【達人のプラモ術】
Special Hobby
1/48 ブガッティ 100Pエアレーサー
01/04
■フレンチブルーのエアレーサーに昂ぶる!
ブガッティ(Bugatti)といえば、20世紀初頭に高級車を製作販売。多くのカーレースに参戦し、モナコグランプリでの3年連続優勝、タルガ・フローリオでの優勝などの成績を残したことで名を馳せるフランスの自動車メーカーなのは今さら言うまでもありません。現在はフォルクスワーゲンの傘下として、ブガッティバイロン、シロン(最高出力1600ps 最高速度490.48km/h! 日本での価格は4億7千万円!)といったハイパーカーを製作販売しております。
▲1950年代のブガッティと言えばレースで活躍するレーシングカーのイメージが強かった
というわけで今回製作するプラモデルはブガッティ…ではあるのですが、クルマではなく飛行機。1930年代に同社が製作した唯一の飛行機「100P」です。(全4回の1回目)
長谷川迷人|東京都出身。モーターサイクル専門誌や一般趣味雑誌、模型誌の編集者を経て、模型製作のプロフェッショナルへ。プラモデル製作講座の講師を務めるほか、雑誌やメディア向けの作例製作や原稿執筆を手がける。趣味はバイクとプラモデル作りという根っからの模型人。YouTubeでは「プラモ作りは見てナンボです!@Modelart_MOVIE」も配信中。
■幻のエアレーサーとなったブガッティ「100P」
1938年にフランスの石油王、ドイチュ・デ・ラ・ムルトが主催したエアレース「ドイチュ・デ・ラ・ムルト・カップ」の1940年度大会での優勝を目指して、開発が進められていたブガッティ「100P」なんですが、機体の完成がレース参加申込の締切りだった1939年9月に間に合わず、出場はならなかったんですね(飛ぶことができなかった)。故に幻のエアレーサーになってしまいました。
その後、勃発した第二次大戦でフランス政府が「100P」の技術を新型軽量戦闘機の開発に応用することをブガッティに要請したものの、これを拒否。85パーセントまで完成していた「100P」を片田舎の納屋に隠匿、そのまま終戦まで隠されていたそうです。戦後になり「100P」は再発見され、現在ではアメリカ・ウィスコンシン州のEAAエアベンチャー博物館に展示されています。
▲EAAエアベンチャー博物館に展示されている「100P」
■実はすごい飛行機でした
ブガッティが考案した「100P」は、当時の最先端だと思われていた技術のさらに上を行く、今で言えばハイテクの塊みたいな飛行機でした。全長25フィート(約7.62m)翼幅は27フィート(8.2m)とかなり小型の機体は、バルサ材と硬材とを重ねた木製合板製。第二次大戦ではイギリスのモスキート戦闘機のような高性能な木製機も登場していますが、当時としてはかなり革新的な機体でした。
さらに革新的だったのは、コックピットの後ろに450hpを発揮する4.9リッター直列8気筒エンジンを直列で搭載(要するにミッドシップ)、延長軸を介して機首のギアボックスから二重反転プロペラ(※1)を駆動していたことです。
もしトラブルなく飛んでいたら、当時高速戦闘機で最高速度が600km/h前後だった時代に「100P」は800km/hを超える速度を達成できただろうと考えられます。ちなみに1939年当時、レシプロエンジン搭載した航空機の速度記録は、ドイツのメッサーシュミット社製Me209Vが出した755km/hでした。この記録はその後30年間破られていません。
▲当時の航空機としての最速記録(755km/h)を持つメッサーシュミットMe209Vはスペシャルホビーから1/72スケール発売されている(2750円)。速度記録挑戦用に作られた機体だが、戦時中は戦闘機型も存在するような写真が撮られてドイツ空軍のプロパカンダに使われている
※1 二重反転プロペラとは、2組のプロペラを同軸に配置してそれぞれを逆回転で駆動させるもの。航空機では大パワーエンジンでプロペラを回転させると、機体がトルクで回転しようとしてしまうため運動性に影響が出てしまう。そこで2組のプロペラをそれぞれ逆方向に回転させることでトルクを相殺する機構だ。ただしギアボックスの構造が複雑になるためトラブルも多い。
▲二重反転プロペラを採用していたイギリスのスピットファイアMk.XIX
■キットに関して
いやぁこんな、マイナーだけど魅力的な機体が21世紀になって1/48スケールでキット化されるとは! モデラー冥利に尽きるといったところであります。
スペシャルホビーはチェコの老舗プラモデルメーカーで、飛行機モデルを専門に発売しており、日本の飛行機モデラーにも馴染みが深いメーカーです。発売しているキットは大手メーカーでは製品化されないマニアックなラインアップが多いんだけれど、今回のブガッティ「100P」(4950円)もマニアックの極みと言えます。聞けば、同社の社長が「オレが欲しいから」という理由で製品化されたとのこと。いやはや流石スぺホ(スペシャルホビー)ですな。ちなみに1/72も発売されています。
