青春時代をバイクとともに過ごし、再び乗りたいと考えている人におすすめしたいのが、ミドルクラスと呼ばれる600ccくらいの排気量のマシンです。
世界的に売れ筋のクラスだけに、ラインナップが寂しくなっている国内の400ccクラスと比べて、輸入車も含め選択肢が多いというのが理由のひとつ。“中免”と呼ばれていた普通自動二輪免許しか持っていないという人も少なくないかもしれませんが、リターンするにあたって、もう一度教習所に通って大型免許を取得しておくというのも悪くありません。
車体の取り回しもしやすく、パワーも十分以上ですが、リッターマシンのように扱いきれないほどのハイパワーではないので、反応の遅くなってきた中年ライダーでも安心感が高いのもポイント。
今回は、そんなクラスの中から、輸入車でありながら100万円以下の価格を実現し、乗りやすさにも定評のあるトライアンフの「トライデント660」を紹介します。
■トライアンフのアイコンである3気筒エンジンを搭載
エンジンは660ccの3気筒。4気筒の滑らかな回転上昇と、2気筒のトラクション性能の良いとこどりを実現したといわれ、近年はMoto GPのMoto2クラスにも供給されているトライアンフのアイコン的なエンジンです。最高出力は81PSで、最大トルクは64Nm。このモデル向けに約70%の部品を新設計し、ロングストロークでストリート寄りな味付けとされています。
同社には765ccで118PSを発揮する「ストリートトリプル」というマシンもありますが、そちらに比べるとストリートでの扱いやすさを重視した特性とされているのも、リターンライダーにおすすめしやすい理由です。
それでいて、ショートタイプのマフラーから吐き出される排気音は3気筒らしく歯切れの良いもので、ライダーのマインドを高めます。
近年のトライアンフのマシンは、モダンクラシックと呼ばれるラインと、「ストリートトリプル」のようなストリートファイター的なデザインが主流ですが、「トライデント660」は両者の要素を掛け合わせたようなシルエット。丸目1灯のヘッドライトを採用し、オーソドックスなティアドロップ形状のタンクには、車名ロゴの入ったニーパッドが装備されています。
テール側に目を向けると、シートはストリートファイター的なスリムで切れ上がったようなデザイン。泥除けも兼ねるナンバープレートホルダーは、スイングアームにマウントされ、シュッとしたシルエットを強調しています。
フロントフォークはショーワ製41mm径の倒立式。アウターチューブがブラックとされているのが、スタイルを引き締めるのに一役買っています。フロントブレーキはダブルディスクで、ピンスライド式のキャリパーを採用しています。
■扱いやすいがキレのある走りが楽しい
またがってみると、想像以上に車体がコンパクトに感じます。シート高は805mmですが、足付き性も良好。幅の狭い3気筒エンジンが貢献しているようです。車体重量も190kgで取り回しもしやすく、初めての大型バイクとして選んでも戸惑うことはなさそう。アップライトなハンドル位置で、乗車姿勢がキツくないのも中年ライダーにはありがたいところです。
軽めのクラッチを握って走り出すと、思っていた以上に乗りやすいエンジンフィーリング。低回転からトルクがあるのですが、アクセルのレスポンスが尖りすぎないので、安心してアクセルを開けられる特性です。これなら街乗りや渋滞にハマってもストレスが少なそう。
それでいて、6000回転を超えた辺りからパワーが盛り上がり、1万回転オーバーまで軽快に回ります。まさに2気筒と3気筒の良いとこどりを実現したフィーリングでした。
倒し込みの操作も軽快で、タイトなワインディングも楽しめそう。さらにバンク中の安定感も高い。このあたりは、近年のトレンドである長めのスイングアームが効いているのでしょう。
安心してアクセルを開けられるエンジン特性は、コーナーリングにも効いていて、試乗時は路面がかなりウェットでしたが、早めからアクセルを開けて車体を安定させられました。
ライディングモードは「ROAD」と「RAIN」の2種類が用意されていますが、素直なエンジン特性で扱いやすいため、ウェット路面を「ROAD」モードで走っても怖くないくらい。それでいて、ストレートでしっかりアクセルを開けると俊敏な加速が味わえます。
サイズ感や軽さ、パワー特性などすべてがちょうどいいので、街中から高速道路を使ったツーリングまで幅広いシーンで楽しめそう。過去にレーサーレプリカを乗り回していたようなライダーも、ネイキッドスタイルの味わいのあるマシンに乗りたいような人まで、幅広い層におすすめできます。
●SPEC
エンジン:660cc 水冷並列3気筒DOHC12バルブ
最高出力:81PS/10250rpm
最大トルク:64Nm/6250rpm
重量:190kg
価格:99万3000円
<取材・文/増谷茂樹>
増谷茂樹|編集プロダクションやモノ系雑誌の編集部などを経て、フリーランスのライターに。クルマ、バイク、自転車など、タイヤの付いている乗り物が好物。専門的な情報をできるだけ分かりやすく書くことを信条に、さまざまな雑誌やWebメディアに寄稿している。
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