むとグングン加速していくし、追い越し加速ではアクセル操作に対する反応の良さがさすがモーター駆動車です。

予想外だったのは、通常時はもちろんアクセル全開時でも音が静かなこと。太いトルクを発生できる可変圧縮ターボエンジンを搭載したことで、求めるパワー(発電量)を得られるエンジン回転数を下げることができ、それがエンジン音の低減につながったというわけ。全開加速時の静かさは、ちょっと…いやかなり驚くレベルです。

また、4WDモデルには「e-4ORCE」と呼ぶ新開発のシステムを搭載していますが、これも注目のメカニズム。後輪をモーターで駆動するのが従来のエクストレイルに搭載していたタイプともっとも異なる特徴ですが、モーターとブレーキを使って4本のタイヤそれぞれの駆動力を積極的にコントロールします。

おかげで雪道やオフロードでは走破性、ワインディングロードに加えて雪道でのハンドリング、さらには市街地では乗り心地まで向上させる制御になっていて、それがこのシステムのメリット。エクストレイルの魅力をさらに高めてくれます。

実は、新型エクストレイルは北米では「ローグ」として2020年秋からひとあし早く販売され、2021年からは中国でも販売が始まっていました。それらの地域に比べると日本での発売が遅いのは事実ですが、何を隠そう「e-POWER」や「e-4ORCE」の搭載は日本向けがはじめて。

日本のカスタマーが新型エクストレイルを待たされたのは事実ですが、日本向けには新技術を搭載しているのです。待った甲斐があったのか? と問われれば、答えはもちろん「イエス」でしょう。

<SPECIFICATIONS>
☆G e-4ORCE
ボディサイズ:L4660×W1840×H1720mm
車重:1880kg
駆動方式:4WD
エンジン:1497cc 直列3気筒 DOHCターボ
エンジン最高出力:144馬力/4400-5000回転
エンジン最大トルク:250Nm/2400-4000回転
フロントモーター最高出力:204馬力/3183〜8500回転
フロントモーター最大トルク:330Nm/0〜3505回転
リヤモーター最高出力:136馬力/3183〜8500回転
リヤモーター最大トルク:195Nm/0〜4897回転
価格:286万9900円

<文/工藤貴宏 写真/五十嵐真(IGASTA)>

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

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