ソフトバンクが推進する多様な働き方のインクルージョン、「ショートタイムワーク」とは

社会のグローバル化や、価値観の多様化、少子化による人口減少によりビジネスにおいてもダイバーシティ(多様性)に対応し、働く人の特性を生かす企業活動が注目を集めています。

旧来の雇用スタイルを脱して、多様な人たちと共存できる職場を作り出すことで社会的排除の壁を超えようと、ソフトバンクでは「ショートタイムワーク」制度を自社で構築し、社内での雇用を創出しながら多くの企業・自治体とも協力して推進しています。

ソフトバンクで、企業が担う社会的責任CSR活動を担当している横溝知美さんに「ショートタイムワーク」について詳しくお話をうかがいました。

特性を生かした短時間就労を実現するために


——「ショートタイムワーク」について簡単に教えてください

横溝:「ショートタイムワーク」は何らかの理由で長時間働くことが難しい方々が、短い時間から企業の中で共に働けるように就労環境を整えることで“共に働く”を実現する取り組みです。

日本では週40時間以上の労働時間で、職務定義がなくマルチタスクに対応する働き方が主流ですが、障がい者や難病者、子育て・介護中の方や、シニアなどを含め、推定700万人以上が働けていない状況です。

そこで、東京大学の先端科学技術研究センターの近藤武夫先生が提唱する「超短時間雇用モデル」をもとに仕組化し、2016年から「ショートタイムワーク」をスタートしました。

「ショートタイムワーク」では何かしらの障がいをお持ちの方や、子育てや介護などライフステージの変化などにより、フルタイムなど長時間働くことが難しい方々が就労しています。

——短時間での就労をどのように可能にしていますか?

横溝:企業側には職務定義がない、すなわち業務を細かく定義して振り分けていないものが多くあります。そこで担当者の業務を見直して今ある業務を一覧化し、できるだけ細分化します。そのうち自身が付加価値を出せる業務と、組織で集約して効率化できる業務や自分が不得意な業務など、他の方に任せることで組織の生産性につながる業務などを切り出します。こうすることで、組織全体の業務の見直しができ、短時間の雇用が生まれ、企業側も生産性の向上につなげることができます。

ショートタイムワークでは、合理的配慮のもと、業務を行う上で必要な能力(スキル・経験など)があれば、即戦力として活躍することが可能です。例えば、敬語が苦手な方でも、英語がすごく得意であれば翻訳業務に特化して就労していただくケースや、音に敏感な方がイヤホンをつけたまま仕事をすることを認めていただくことなどがあります。

また、リモートで働くショートタイムワーカーがいる際には、業務担当者とショートタイムワーカーがリモート環境でもコミュニケーションが取れるような配慮を行っている事例もあります。
具体的には、WEBカメラでショートタイムワーカーと業務の依頼者の顔がお互い見える状態で仕事ができる環境を整え、雑談が可能となるような“あたかも隣で机を並べて仕事をするような環境”を用意するといった工夫です。

このように、ショートタイムワーカーの能力(スキル・経験)にしっかりと着目して、業務を行う上での合理的配慮を企業側で柔軟に対応していただきます。

受け入れる企業には、社会貢献以外の利点も

——企業は業務見直しから準備をするんですね。

横溝:はい。「ショートタイムワーク」を導入する企業にとっては、社会貢献的な取り組みというだけではなく、業務の見直しをすることによる業務の最適化にもつながります。

さらにショートタイムワーカーの得意やスキル、経験を生かすことで、業務担当者ひいては企業の生産性の向上にもつながりますし、労働時間を理由に休眠していた人材を登用することで人材不足の解消につなげることもできます。

——どのような業務が多いのでしょうか?

横溝:各企業によって、お願いしたい業務が当然異なりますのでこの限りではありませんが、アンケート結果を分析したデータの作成や、AIアノテーションのための教師データの作成など「集中力が必要で、大量のデータを扱うけれど短時間で区切れる業務」が一例として挙げられます。

それから、SNSの更新や情報リサーチなどのお仕事を担当される方もいらっしゃいます。

——ショートタイムワーカーを採用する際に、ITリテラシーにギャップが生じることはありますか?

