自分たちの信じるデザインを押し出すフランス車「プジョー408」の魅力

このところ、輸入車でハイブリッド(とプラグインハイブリッド)が増えています。そのうちの1台が、2023年7月1日から日本での販売が始まった「プジョー408」。

価格からいえばプレミアムクラスといってもいいセグメントでは、従来、日本車、ドイツ車、イタリア車、スウェーデン車、それにアメリカ車がしのぎを削ってきています。

人によっては、そこにフランス車? とややいぶかしく思うかもしれません。でも、伝統的に、プジョーは上級グレードのセダンを手がけていて、仏大統領公用車のブランドとしても歴史は長いのです。

では、フランス製の上級車とはどんなクルマなのか。その眼で見ると、プジョーが2022年に発表したこの408にも、なるほどと感心させられる特徴がいくつもみつかります。

■ドライブが楽しい“ファストバックスタイル・セダン”

▲GT系はグリルがボディ同色

408は、メーカーによって「クロスオーバー」とされているものの、全高1500mmに抑えられたファストバックスタイルのセダンという方が近いかも。

全長4700mmの車体を2790mmのホイールベースを持つ前輪駆動用シャシーに搭載。サイズ的には、(ボディスタイルが似ている)トヨタ・クラウンクロスオーバーと比較してみると、全長で230mm、ホイールベースで60mm、ともに短く、コンパクトです。

パッケージング的にも、今回の408はショファードリブン(運転手つき)を前提にデザインされていないようで、ルーフラインが後ろにいくに従って下降。乗降のときに頭をかがめなくてはなりません。「大統領、頭をぶつけないように!」なんて注意するわけにはいきませんね。

▲フレームレスグリルに大きなライオンのエンブレム

▲この角度だとクロスオーバー的なスタイリングコンセプトが理解できる

私がマクロン大統領で、もし後席に乗るなら、うーん、408は選ばないんじゃないかと思います。

そのかわり、ドライバーズシートはよい。なんといっても、ドライブが楽しいのです。

私が操縦したのは「408GTハイブリッド」。1.6リッター4気筒ターボエンジンにプラグインハイブリッドシステムを組み合わせた前輪駆動車です。

最高出力は225kW(システム合計)、最大トルクは360Nm(同)。体感的にじゅうぶんパワフルです。同時発売されたガソリン車は、なんとこのサイズの車体に1.2リッター3気筒。それでも、走りの評価は高いのです。

そもそも、最近のプジョーはディーゼルエンジンも、フィールもいいし力もたっぷり。フランス車は、エンジニアリング的に見るべきところがあるといってよいのです。

思えば、私の個人的な体験として、プジョーの大型セダンは常に大いなる興味を持って接してきました。たとえば、「605」や「607」(606は欠番)。

そこはかとなく品があって、ドイツ車ほどの重厚感はない。いってみれば、先に例にだしたクラウンのように、日本の“高級車”に近いのかもしれません。適度にエクスクルーシブ性があって、同時に大衆的である、というユニークな存在感。

さらに個人的な体験を書くなら、そのなかで「604」(1975年-86年)をごく最近、買いかけたことがあるのです。仏大統領も乗っていると、当時、自動車誌で読んで、“乗ってみたいなあ”と興味を募らせていたクルマです。

何十年かぶりで見た実車(フランスでも今は好事家が所有しているだけでは)は、当時とほぼ印象が同じ。ピニンファリーナによるデザインは、ホイールハウスのフレアがまったくないユニークさで、それがボディの大きなアールによる丸みをうまく表現。実に品がよい。

室内はふかふかのクッションのシート。後席はなぜかバックレストの角度が寝過ぎていて、個人的には落ち着きませんでした。ヘッドルームをかせぐためのデザイン処理なのでしょうか。

▲GTのフロントシートは人工スエードを中央部に用いてからだが滑らないようにしている

▲立体的な雰囲気の後席用シートはバックレストが可倒式

(この話長すぎてすみません)買う決心がつかなかったのは、プジョーとルノーとボルボが共同開発した3リッター6気筒エンジンの非力さ。

当時、ボルボの260とかルノーのR25で体験したときは力があると思ったもんですけど、いまや408のように1.3リッターで充分なパワーがある時代。こりゃ、中央高速だったら談合坂の上りでも苦労しそう、と後ろ髪をひかれながらお断りしたのでした。

もう出合えないかもなあ…やっぱり買っとくべきだったろうか…と今も少し後悔が。そういうところがあるです、プジョー車には(いや、フランス車やイタリア車全般かも)。

■自分たちの信じるデザインを前面に打ちだしているフランス車の魅力

▲エクステリア同様クリスピー(エッジを効かせたデザイン)な処理をされたダッシュボードが特徴的

408GTハイブリッドは、しっかり速い。いまの水準をもってしても、充分すぎるほど、スピードが出ます。パワーステアリングの味付けがやや重めなのは意外だけれど、これは慣れるでしょう。

