トヨタの新型「クラウン」は、2022年7月15日に公開され、4車種展開で話題を呼んでいます。そのなかでまっさきに発売されたのが「セダンとSUVを融合させた新しいスタイル」とメーカーが謳う「クラウン・クロスオーバー」。9月下旬に乗りました。
クラウン・クロスオーバーのユニークさは、ファストバックなるスタイルにあります。セダンといえば、トランクが独立した、いわゆる3ボックススタイル。今回のモデルは違います。リアウィンドウがゆるやかに傾斜して独立したトランクがないように見えるスタイル。
▲キャラクターラインをほとんど用いず面の表情(セクションといったりする)で力強さと緊張感を生むスタイリング
▲リアクォーターピラーのデザイン処理がすこしフシギ
街中でシルエットを見ただけで、おっ! と思うはず。そんじょそこらのセダンと違っています。クラウン・クロスオーバーにそもそも興味をもっている人はもちろんすぐ気がつくし、少なからぬ数の人は、斬新なデザインに惹きつけられるのでは。
大きなタイヤと組み合わされたファストバックボディという個性的なプロポーション。加えて、薄いヘッドランプとLEDのシグネチャーランプ。グリルレスのフロントマスクも大胆です。
■従来シリーズとは明らかに一線を画した操縦感覚
▲ルーフがなだらかにリアエンドまで続くファストバックスタイルには躍動感がある
今回試乗したのは、「クロスオーバーG アドバンスト・レザーパッケージ」。ぜいたく仕様です。ドライブトレインは、2.5リッター4気筒エンジンに電気モーターを組み合わせた、トヨタが自家薬籠中のものとするシリーズパラレルハイブリッド。後輪は電気モーターで駆動する“E-Four”です。
このパワートレインとクラウンの組み合わせ、先代にあたる15代目にもありました。なので、新味がないように思えるかもしれません。しかし、新型クラウン・クロスオーバー、しっかり新しい。それは、ファントゥドライブ。従来のクラウンシリーズとはあきらかに一線を画した操縦感覚。これこそ注目すべき新しさだと私は思いました。
ひとことで私の感想をいうと、この2.5リッターハイブリッド車でクラウンは充分。ほかはいらないと思えるほど完成度が高いモデルです。金属バネと油圧のダンパーを使った伝統的な足まわりですが、セッティングがたいへんうまく、乗り心地は快適。かつステアリングホイールを操作したときの動きも実にナチュラルです。
開発陣はいろいろ苦労したようです。新型クラウンは、「GA-K」というカムリやハリアーと共通のプラットフォームを用いています。前輪駆動用のプラットフォームです。それを使いながら、クラウンの「原点回帰」なんてムズカシイことを成し遂げなくてはならなかったといいます、
ほかとは一線を画したクラウンを作りあげるため、開発陣は、フロントの一部以外は「ほとんどが新たな専用設計をしました」と、開発を指揮したトヨタ自動車ミッドサイズビークルカンパニーの皿田明弘チーフエンジニアは教えてくれました。
「気をつかったのは、乗り味です。ザラザラした路面でも空飛ぶじゅうたん感を実現しようと努めました」。ミッドサイズビークルカンパニーのシャシー設計部の源内隆夫主査は隣からそう説明してくれました。ひと言でいうと快適性の追求です。
「クルマの操縦で生まれるさまざまな方向からのG(車両にかかる重力)をうまくいなして快適に乗っていただけるようにサスペンションをセッティングしました」
まさに、そここそ、いいなあと私が感心したポイントです。
ステアリングホイールを切ったときの操舵感と、車体の動きと、加速と減速とが、すべてがきれいに統合されている操縦感覚。ホイールベースが2850mmもあり、後席も空間的余裕がたっぷり。ゆったりした気分で走ると快適です。上質感はたっぷりと感じられるはずです。
いっぽう“その気”になって、速く走らせようとしたとき、その気持ちにもしっかり応えてくれるクルマです。2.5リッターのパワーユニットのエンジン音はやや大きめなのですが、ちょっとひいき目で見れば、それもまたドライバーのやる気を盛り立ててくれる小道具と言って言えないこともないように思えました。
車体のロールはゆっくりめ。ステアリングは正確です。カーブでは、ステアリングホイールを切り増ししたり、あるいは戻したりなんてしないでしょう。びしっと、自分がイメージしたとおりに走らせることが出来るはずです。
■標準で備える後輪操舵システム
実は、クラウン・クロスオーバーはすべてのモデルが後輪操舵システムを標準で備えています。理由は「クラウンに期待される扱いやすさを実現するためです」と前出の源内さん。
後輪操舵システムのメリットは、低速だと前輪と逆位相(反対方向)に後輪が動いて小回りが効くこと。いっぽう高速だと同位相に動くことで、仮想ホイールベースが長くなり安定性が増すのです。
昨今はドイツ車をはじめ、多くの高級車でお目にかかるようになった後輪操舵ですが、クラウンには独自性があります。それは「後輪が動いていないような自然な動きの実現」(源内さん)です。
外から見ていると、モーターの力で後輪がけっこう大きく動くのがわかるようですが、ドライバーには違和感はまったくなく(時々動きに違和感のあるモデルがあります)、たんに“取り回しが楽だなあ”と漠然と思うぐらいでしょう。
▲機能的で扱いやすいダッシュボードだが、デザイン的な新しさがもう少し欲しい気も
▲ホワイトのレザーシートをそなえる「G Advanced Leather Package」は570万円
▲広々として居心地のいい後席だけれど、やや”色気”(英語だとインバイティングな雰囲気)にとぼしいかも
インテリアは、エクステリアほどの斬新さはなく、従来からの延長線上。落ち着く空間です。けれど、輸出を視野に入れているそうなので、もうすこし個性を作りこんでみてもよかったようにも思いました。トヨタのデザイナーの力量はそうとうなはずなので、新しい高級車像を見せてもらいたいものです。
▲トランクは独立していて容量は450リッターでゴルフバッグ3つ収納可能という
クラウンは今回、4車種展開になることは冒頭で触れたとおりです。「当初はこのクロスオーバーだけの予定でした」と皿田さんは明かしてくれました。
「ほかのメーカーには作れない個性がきちんと作りあげられたという自負がありました」と皿田さん。ところが、というべきか、豊田章男社長は、出来上がったこのクルマを見て、「つぎにセダンもやってみる?」と言い、クラウンは4車種になったとか。
おもしろいもんですねー。でも皿田さんは「クロスオーバーが次世代のデファクト(スタンダード=「事実上の標準」の意)になると思っていただきたいです」ときっぱり。せっかく個性的なデザインが確立したのだから、そうこなくちゃ、と私も思いました。
【Specifications】
☆トヨタ・クラウン・クロスオーバーG
全長×全幅×全高:4930x1840x1540mm
ホイールベース:2850mm
エンジン:シリーズパラレルハイブリッド
2487cc直列4気筒ガソリン 電気モーター2基 4輪駆動
最高出力:エンジン137kW モーターフロント88kW、リア40kW
最大トルク:エンジン221Nm モーターフロント202Nm、リア171Nm
燃費:22.4km/L(WLTC)
価格:475万円〜
<文/小川フミオ>
オガワ・フミオ|自動車雑誌、グルメ誌、ライフスタイル誌の編集長を歴任。現在フリーランスのジャーナリストとして、自動車を中心にさまざまな分野の事柄について、幅広いメディアで執筆中
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