ドコモは、デジタル口座サービスの「dスマートバンク」を2022年12月に開始しました。同アプリは、銀行口座を扱うためのもので、現状では、口座残高や出入金の履歴を確認することが可能。
「貯金箱」という仕組みもあり、これを使うと仮想的に口座を分けることができます。口座に残しておきたい貯金と、日々の生活で使う資金を1つの銀行口座内で管理したいときに役立つ機能。
貯金箱の代わりとして、ドコモの資産運用サービスである「THEO+docomo」にお金を預けることもできます。
銀行口座といっても、ドコモ自身が銀行業を始めたわけではありません。dスマートバンクは、三菱UFJ銀行のAPIを使って実現したサービス。dスマートバンクから簡単に三菱UFJ銀行の口座を開設できるほか、既存の三菱UFJ銀行口座をdスマートバンクに紐づけることもできます。
口座はあくまで三菱UFJ銀行のもの。ATMや支店などは、すべて三菱UFJ銀行を使う形になります。dスマートバンクは、三菱UFJ銀行側の口座情報を参照するためのアプリと言えるでしょう。
こうしたサービスは、「BaaS(Banking as a Service)」と呼ばれています。銀行業を持たない事業者が、APIを通じて一部の自身の顧客に直接提供できるのが魅力です。
dスマートバンクの場合、ドコモがドコモの契約者に対し、あたかも銀行を始めたような形で金融サービスを届けることができるというわけです。
銀行を新規開設するためには免許が必要で、体制も整えなければならないため、時間やコストがかかります。
一方で、非銀行業が銀行の持つすべてのサービスを必要としているわけではありません。ドコモであれば、住宅ローンや企業への融資が必要かと言えば、そうではないでしょう。
あくまで、自社の持つ金融・決済サービスの使い勝手を高めるためのサービスだからです。このような場合、銀行をゼロベースで設立するより、既存の銀行が提供するBaaSを使ってサービスを立ち上げた方が、スピード感が上がり、リスクを抑えることができます。
APIを提供する側の銀行側の魅力は、これまでアプローチできていなかった顧客を取り込めるところにあります。dスマートバンク開始時にも、三菱UFJ銀行側は、ドコモの8000万を超えるユーザーと、スマホを介した接点が持てる可能性があることを魅力に挙げていました。
既存の銀行とは異なるユーザーを抱える事業者はドコモに限らず、BaaSは徐々に広がりつつあります。例えば、ヤマダ電機の「ヤマダNEOBANK」は、同様にBaaSで実現したサービス。
こちらも、銀行業そのものではなく、住信SBIネット銀行のいち支店として提供されていますが、ヤマダ電機で銀行口座から引き落とされる「ヤマダPAY」を利用すると、利用額の1%がポイントとして付与される特典があります。
また、ヤマダNEOBANKでは住宅ローンも提供されていますが、これも、住宅関連事業を展開するヤマダ電機グループとの相性がよさそうです。
また、第一生命保険は、1月11日に「第一生命NEOBANK」と「楽天銀行 第一生命支店」の2つを開始しました。前者はヤマダNEOBANKと同じ住信SBIネット銀行、後者は楽天銀行を活用したBaaSのサービス。ドコモやヤマダ電機とは異なり、2つの銀行からサービスを選べるのが特徴と言えるでしょう。
さらに、東日本旅客鉄道(JR東日本)も、ビューカードとともに「JRE BANK」を2024年春に開設する予定。こちらは、楽天銀行のサービスを活用したBaaSのサービスになります。
サービスインまでの敷居が低く、決済事業などとの相性もいいBaaSを使ったデジタル口座ですが、銀行として見ると、機能が限定されてしまう側面もあります。特にドコモのdスマートバンクについては、サービス立ち上げ直後ということもあり、機能面ではやや物足りなさが残るのも事実です。
先に挙げたように、残高や履歴の確認はできる一方で、銀行アプリとして不可欠な振込には非対応。振込までしたいときには、三菱UFJ銀行のアプリが必要になってしまいます。
三菱UFJ銀行側のアプリには、振込やパソコンからのログインなどに必要になるワンタイムパスワードを発行する機能が備わっていますが、dスマートバンクにはこうした機能もありません。
ドコモが発行するdアカウントがあれば簡単にログインできる反面、機能がかなり限られてしまっています。三菱UFJ銀行側が提供するAPIに依存してしまうため、ドコモ側が必要なサービスをタイムリーに始められないおそれもあるということです。
実際、筆者も三菱UFJ銀行の口座を持っていたため、サービス開始直後にdスマートバンクの利用を始めましたが、残念ながら、三菱UFJ銀行本体のアプリを超える利便性は感じられませんでした。三菱UFJ銀行のアプリを使えばほとんどのことができてしまうからです。auじぶん銀行を擁するKDDIや、傘下にPayPay銀行のあるソフトバンクと比べ、銀行がないのはドコモの弱点。
その意味で、銀行としての基本機能は、さらなる拡充が必要です。ただ、それだけでは単なる銀行サービスの域を出ません。ドコモ色を出すには、同社の持つサービスとどこまで連携できるかも鍵になりそうです。
(文・石野純也)
- Original:https://techable.jp/archives/192974
- Source:Techable(テッカブル) -海外・国内のネットベンチャー系ニュースサイト
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