不動産広告の「おとり物件」 業界大手のLIFULLが語る撲滅への取り組み

インターネットで良い物件を見つけたものの、不動産会社に問い合わせたら「その物件はもう決まりました」と言われた…という経験をした人は多いのではないでしょうか。

また、不動産会社から「借り手・住み手が決まった」と言われた物件が、インターネット上に掲載され続けていて混乱した人も少なくないでしょう。

そんな「おとり物件」の現状と撲滅に向けた取り組みについて、株式会社LIFULL 情報審査グループ長の宮廻優子氏にご寄稿いただきました。

不動産広告の「おとり物件」とは

厚生労働省が2016年に行った人口移動調査によると、調査対象となった0歳から85歳超の人々の平均引っ越し回数は3.04回。少なくとも人生において3回程度は住まい探しを行うことになります。

新たな住まいを探す手段として、店舗に直接訪問するケースもありますが、場所を問わず最も手軽に多く情報を得るためにインターネットを利用する人も多いでしょう。

これからの生活に夢を膨らませながらインターネット上に掲載されている不動産広告を閲覧する人もたくさんいると思いますが、全ての募集中物件がいつでも入居可能な物件かと問われると、そうではない場合があります。

「ここに住みたい!」とインターネット経由で不動産会社宛に問い合わせたものの、「その物件はもう決まりました」と言われた経験をした人は少なくないでしょう。また、「もう決まりました」と言われた物件が、インターネット上に掲載され続けていて混乱する人もいるのではないでしょうか。

そういった物件は、「おとり物件」である可能性があります。

かつての不動産広告では、物件自体が存在していないのに広告したり、物件は存在しているものの貸す(売る)意思がない物件を集客目的に使ったりするという、悪質なおとり物件がありました。

しかし、現在はそのような類よりも、大多数はヒューマンエラーや、不動産業界の仕組み上最新情報が判別できないことによって起こっている場合が多いようです。

悪質に利用されている場合、仕組み上の不備によりヒューマンエラーで募集終了物件が掲載されている場合、いずれの場合も発生理由を問わず、人が住むことができないならば「おとり物件」と呼ばれるものに該当することとなります 。

約半数が「募集終了物件の遭遇経験あり」

今年1月、LIFULLでは、18歳~69歳の消費者の計9,104名(男性4,446名 女性4,658名)に対して募集終了物件への遭遇経験についてインターネット調査を実施しました。

この調査の結果、直近3年間においてインターネットの住宅総合検索サイト(LIFULL HOME’S以外も含む)で検索を利用した人のうち、約半数(47%)が「募集終了物件の遭遇経験あり」という結果となりました。

また、「募集終了物件の遭遇経験あり」と回答した人のうち、約8割(81.6%)が「残念な気持ちはあったが、仕方がないと納得した」と回答。消費者の多くは「おとり物件は仕方ないもの」と認識していることが分かりました。

つまり、消費者には、募集終了物件が「おとり物件」なのかを確認する方法がなく、「そういうものか」と納得せざるを得ない状況なのです。

不動産会社の役割~仲介、管理、とは?

一言で「不動産会社」といっても、その役割はひとくくりにはできません。「物件を所有する貸主(法人の場合も個人の場合もある)」「貸主から預かって物件管理をする管理会社」「物件と消費者を結びつける(いわゆる客付け行為)仲介会社」と、それぞれがメインで行う役割が異なります。

たとえば「インターネットへの物件広告や、物件の案内など、契約までの対応を行うのが仲介会社」「入居してから退去までの対応を行うのが管理会社」と考えると、イメージが付きやすいでしょうか。

物件広告を掲載するために、仲介会社は貸主や管理会社に家賃や諸条件の確認を行って最新情報を取得します。速やかに物件と入居者を結びつけるために、複数の仲介会社それぞれが1つの物件に対して管理会社に連絡をして広告掲載と並行して客付け行為を開始するのが一般的です。

そのため、Aという仲介会社の広告に問い合わせが入った段階で、Bという仲介会社では内見をしている、というケースは頻繁に起こりえます。

よって、一概に「その物件はもう決まりました」と言われた物件が、一律に悪質なおとり物件だ、と決めつけることは困難です。不動産は唯一無二であると同時に、リアルタイムで情報を取得できない構造上の問題があるからです。

不動産IDでおとり問題は解決するのか?

