面倒なイメージがあり、なかなか足が向かない歯医者への通院。痛みがあるわけではない場合は、とくに先延ばしになりがちです。一方で、政府の「骨太方針2022」では、全ての国民に毎年の歯科検診を義務付ける「国民皆歯科健診」の導入検討が開始され、歯の健康に対する注目は高まっています。
そんな歯科検診に革命をもたらそうとしているのが、歯医者のDXを推進する株式会社Oh my teethです。同社ではこれまで、初回の来院後はLINEで歯科医師のサポートを受けることで最低1回の通院で矯正やホワイトニングを行えるサービスを提供してきました。
そして7月から新たに、無料で歯の健康をチェックできる「3Dスキャン歯科検診」をスタート。なぜ、無料での提供を開始したのでしょうか?型破りな歯科クリニックの形を実現した背景は?代表取締役CEOの西野 誠氏にうかがいました。
3Dスキャンとレントゲンで歯科検診が完了
——今回、「3Dスキャン歯科健診」を実際に体験させていただきましたが、この検診ではどこまでのことがわかるのでしょうか?
西野:歯並びや歯石や虫歯、歯周病の有無、歯茎の状態など、通常の歯科検診で調べていることはおおよそわかります。検査とその後の説明は歯科医師が担当し、3Dスキャンとレントゲンの結果を見ながら、その場ですぐに問題点を確認できることが特徴です。
ただし、治療は行っていないので、検診の結果何かしら問題が見つかった場合は、ご自身で最寄りの歯医者さんに行って治療を受けていただくことになります。
——そこまで本格的な検査を無料で提供してしまって大丈夫なのですか?
西野:はい。私たちは歯科をもっと身近にしたいと考えているからです。
まずは、無料の歯科検診を通して歯の状態に関心を持っていただくことで、歯並びや着色などをなおしたいと考えるようになる方もいらっしゃるはずなので、その先でサービスを提供できればと思っています。
自分の歯の3Dデータだから説明にも説得力
——3Dスキャンの機器は他の歯医者さんではあまり見かけない気がします。
西野:歯科矯正専門の歯科医院などでは導入しているところもありますが、高価な機器ということもあり、一般歯科にはほとんど導入されていません。ちなみに一般的な歯科では、粘土のようなものを歯に押しつけて型取りをして模型を作っています。
——あの粘土の型取りの代わりですか!納得しました。これを使うメリットについてお聞かせください。
西野:型取りから模型を作る場合、仕上がりまでに時間がかかるためその日のうちに見ることはできません。3Dスキャンならリアルタイムでデータが表示され、そのまま説明もできるので検診にも適していると考えています。
——自分の歯の3Dデータを見ながら説明を聞くのは不思議な感じがしましたが、たしかにわかりやすさはありました。
西野:歯医者に対する苦手意識は、「説明を聞いてもよくわからない」に由来する部分も大きいと考えています。自分の歯の3Dデータが目の前にあって、「ここがガタガタしている」「ここは重なっているから磨き残しが出やすい」などと説明されれば納得できるはずです。
自身の経験から、気軽に通える歯医者の必要性を痛感
——クリニックの内観も歯医者さんらしくない雰囲気です。なぜ、このようなサービスを提供しようと思ったのでしょうか?
西野:歯医者に行きづらかったという私自身の体験が元になっています。予約したのに待たされたり、現金しか使えなかったりという不便さや、何となく入りづらいという印象に加えて忙しさもあり、長くメンテナンスを放置していました。
その結果、痛い思いをしたうえに、治療のコストも高くついてしまったことから、「気軽に通える」「忙しくても通える」の2つをクリアしてくれるクリニックが必要だと感じました。
——元々、医療テック関係のお仕事をされていたのでしょうか?
西野:じつは、医療とはまったく関係ない分野のエンジニアをしていたんです。学生時代はインターンとして物流の業務システム開発に携わっていて、その後、新卒で入った会社では大企業向けの基幹システムを効率化するためのシステムを開発していました。
両方に共通するのが「レガシーな業界をテクノロジーを通じてアップデートする」ことだったのですが、それらの仕事を通して気づいたのが、さまざまな体験がテクノロジーでアップデートされているにもかかわらず、歯科体験だけは私が子どもの頃から変化がないということです。この分野はまだテクノロジーが入り切れていないと感じ、Oh my teethを設立しました。
——医療ではない分野からの参入ということで、大変だったことも多かったのではないでしょうか?
西野:大変なことしかなかったですね(笑)。まず、仲間になっていただける歯科医師を探すのが最初のハードルでした。
Oh my teethの創業メンバーと2人で話をしにいったのですが、若いエンジニアが突然そんな話をしても相手にされなかったり、むしろ怒られしまったりということも多く、100人以上にお声がけをしては断られる日々でした。
一方で、業界の外からアプローチするからこそ変えられるという自信は当時から持っていました。
矯正はLINEで相談できることが「安心」との声
——ちなみに歯科矯正はどのような人が受けているのでしょうか?
西野:下は中学生、上は77歳と幅広い年齢層の方にご利用いただいています。平均は32歳で、6.7割が男性です。ビジネスパーソンが身だしなみや自己投資の一環として始めるケースが多い印象です。
——矯正治療中の相談はLINEでできるということですが、いつでも連絡できるのでしょうか?
西野:はい。困ったことがあれば24時間相談が可能で、そこが一番好評をいただいている点です。
始める前は「オンラインだと不安」という声もあるのですが、実際にスタートすると、予約をして通院をしてという従来のプロセスより密にコミュニケーションが取れるので逆に安心だと言っていただけることが多いです。
美容院のように当たり前に通う場にしたい
——今後の展開についてお聞かせください。
西野:Oh my teethの導入クリニックを今後3年以内に70店舗に増やし、2030年には4人に1人が使っているサービスを作りたいと思っています。たとえば美容室のように、月1回とか数か月に1回は定期的に足を運ぶ場所というイメージです。
現在は、歯科矯正のほか自宅でできるホームホワイトニングを扱っているのですが、今後は審美系からラインナップを拡充し、その後、クリーニングや歯石取りといった予防の領域に広げていきたいと考えています。
そして、いずれは治療の領域も提供できればと思っています。ただし保険診療の場合、1回の通院で行える処置の量が決まっているために、何度か通ってもらわなければならないなどの制約が生じてしまいます。「時間がなくても気軽に通える」というOh my teethのコンセプトは大切にしたいので、自由診療を利用してたとえば虫歯治療が1日で完結するようなものを提供していけたらいいですね。
——歯科通院のイメージが大きくかわるサービスだと感じました。
西野:定期的なクリーニングで予防したほうがよいとわかっていても、今困っていない人はなかなか歯医者に足を運ぶことができません。
そこで、まずは審美などの成果を実感しやすいアプローチから始めて、歯の健康を意識する方を増やしていきたいというのが私たちのビジョンです。
気軽に入ることができて、すぐに終わる、そして歯並びがきれいになる、歯のメンテナンスができる。「これが歯医者なのか!」と驚いてもらえるような圧倒的な体験を提供していきたいと考えています。
(文・酒井麻里子)
- Original:https://techable.jp/archives/184774
- Source:Techable(テッカブル) -海外・国内のネットベンチャー系ニュースサイト
- Author:amano
Amazonベストセラー
Now loading...