昨今、世界中のライダーに熱い支持を集めているのがオンロードもオフロードも問わず長距離を走れるアドベンチャーマシン。特に最近は750cc前後のミドルクラスにカテゴライズされるモデルが人気です。
1000ccオーバーのマシンに比べて取り回しが軽く、未舗装路などでも扱いやすいのがその理由。国土が広くなく、狭い林道なども多い日本国内を旅するなら、最適なクラスといえます。そんなクラスに投入された注目のニューモデル、ホンダ「XL750トランザルプ」に乗る機会があったので、インプレッションをお届けします。
■オフロードの走破性も高いミドルクラスアドベンチャー
長くバイクに乗っている人なら「トランザルプ」という車名に懐かしさを覚えるかもしれません。この車名は、元々1987年にデビューした、当時は“デュアルパーパス”と呼ばれたカテゴリーのマシンに与えられたものでした。
▲1987年式「トランザルプ600V」
その頃は、パリ・ダカールラリーの人気が高かったので、そのステージを走るマシンを思わせるカウルのついたオフロードテイストのマシンに憧れた人も少なくないでしょう。
当時のマシンはV型の2気筒エンジンを搭載していましたが、新型の「XL750トランザルプ」は新設計の並列2気筒エンジンを採用。カラーリングこそ、初代モデルを思わせるトリコロールとされていますが、大型ウインドスクリーンのデザインはスマートで、今ドキのアドベンチャーマシンらしいスタイルに仕上がっています。
足回りはフロント21インチ、リア18インチとオフロードモデルと同じホイールサイズを採用し、サスペンションストロークも長く設定。オフロードでの走破性を重視した作りは、近年のミドルクラスアドベンチャーの文脈に沿ったものです。
大きめのウィンドスクリーンをまとっていることと、足長のスタイリングで大柄に見えますが、またがってみると思ったよりもコンパクトに感じます。
シート高は850mmと高めですが、身長175cmの筆者の場合は足付きに不安はありません。この点は、ライバルと目されるヤマハの「テネレ700」(シート高875mm)にまたがった際、かなり地面が遠く感じたのとは対照的。着座位置が約30mm低くなるローシートもオプションで用意されているのも、心強いところです。
新開発の水冷2気筒エンジンは754cc。ホンダのオフロードモデルによく使われるユニカムと呼ばれるOHC4バルブヘッドを採用しています。最高出力は91PS/9500rpm、最大トルクは75Nm/7250rpmと、このクラスとしては十分以上のパフォーマンスを発揮します。エンジンをかけると、2気筒らしいパルス感のある排気音が耳に届きますが、体に伝わる不快な振動は皆無なのが、最新の設計であることを感じさせます。
■どんな道でも安心して走りを楽しめる
走り出してまず感じたのが、低中回転域での気持ち良さ。弾けるようなエキゾーストノートと、確実に路面を蹴り出しているようなトルク感が爽快で、景色を楽しみながらツーリングペースで流すには最適なエンジンです。そして高速道路に入り少しペースを上げると、このエンジンは別の一面ものぞかせます。低回転では適度に鼓動感があったのが、回転を上げると2軸バランサーのおかげかスムーズさが増し、アクセルを大きめにひねると一気に車体を加速させます。高速道路の追い越しもアクセルのひとひねりで十分にこなせてしまうパワフルさ。そんな速度域でも、大型ウィンドスクリーンのおかげで体に風圧を感じさせないのはアドベンチャーマシンの魅力です。
トランザルプ(TRANSALP)という車名は「TRANS(超える)」と「ALPS(アルプス)」という単語を組み合わせたもの。そのイメージを膨らませるため、標高の高いワインディングまで足を伸ばしてみました。目指したのは長野県の麦草峠。標高は2120mあるので、アルプスのイメージにはぴったりです。その周辺はタイトなヘアピンが続くワインディングになっていて、冬季は雪で閉鎖されるだけあって舗装も荒れ気味。スーパースポーツで攻めるにはかなり勇気がいる路面ですが、「XL750 トランザルプ」で走るには最適なシチュエーションでした。
かなり路面が荒れている箇所でも、オフロードにも対応するフロント21インチのホイールなら、こともなげに走って行けます。左右の倒し込みも軽快で、リズミカルにワインディングを楽しめました。コーナーリング中の安定感も高く、路面がうねっている箇所や砂利が浮いているようなシーンでも不安感は皆無。先の見えないワインディングでも不安感なく楽しめるのは、こういうミドルクラスのアドベンチャーマシンならではのものでしょう。
周辺には砂利の林道も豊富にあるので、そういった道にもいくつか入ってみました。こんなときのために、走行モードには「GRAVEL」モードが用意されています。このモードは、オフロード上級者がリアを滑らせながらダートを攻めるためのものではなく、ツーリングの途中で未舗装路に遭遇しても、不安なく通過できるように設定されているとのこと。トラクションコントロールの介入も早めですが、こういう林道を流すには十分で、車体の重心の低さと余裕ある足回りも相まって、ただ通過するだけでなく楽しみながら走ることができました。
帰り道はまた高速道路に乗って、ワープするような感覚で帰路に。余裕あるエンジンパワーとウィンドスクリーンのおかげで疲労を残すことなく帰ることができました。
* * *
高速の移動が快適で、ワインディングも楽しめ、荒れた路面や未舗装路に遭遇しても気負うことなく楽しめる。ツーリングバイクとして、これ以上のものはないのではないか? と思ってしまうほどの完成度でした。
もちろん、1000ccオーバーのアドベンチャーマシンには同社の「CRF1100L アフリカツイン」など魅力的な車種もありますが、荒れた林道などに遭遇した際に気負わずに入って行けるか、と問われれば疑問符がつくところ。ミドルサイズのアドベンチャーが支持を集めている理由を改めて実感できました。
★SPEC
サイズ:2325×840×1450mm
車両重量:208kg
エンジン:754cc水冷直列2気筒OHC(ユニカム)4バルブ
最高出力:91PS/9500rpm
最大トルク:75Nm/7250rpm
価格:126万5000円
<取材・文/増谷茂樹>
増谷茂樹|編集プロダクションやモノ系雑誌の編集部などを経て、フリーランスのライターに。クルマ、バイク、自転車など、タイヤの付いている乗り物が好物。専門的な情報をできるだけ分かりやすく書くことを信条に、さまざまな雑誌やWebメディアに寄稿している。
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- Original:https://www.goodspress.jp/reports/534394/
- Source:&GP
- Author:&GP
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