キットは発売から40年超。だからこそ必要となる丁寧な下地処理【達人のプラモ術<震電>】

【達人のプラモ術】
ハセガワ
「九州 J7W1 局地戦闘機 震電 『ゴジラ-1.0』 劇中登場仕様」
02/04

1/48 震電、第2回となる今回は機体を製作していきます。ハセガワの震電は発売から40年を超えるロングセラーキットということもあり、さすがにストレート組みでピタパチとはいきません。隙間や段差の修正、またパーツにはバリ(※1)やヒケ(※2)も多く見られるので、組み立てに際してはパーツの擦り合わせや隙間をパテで埋めるといった丁重な下地処理が必要になります。(全4回の2回目/1回目

※1「バリ」プラモのパーツの金型が摩耗してくると、成型の際に不要なプラスチックが流れ出てしまうことで生まれる、パーツの周囲にできる薄い膜状の部分。イメージ的には羽根つき餃子の羽根。こちらは美味しいけれどプラモのバリは削らないといけません。
※2「ヒケ」パーツが金型から取り出された後の収縮が原因で表面にくぼみができている状態。厚みのあるパーツの表面に発生しやすい。

長谷川迷人|東京都出身。モーターサイクル専門誌や一般趣味雑誌、模型誌の編集者を経て、模型製作のプロフェッショナルへ。プラモデル製作講座の講師を務めるほか、雑誌やメディア向けの作例製作や原稿執筆を手がける。趣味はバイクとプラモデル作りという根っからの模型人。YouTube
モデルアート公式チャンネル」
などでもレビューを配信中。

 

■主翼と胴体を合体…その前に

前回は、塗装したコクピットを胴体に挟み込んで接着しました。今回はそこに主翼を接着していくのですが…その前に。

前回の製作時に、「『ゴジラ-1.0』 劇中登場仕様で製作する場合、機首の30ミリ機関砲の右側2門を削る」と解説しているのですが、改めて確認したところ、削るのはパーツB11の右側の上側1門のみでした。その代わり、左側の1門(機首側)の銃身を取り付けないことで2門取り外された正しい劇中仕様となります。いや申し訳ない。

ちなみに震電の機関砲は4門で重量475kg。総弾数は各60発で重量195kgになります。劇中では2門取り外しているので、機関砲2門と弾丸を半分で単純計算でも335kgの軽量化となり、機首に250キロ爆弾を収めることは可能なワケです。

また通常の戦闘機では機外に投棄する機関砲の薬莢と装弾子ですが、震電の場合は投棄した薬莢で機体後部のプロペラを破損する可能性があるため機内の箱に回収される構造になっていました。

▲前回劇中仕様の震電で製作する場合、機首の機関砲は写真左側の2門の銃身を削ると指示していますがこれは間違いでした

▲正しい仕様は「写真左側後方の1門のみモールドされた銃身を削り、右側後方の 銃身を取り付けない」となります

 

■主翼端のヒケをパテで修正

主翼は、シンプルな上下2枚合わせですが、左右の翼端に大きなヒケができています。目立つ部分なので修正しないといけません。今回は修正にはフィニッシャーズ・ラッカーパテを使用してヒケを修正しました。通常のラッカーパテに比べて食いつきが良く、乾燥後にヒケることなく表面を均一に研磨仕上げられます。

▲キットは翼端上面部分に、左右ともにかなり目立つヒケ(窪み)が生じている。完成後も目立つ部分ではあるのでパテを使って修正が必要だ。パテはある程度厚塗りでも硬化後に肉ヤセがなく、表面が平滑に仕上がるフィニッシャーズ・ラッカーパテを使用した

▲フィニッシャーズ・ラッカーパテは乾燥も早いのがありがたい。一度に厚塗りせず薄く塗り乾燥→再び薄く塗布といった具合に塗り重ねていくことで、効率よく硬化させられる

▲パテの硬化後、フィニッシングパーパー600番→1000番の研磨でヒケの修正が完了した状態。パテを研磨する際にパネルラインの凸モールドが消えてしまうのは致し方ないのだが、凸モールドの再生は、難しいものではない。詳細は次回改めて解説する

 

■主翼と胴体の合わせ目の段差と隙間を修正

主翼を胴体と接着すると、なぜか右側のみに大きな隙間ができてしまいます。ここもまたパテを使って修正する必要があるのですが、できれば研磨は避けたい部分です。キットは凸モールドなので、硬化後にパテを研磨すると、同時にパネルラインの凸モールドが消えてしまうからです。

今回は凸モールドを生かしたまま製作を進めていますので、ここでは凸モールドを消さずに済むビン入りのサーフェイサーを使用して隙間を修正していきます。

▲主翼は上下を貼り合わせて接着。隙間ができないようにクリップなどで接着剤が固まるまで固定しておく

▲右主翼と胴体の付け根部分に0.3ミリ程度の隙間ができてしまう(矢印の部分)。パテを使い修正するのだが、位置的にパテが削りにくく、また研磨によりパネルラインの凸モールドが消えてしまう

