スタートアップはいつノーコードから自社開発に移行すべき? いつまでもZapier全依存は厳しい

通わないマウスピース矯正「Oh my teeth」を運営する株式会社Oh my teeth(以下、Oh my teeth)。同社では、歯科クリニックがマウスピース矯正のユーザーと共有できるカルテシステムの開発をはじめ、さまざまな取り組みを実施しています。

前回は同社が目指す「歯科体験」についてOh my teethのTech Lead(テックリード)である杉浦輝希氏にご寄稿いただきました。

今回はそんな新たな歯科体験を目指す中で、どのようにノーコードサービスを活用していったのか、またどのようにノーコードから自社での開発に移行したのかを杉浦氏に解説していただきます。

ノーコードサービスによるPoC(概念実証)

スタートアップでは、まだ利益を生むか分からないビジネスモデルで扱うシステムを堅牢に作り込むことはコストとスピードが見合わないことは明白です。

「未来の歯科体験」の実現のために日々活動しているOh my teethでは、創業当初はシステムの大半をSaaS(Software as a Service)を活用し、それらをノーコードサービス(ソースコードの記述をせずにアプリケーションやWebサービスの開発が可能になる)で繋ぎ合わせることでほぼプログラミングせずにシステムを動かしていました。

Oh my teethではLINEを使ってユーザーとコミュニケーションを取っています。

Oh my teethのシステムはCRM(Customer Relationship Management)顧客関係管理のSalesforceや決済サービスのStripe、予約管理のCalendlyなどをノーコードサービスのZapier(ノーコードでワークフローを自動化)を使って繋ぎ合わせ、システムの根幹となるLINEにメッセージを送信する部分のみ自社でAPIを作成し、それをZapierから呼び出す構成としていました。

予約が確定したらZapierによって処理される

プログラミングを極力行わないシステムの基本設計にすることでエンジニアではないビジネスサイドの人間がビジネスロジックを変更することが可能になり、よりスピーディなPoC(概念実証)を進めることができました。月間にZapierで動くタスク量は、20万件に及んでいました。

プロダクトが軌道に乗ってきた時にやってきた課題

サクッとビジネスロジックを変更できることで状況の変化にすぐに対応でき、スモールスタートが可能でした。

Oh my teethでは、2020年10月26日にOh my teeth導入クリニック「東京表参道矯正歯科」がオープンし、このころから徐々にユーザーが増え、SaaSとノーコードサービスを組み合わせたシステムでは以下のような課題が見えてきました。

・処理が遅い
・テスト環境がない
・ランニングコストの増加
・Zapier障害時にほぼすべてのシステムが止まる

Zapierはアメリカのサーバで稼働していますが、Salesforceやデータベースの基盤は日本にあるためZapierがSalesforceにアクセスする度に太平洋を往復するような通信が発生し、それが積み重なり一時期Calendlyで予約が確定した際の処理が終わるまで1分以上掛かる時もありました。

また、テスト環境がなかったためZapierで実装した処理を変更するとすぐに本番環境に反映されてしまうため、文言を少し変更する程度ならまだ良いですが、大きめの変更を加える際は非常に慎重に作業を行う必要がありました。

当時はZapierを編集するとその処理が一時的に止まってしまう仕様だったため、深夜に作業を行うことも多々ありました(現在は変更をパブリッシュする際の一瞬のみ止まる仕様に改良されています)。

Zapierの費用は実行回数のため、ユーザー数が増えるとそれに比例して費用も増えていきます。最初は数百ドルで済んでいたコストが、いつしか数千ドルまで増えていき無視できない額まで増えていました。

ある時、Oh my teethのLINE上のリッチメニューやボタンが全く反応しないと報告があり調査したところZapierの障害でWebhookが全く動作しておらずユーザー対応とデータのリカバリーで苦労しました。

Oh my teethが考える、ノーコードサービスから堅牢な自社開発システムに移行するタイミング

先述の課題よりも、エンジニアでなくても容易にZapierの変更が可能であるという利点が勝っている時は特に問題ありません。

しかし、ビジネスが安定していくにつれて頻繁にZapierを変更する必要がなくなってくるため、エンジニアでなくても容易に変更可能であるという利点が薄れていきます。

そうして、この利点よりも先述の課題が大きくなりだした時がシステムの自社開発に乗り出すタイミングだと考えています。

Oh my teethでは現在8割ほどZapierで実装されたビジネスロジックのAWS(Amazon Web Services)移行が完了していますが、一部はZapierに残っています。Zapierで実装していたほうがメリットがある部分のみZapierに残し、そうでない部分についてはAWSに移行しています。

歯科業界を変える Oh my teeth

プロダクトのPoCを終えたOh my teethは、歯科業界のアナログなところをすべて変えて全く新しい歯医者になることを目指しています。

新しいプロダクトを開発する際はSaaSやノーコードサービスと自社開発システムをうまく使いわけて、ユーザーに価値をスピーディに提供することを心がけています。

自宅でできるマウスピース矯正「Oh my teeth」

<著者プロフィール>

杉浦輝希
株式会社Oh my teeth Tech Lead

中学時代からプログラミングにのめり込み、高校入学前からエンジニアになることを決意。母子家庭だったことから大学には行かず就職して働きながらエンジニアリングの勉強を続け、20歳でフリーランスエンジニアとしてスタートアップのテックリードやIT企業のSE業務を歴任。2021年からOh my teethにテックリードとして参画し、現在に至る。


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