中身はといえば、正直ビギナーモデラーにはちょっとハードルが高いかな…。パーツ精度はかなりラフで、エッチングパーツとレジンパーツも付属していますが、機体の形状のせいもあるけれど組みやすいとはいえません。擦り合わせや修正作業も多いし、パーツ数は多くないのですがカタチにするのに苦労させられるモデルです。でもプラモデルを作る楽しさ、幻のエアレーサーを作るワクワク感はたっぷり詰まっています。
▲パーツ数はレジンパーツ、エッングパーツを含めて65点と1/48の飛行機モデルとしては少なめだ
▲カラー塗装図。右側のトリコロールカラーは1940年のトンプソン・トロフィー優勝機となっているが、出場は果たせなかった
▲同じ1/48スケールの「P-51マスタング」(下)と胴体のサイズを比較すると、「100P」がいかにコンパクトな機体だったか分かる
■まずはコクピット
主要パーツを切り出してまずは仮組み。あとパーツの洗浄も忘れずにしておきます。
1/48スケールとはいえ、実機全長が7.75メートル、翼幅も8メートルしかないので、同時代の大戦機等と比べてかなり小さい。
組み立てはコクピットからスタート。シートベルトはエッチングで再現されています。にしても長いこと飛行機プラモ作っているけれど、真っ赤なコクピットって…(調べたら本当に赤で塗られておりました)。キャノピーが大きく完成後もコクピット内部が良く見えるので、細部までしっかりと塗装しておきます。
▲仮組みした胴体。パーツの嵌合性は決して良くはないので、充分な擦り合わせとパテによる修正が必須作業となる
▲2011年に実機の設計図を基に新たに制作された「100P」のコクピット。鮮やかな赤いレザーが印象深い。同時に機体が木製なのが分かる
▲インスト(説明書)でもコクピットの赤い塗装が強調されている
▲塗装前のコクピットパーツ
▲塗装後組み上げたコクピット。コクピット後方のエンジンは省略されている
▲機首先端には二重反転プロペラと繋がるギアボックスが再現されている
▲いかにも空気抵抗が少なそうな大型キャノピーを仮組みした状態。明度は高く歪みもないのでコクピット内部が良く見える
■地上姿勢も悪くないんだけれど…
いかにも高速飛行を目指した着た形状を見ていると、実機は飛ばなかった…いや飛べなかったんだけれど、模型は大空を飛ぶ姿で再現してやりたいなぁと思うんですよね。なのでボックスアートの「エアレースでパイロン上空を高速でターンしているジオラマ」として製作を進めていきます。飛行機は飛んでいる姿がいちばんカッコ良いですからね!
▲ちょっとデッサンがおかしい(主翼に下反角がついてるように見える)のだが、パイロンを飛び抜けるブガッティ100Pが描かれたボックスアート。今回はこのイメージでジオラマを製作する
■エアレース豆知識
飛行機で速度を競い合う、誰よりも速く飛ぶことを目的として開催されるエアレース。1909年にフランスで初めて開催された「ゴードン・ベネット・カップ」(1909~1920年)が世界最初のエアレースになります。ライト兄弟が動力飛行に成功したわずか6年後のことですから、人間のスピードへの憧れってすごいですよね。
1913年には水上機のよるエアレース「シュナイダー・トロフィー」(1913~1931年)が開催。こちらは映画『紅の豚』でおかげでよく知られるところです。
その後もヨーロッパを中心に数多くのエアレースが開催。「トンプソントロフィー」(1929~1961年)も初期のエアレースとしてよく知られています。このレースは軍用機をベースにした機体が多いのですが、レース専用に設計された専用機も数多く登場しています。
レースに勝つための飛行機というシンプルな目的なために個性的なデザインの機体が数多く登場し、ブガッティ「100P」もそうしたエアレース専用機として作られた機体でした。
* * *
エアレーサーのプラモデルは数が少ないので、今回新規で発売されたブガッティ「100P」は、なかなかにレアなキットだと思います。実機のヒストリーも興味深いこともあって、ますますエアレーサーが好きになりました。次回は機体の製作を進めていきます、乞うご期待!
>> [連載]達人のプラモ術
<製作・写真・文/長谷川迷人>
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- Original:https://www.goodspress.jp/howto/509951/
- Source:&GP
- Author:&GP
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