 

■削るのではなく拭き取りで隙間を修正する

一般的なラッカーパテは練り状でチューブ入りのものです。今回はビン入りのサーフェイサー(成分的には液状のラッカーパテ)を使用します。液状なので筆でパーツの隙間などに塗り込むなど細かな修正に適したパテです。これ主翼と胴体の隙間に流し込んで隙間を修正していきます。

乾燥後にパテを盛った部分をヤスリで研磨して、隙間を埋め表面を整えるのですが、研磨することで凸モールドが消えてしまうのが悩みのタネです。しかし今回はヤスリでパテを研磨することなく(凸モールドを消すことなく)表面を仕上げる裏ワザで隙間の処理を進めます。

 

■裏ワザ!ラッカー塗料用薄め液でパテ拭き取る

今回、隙間を埋めるのに使用したのはビン入りサーフェイサーです。中身は液状のパテなので、筆で塗る、隙間に流し込むといったことができます。

ここでは、主翼と胴体の接合面にできた隙間にビン入りサーフェイサーを塗り込んだ後、1時間程度乾燥させます(表面が乾いた生乾き状態)。その後、綿棒にラッカー塗料用薄め液を含ませて、サーフェイサーが拭き取っていきます。

パーツ表面のサーフェイサーを拭き取っても、隙間の中にはサーフェイサーが残るので、研磨しなくても隙間を埋められて、パネルラインを傷めずに済むというワケです。

サーフェイサーは完全に硬化させた後でも拭き取ることはできますが、拭き取りが大変になるので、塗布後1時間前後で拭き取り作業を行うのがベターです。逆にあまり早く拭き取ると、隙間の中のサーフェイサーも溶けて抜けてしまうので要注意です。

またサーフェイサーは液状ということもあって“隙間”が0.3ミリ以上あるような場合には不向きです。どんどん流れ込んでしまい隙間が埋まりません。

それとサーフェイサーはラッカーパテの一種なので、硬化時にどうしても肉ヤセが生じます。そのため修正したい“凹み”が0.3ミリ以上あるような場合にも不向きです(パテ自体が縮むため硬化乾燥後に再び合わせ目が出てきてしまう)。

大きな隙間や凹みを修正する場合は、ポリパテなど肉ヤセしない修正アイテムを使います。

▲ビン入りのサーフェイサーを隙間部分に(3~4回)塗り重ねて埋めた状態

▲はみ出しは気にしなくてOK。この後1時間程度乾燥させる

▲乾燥後に綿棒にラッカー溶剤を含ませて、はみ出た部分のサーフェイサーを拭き取っていく。隙間内部のパテはそのまま残るので、ヤスリのよる研磨をしなくても隙間をキレイに埋められる。拭き取りの溶剤は必ずラッカー塗料の薄め液を使用すること(←大事!)。ツールクリーナーやエアブラシクリーナーはプラを溶かしてしまうので使用できない。できれば事前にパッチテストをすることをお勧めする。今回はタミヤラッカー塗料用薄め液を使用している

▲ラッカー薄め液ではみ出ているサーフェイサーを拭き取る。隙間に流しこんだ部分が溶けて取れてしまったら再度サーフェイサーを塗り込んでやればOK

▲胴体両側の空気取り入れ口のリップパーツも隙間と段差が生じるので、同じくサーフェイサーで修正していく

▲同様に主翼に取リつける垂直尾翼の付け根も隙間と段差が生じるので、サーフェイサーで修正

▲劇中仕様の機体には。離陸時プロペラが地面に接触するのを防ぐ垂直尾翼の補助輪が付いていいないで。忘れずにカットしておく

 

■せっかくなのでパテの話

今回はフィニッシャーズ・ラッカーパテ、ビン入りサーフェイサー、また瞬間接着剤系パテなどを継ぎ目消しや隙間埋め、ヒケの修正などで使い分けています。それぞれ何が違うのか。特性を知って適材適所で使いわけることで、修正や改造といったプラモ製作時のクオリティを上げられます。

▼フィニッシャーズ「ラッカーパテ」(440円)

きめの細かいラッカーパテ。乾燥が早く、食いつきが非常に良く、さらに肉ヒケがほとんど生じることがなく、硬化後の研磨で表面をツルツルに仕上げられるため、カーモデルのボディの修正等に適している。別売されている「ラッカーパテうすめ液」を使用することで溶きパテとして筆塗りで細かい傷の補修等にも使用できる。

▼タミヤ「ビン入りサーフェイサー」(374円)

筆で塗るのに適した液状のラッカーパテ。パーツ表面の凸凹や気泡、キズなど比較的小さな箇所を修正や、今回のようなちょっとした隙間を埋めるのに適している。ただし粘度が低いので厚塗りには適さない。逆にラッカー溶剤で薄めれば、エアブラシで塗装することもできる。

▼タミヤ「タミヤパテ(ベーシックタイプ)」(330円)