横溝:たとえば“Excelができる方”のような曖昧な条件ではなく、具体的にExcelのデータ入力なのか、どんな関数を使うのかなどを明確にした求人内容にすることを勧めています。

実際に就労される方はスキルにマッチしたお仕事で採用されるため、大きなギャップは生じにくいです。また、業務をお願いする際には、属人化している業務から、マニュアルを読んで業務を進められる状態にするため、業務を切り出した際に、業務マニュアルを準備していただきます。

そのマニュアルと、実際に業務をしていく中で分からないことは、コミュニケーションを通じて確認できるように企業側に対応いただきます。弊社からは企業向けのガイドブックを用意し、具体的な事例を紹介したり、環境を整えるための提案をしています。

リモートワークで実現できた、越境マッチング

——就労希望者と企業、業務とのマッチングはどのように行いますか?

横溝:ソフトバンク社内での事例をご紹介します。

弊社では、CSR本部が各部署から業務依頼を受け、ショートタイムワークの理念や社内の運用方法を部署に説明します。その後、部署に依頼したい業務内容を求人票にまとめていただき、求人票をもとに人材を募集します。

募集方法は大きく2つあります。1つ目は、障がいのある方の支援機関からの紹介です。

弊社では、外部の連携先として、障がいがある方向けの100を超える支援機関(就労移行支援事業所など)にご協力いただいています。
就労移行支援事業所などでは、就労を目指して2年間の職業訓練を受けられますが、その中でも「長時間働くこと」を目指すことが難しい方も一定数いらっしゃり、ショートタイムワークで働きたいという方を弊社に紹介いただきます。
このように、支援機関からご紹介いただくことで、入社後も就労移行支援事業所などから継続的なサポートを受けながら仕事をすることができ、ショートタイムワーカー、部署担当者ともに安心して働きやすい環境につながっています。

それから、仕事と子育ての両立を目指す方々を対象として、弊社の求人情報を「マザーズハローワーク」でご案内いただき、採用に至っているケースもあります。

また、人材派遣会社と連携し、派遣社員として、短時間で働きたい方の紹介も受けられるようになりました。

——愛知県に住む方と高知県の企業をマッチングした例があるそうですが、詳しく教えていただけますか?

横溝:はい。2022年の9月から2名が雇用され、環境データなどからCO2の排出量を集計する作業をテレワークで行っている事例です。

愛知県日進市様とソフトバンクは「テレワークを活用した女性活躍推進ためのショートタイムワーク」事業を一緒に推進しております。
愛知県日進市内在住の人材と企業をマッチングさせる取り組みを進めるうちに、愛知県日進市内在住の人材と県外企業とのマッチングにも取組みを拡大することとなりました。
県外の企業としては、ショートタイムワークにご賛同いただいている企業のひとつで、高知県にある旭食品株式会社様に、弊社より3者での取り組みを提案し、実現しました。

テレワークを活用し部署とのコミュニケーションもしっかりとっていきます

「ショートタイムワーク」のこれまで、これからは?

——ソフトバンクでは、なぜ「ショートタイムワーク」を始めたのでしょうか?横溝:弊社のCSR活動を推進していく中で、多様な人々が共に働ける環境が少ないのではという課題から生まれました。

弊社では2009年より、東京大学先端科学技術研究センターとともに障がいのある子どもたちの教育にICTを利用して学びのチャンスを拡げていく「魔法のプロジェクト」に取り組んでいます。
「魔法のプロジェクト」によって学ぶことができた子どもたちの次のハードルは、就労の機会が限られてしまうことでした。その壁を壊していくためのプロジェクトが「ショートタイムワーク」です。
ショートタイムワークは、東京大学先端科学技術研究センターの近藤教授の超短時間雇用モデルをもとに仕組化しています。

障がいのある方の中には、長時間働くことが難しいために就労機会を得づらい実態がある一方で、企業には障がい者雇用率制度の義務が設けられています。2023年3月現在、法律で定められている雇用率は2.3%ですが、実はここには、週20時間以上働けない方の雇用は含められません。
しかし2024年から、「週10時間以上20時間未満」に緩和される法律改正が行われます。これまで近藤先生とともに、障がいのある方の中には、週20時間働くことが難しい方も多くおり、一方で週20時間未満から働ける機会があれば活躍できるという事例などを含め、厚生労働省に訴えてきましたので、この改正はとてもうれしく感じています。