すこしゴムっぽく跳ねる独特の乗り心地を味わいながら飛ばすと、アクセルペダルを踏み込んだだけ、どんどん速度が上がっていきます。

サスペンションシステムは路面の凹凸を大きさにかかわらず、けっこうていねいに吸収してくれるので、乗っていてフラット感があるし、かつ静粛性も高い。

独特の形状のハンドルを握りながら、クルマを走らせると、かつてよくいわれた“いちどエンジンをかけたら地の果てまでも”なるフランスの大型車の評価のとおり、疲れしらずで遠距離ドライブが出来るだろうと、感じ入りました。

▲GTというだけあってスポーティなデザインのステアリングホイール

もうひとつ、私が好きなこのクルマの個性的なところを書くと、エクステリアデザイン。

ひとつはフレームレスグリル。5008で本格的に採用されたテーマで、フロントのパネルに細かな開口部が刻んであり、それが複雑で美しい模様になっています。たんに網(グリル)をぽんっとはめこみました、という単純な手法ではないのです。

もうひとつ、エクステリアデザインの魅力は、ボディパネルのエッジ。とくに光の反射がわかりやすい車体色(「オブセッションブルー」とか)でみると、エッジがいくつもの方向に入り、それが独自の美を生み出していると気づくはず。

かつ、前後のフェンダーを強調するようなエッジが斜め方向に。見方によっては、ブリスターフェンダーにも近い。これはプジョーのSUVに共通のデザインテーマ。それをプジョー的には「クロスオーバー」とする408にも採用したということです。

▲オブセッションブルーだとクリスピーなデザインの特徴がよくわかる

側面から見た場合、ルーフライン(外側の輪郭線)がテールエンドまでつながるファストバックボディ。その点では、さきに触れたとおり、クラウン・クロスオーバーとプロファイルでは大筋で似ています。ただし、面の処理の仕方は大きく違うのです。

プジョーはより大胆で、人によって好き嫌いが分かれる可能性だってあります。それでいいのです。プジョーは最大公約数よりも、自分たちの信じるデザインを前面に打ちだしていると感じられるではないですか。それこそ、フランス車の大いなる魅力だと私は思います。

かりに乗る人が企業のエグゼクティブだったばあい、レクサスIS(いいクルマなんですけど)と、プジョー408、どっちに乗っていたら、その企業に興味が湧くだろう。なんてことを、私は想像して楽しみました。

私だったら、ちょっと変わったプジョー408をあえて選ぶ人と、その人を要職につけている企業に興味をもつだろうなあ、とか。

もちろん、プジョーだって変わっていたくて変わっているとか、あえて裏をかくとか、そういうことを狙っているわけではないはず。ただし、他者と同じであることをよしとしない文化のなかから生まれたプロダクトといえるでしょう。

ここでフランス車論議を長々と書くつもりはなかったのに、408の魅力について書いているうちに、話があらぬ方向に脱線してしまいました。すみません。

話をドライブに戻します。プラグインハイブリッドなので、バッテリーが満充電状態なら65キロをEV走行。インフォテイメントシステムのモニタースクリーンで、走行中に充電するモードも選べます。

▲ハイブリッドモデルはEVモードで最長65キロ走行可能

プジョーが属するステランティスグループの車両のなかには、プラグインハイブリッドでも、走行中の充電が出来ず、駐めて外部給電をする必要のあるモデルもあります。

408は大丈夫。日本のプラグインハイブリッドモデルと同様、コンセントタイプやウォールボックスタイプの普通充電器や、CHAdeMO規格の急速充電器に対応しています。

価格は、プラグインハイブリッドの「408GTハイブリッド」が629万円。1.2エンジンでベースモデルたる「408 Allure」が429万円、同じエンジンの「408GT」が499万円。価格も“堂々たる”ものではないですか。

▲荷室容量は536リッター

▲ファストバックなので大きなテールゲートをそなえる

【Specifications】
全長×全幅×全高:4700x1850x1500mm
ホイールベース:2790mm
車重:1600kg
エンジン:1598cc4気筒ガソリン+モーター プラグインハイブリッド
駆動:前輪駆動
最高出力:225kW(システム合計)
最大トルク:360Nm(システム合計)
モーターによる走行距離:65km
燃費:17.1km@l(WLTC)
価格:629万円

>> プジョー プジョー408

<文/小川フミオ、写真=Stellantisジャパン>

オガワ・フミオ|自動車雑誌、グルメ誌、ライフスタイル誌の編集長を歴任。現在フリーランスのジャーナリストとして、自動車を中心にさまざまな分野の事柄について、幅広いメディアで執筆中

 

 

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