ここ数年、国土交通省(以下、国交省)を中心として不動産IDのルール化が検討されています。不動産IDによって、おとり問題が解決する、という見出しの記事が記憶にある人もいらっしゃるのではないでしょうか。

不動産IDとは、簡単に説明すると「物件を特定するためのユニーク番号」です。ただ単にユニーク番号を採番するのでは意味がなく、採番した番号を活用するための仕組みをセットにする必要があります。逆に「その仕組みがなければおとり物件の問題は解決できない」と言っても良いでしょう。

たとえば、全ての物件に不動産IDを発番して格納できるデータベースを作成し「管理会社も仲介会社も不動産IDを利用して成約、申込、退去といった情報の受け渡しを行い、ポータルサイトへの掲載指示を出せる」という仕組みがあれば、管理会社や仲介会社間でもリアルタイムに情報の利用ができるようになり、そもそも成約済み物件がポータルサイトに掲載され続ける、ということがなくなるでしょう。

現状、国交省で不動産IDルールが整備されており、今後、仕組み化も慎重に検討されていくものと思われるため、業務改善のためのIT化に留まらず、構造改革とも言えるDX化に向けた一歩となることを強く期待しています。

業界初、LIFULL HOME’Sの取り組み

弊社が運営をする日本最大級の不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」では、サイト立ち上げ当初から情報審査部門を設置しており、掲載物件への消費者からの問合せ対応や、おとり物件の可能性がある物件の能動的な調査を実施しています。

ただし、人の手で調査できる数には限りがあるため、特に能動的な調査については部分的な対応に留まる状況でした。

そこで、LIFULL HOME‘Sに掲載されている約500万物件をより網羅的に対処するための検討を開始。2018年より、おとり物件の可能性がある物件を検知するシステムを稼働して、募集が終了したと想定される物件をLIFULL HOME‘Sから自動で非掲載にする仕組みをリリースしました。

このシステムを活用していくために、まずは賃貸物件でおとり物件の可能性が高い情報を取得する柱となる2つ取り組みを行っています。

①不動産管理会社から情報提供を受ける

1つは、物件の申込、退去といった最新のステータスを持つ不動産管理会社から情報提供を受けることです。

現在、この取り組みに賛同頂いている管理会社の管理総戸数は約150万戸あり、この中から募集終了が発生するとLIFULL HOME‘Sの掲載物件と照合をかけ、募集終了物件をサイトから非掲載にする仕組みとなっています。

②募集終了している可能性が高い物件を非掲載

もう1つは、LIFULL HOME’Sに掲載されている物件で複数の不動産会社が広告していたものについて、おおむね多くの不動産会社が非掲載にした場合、募集が終了している可能性が高い物件として、LIFULL HOME’Sから非掲載にする仕組みです。違反を弊社自ら見つけ出すために、今後も拡大していく予定です。

これらの対応を行う事で、専門人員による手動の調査実施時と比較して、調査物件数は約10倍となり、消費者のためだけではなく、不動産広告を取り扱う仲介会社での業務工数の削減にも繋がると考えています。

「最も正しい情報があり、最も効率よく部屋探しができるサイト」を目指して

私どもポータルサイトを運営する企業として、最も大切なのは「消費者が安心して利用できる便利なサービスを提供できるか」ということに尽きます。

人が住まいを探す大切なタイミングで、不要な時間やコストをかけることなく、スムーズに希望物件にたどり着けるような仕組みにしなければならないし、インターネットの媒体とはそうあるべきだと考えています。

今後もLIFULL HOME’Sは、おとり物件を始めとする違反物件をなくす取り組みを強化継続し、情報精度No.1を目指し、「最も正しい情報があり、最も効率よく部屋探しができるサイト」となるために邁進していきます。

<筆者プロフィール>

宮廻優子(みやさこゆうこ)
株式会社LIFULL
LIFULL HOME’S事業本部事業統括部事業支援ユニット情報審査グループ グループ長

2006年9月に株式会社LIFULLに入社し、情報審査グループに所属。LIFULL HOME’Sの広告審査業務やガイドライン作成などに取り組む。2008年から2010年までは新規事業本部にて保険事業の業務に携わり、2010年10月より再び情報審査グループに所属。2018年10月より情報審査グループ長を務める。「圧倒的な安心を提供する」ことをグループビジョンに掲げて、不動産広告の精度を仕組み化によって加速させることにより、消費者のスムーズな部屋探しに寄与できるよう取り組んでいる。


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