——「ショートタイムワーク」の今後について教えてください
横溝:もともとは障がいのある方のみを対象としたところから、さまざまな理由で長時間労働が難しい方々にまで対象を拡げてまいりました。最近は子育てや介護などの理由で離職していた女性に活躍いただく事例が少しずつ増えてきています。
他にも、闘病中でこのような働き方を求めている方の事例なども出てきており、さまざまな形でのショートタイムワークの事例を創出し、発信していきたいです。

今後は、自社の雇用だけでなく、さまざまな企業がショートタイムワークを導入することで社会全体として働く選択肢を増やしていきたいと考えています。

現在は、導入や実現には至らないまでも、興味を示していただいて、情報交換を続けている自治体や企業が増えてきています。これからも、ノウハウや取り組みをまとめ、事例の紹介などを続けていき、さらにご賛同者を増やしていきます。
特に中小企業での人材不足解消をショートタイムワークの導入で解決できないかと考えています。

——中小企業ができる工夫はありますか?
横溝:中小企業は経済的理由やシステム管理者が足りないなどの理由から、ICT化が進まないと言われています。でも、大きなシステム改修などを行うこともなく、ほんの少しICTを活用してみたり、働き方に柔軟性を持たせることで、人材不足が解消できる可能性があります。
例えば、テレワークを実施することで、コミュニケーションのロスが生じることを不安視される場合には、WEBカメラの常時接続を導入することで、ワーカーさんとリモート勤務でもメンバーとして一緒に働いている感覚が共有できたりもします。
Googleドキュメントで共同編集ができるといった、ちょっとしたICTのソリューション、小さな工夫のようなことをお伝えしていくことも大切です。

このような工夫を含めて私たちが発信して、企業にとっての人材不足解消や業務の効率化と社会課題の解決が両立できるものであるという理解が進むようにすることも、大事なミッションだと考えています。

——横溝さんはこのプロジェクトにどんな想いをお持ちですか?
横溝:このプロジェクトを通じて、働き方の選択肢が増えて、より多くの方が活躍できるような社会になればいいな、と思っています。

先天性の心臓疾患があり、私も障がい者のひとりです。現在はフルタイム勤務をしていますが、将来、今と同じように働けなくなることをどこかで心配しています。
在宅での勤務ができることで、通勤の負担が減ったと感じた一方で、コロナ禍では長期的な在宅勤務となり、孤独感を感じやすい環境にも気づきました。私は、WEBカメラで同僚とつながりながらテレワークができたことで、コロナ禍の勤務でも今の業務を継続しながら、孤独感を感じずに働き続けられたと感じています。
また、このような働き方を柔軟に受け入れてくれた会社や周りのメンバーにも感謝しています。

ショートタイムワークを通して、「働くことで自分に自信を持てるようになった」という声や「組織にとってなくてはならない存在になっています」といった声をいただいています。
企業が柔軟な働き方の選択肢を持つことで、”働く”を選択できる人が増え、企業の活力につながる事例をもっと増やしていきたいです。
これからも、ショートタイムワークが、働く選択肢のひとつとして社会の当たり前になることを目指し、取り組みを続けていきます。

<インタビュイープロフィール>
横溝 知美(よこみぞ・ともみ)

2016年 ソフトバンク株式会社入社。
ソフトバンク株式会社 コーポレート統括 CSR本部 CSR企画統括部 CSR企画部 多様性推進課

先天性の心臓障がいがあり、医療機関で治療を続ける中、自らも医療の現場で働き、社会に貢献したいと思い、工学部の医用生体工学科の大学に進学。
在学中に体力の低下を感じ、医療の現場で働き続ける形ではなく、他の形で社会に貢献したいと考え、進路を変更。ITの活用により通院や手術などで通学が難しい時期も、友人や家族とつながり続けることができた経験から、ITのもたらす可能性を広げたいと考え、IT業界へと進路を変更してソフトバンクに入社。

入社後は一貫してCSR業務に携わっている。


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