ラッカー溶剤で練られているパテ。部品の隙間やヒケの補修、穴埋めなどに適している。硬化後はナイフや研磨ペーパーなどでの加工がしやすい。盛り付けたパテの厚みが1mm以下なら1時間程度で乾燥させられるが、厚塗りすると乾燥に時間がかかり、ラッカー溶剤成分が抜けることで肉痩せが生じることがあるため、基本厚塗りには不向き。

▼GSIクレオス「Mr.SSP 瞬間接着パテ」(1540円)

大規模修正やパーツの自作なども可能なパテ。主剤(パウダー)に液状の硬化剤を混ぜることでペースト状なり、さまざまな修正に使用できる。硬化が早く(効果促進剤と併用することで硬化時間を調整も可能)、盛り上げも可能で硬化後の切削性が良く加工がしやすい。

▼タミヤ「タミヤ瞬間接着剤 イージーサンディング」(396円)

通常の瞬間接着剤と比べて、硬化した後に削りやすい瞬間接着剤。細かいキズやパテ替わりにすき間を埋めるのに適している。

▼アルテコ「強力瞬間接着剤CA-07(高切削性・中粘度)」(1100円)

粘度が高いので流れにくく、ちょっとした隙間埋め、合わせ目の修正などに適した瞬間接着剤。一般的な瞬間接着剤に比べて硬化後の切削がやりやすい。アルテコ「スプレープライマー(瞬間接着剤用硬化促進剤)」との併用が推奨されている。

▼アルテコ「瞬間接着剤用硬化促進剤 スプレープライマー」(2299円)

 

■サーフェイサーで下地を整える

ビン入りサーフェイサーを使って隙間や段差の処理を済ませたのち、缶入りサーフェイサーを機体全体に吹き付けて、修正部分に問題がないかをチェックします。

この際に、パーツの合わせ目を消すためのサンディングで消えたしまったパネルラインの凸モールドをチェックし、後ほど再生させます(凸モールド再生は次回解説)。

ここまでくると、震電の特徴的なエンテ翼を採用したスタイルがよく分かりますね。いやカッコ良いです!

▲合わせ目の隙間や段差の修正が完了した状態。胴体の合わせ目は瞬間接着剤(アルテコCA-07)、主翼のヒケはフィニッシャーズのラッカーパテ、胴体と主翼の合わせ目に生じる隙間にはビン入りサーフェイサーをといった具合に、状態に応じてパテを使い分けている

▲缶スプレーのサーフェイサーを組み上げた機体全体に塗布。修正箇所のチェックと塗装下地を仕上げる

▲サーフェイサーによる下地塗装を完了した状態

▲サーフェイサーを流し込んだ修正で、サンディングで凸モールドを消すことなく主翼と胴体がスムーズに繋がっている

▲胴体上面の合わせ目は瞬間接着剤(アルテコCA-07)で修正、サンディングにより仕上げているため凸モールドが消えてしまっている

ということで今回はここまで。第3回となる次回は消えてしまった凸モールドの再生と、いよいよ機体塗装をおこないます。劇中機もそうなのですが、ところどころ塗装が剥げたウエザリング表現もポイントです。お楽しみに!

 

■アメリカでも開発されていたエンテ翼戦闘機「カーチスXP-55アセンダー」

今回『ゴジラ-1.0』に登場したことで注目を集めている震電ですが、実はエンテ翼(先尾翼型)戦闘機は、大戦中にアメリカでも研究されていたんですね。それがカーチスXP-55 アセンダーです。

1939年11月にアメリカ陸軍航空隊は、レシプロ機の限界を打ち破るべく単発の迎撃機の開発をメーカーに指示。「低い抗力、良好な視界、強力な武装の3つの条件を満たせば、どのような案でもOK」という、割とアバウトな軍の提案に対して、カーチスが開発したのがエンテ翼を持つXP-55アセンダーでした。

同機は先尾翼機で、主翼が後退翼を持ち、エンジンを胴体後部に配置してプロペラを駆動。降着装置は前輪式という設計で、一見すると震電とよく似ています。

しかし軍はこのアセンダーに対して、あまり採用に乗り気でなく(発注しておいてそれかよ)、地上試験用モデルと風洞テスト用モデルの製作のみを行い、試作機の発注はその結果次第という扱いでした。

仕方なくカーチス・ライト社は、まず実物大の飛行テスト機を自費製作し、1941年12月からテスト。その結果を軍に提出し、1942年7月にようやくXP-55として試作機3機の発注を陸軍から受けることができました。

しかしアセンダーは、操縦性の悪さに加えて失速しやすいという問題点が最後まで改善できず、1号機はテスト中に墜落。最高速度も当時の制式戦闘機を下回る628 km/hしか出なかったため、結局性能不良ということで開発計画は中止となってしまいます。残っていた3号機も1945年5月27日にオハイオ州のライト飛行場で行われていた航空ショーで飛行中に墜落、パイロットは死亡してしまいました。

震電も1回しか飛行していないので、実用化にあたっては多くの改良が必要だったとは思いますが、XP-55アセンダー に比べると優れた機体であったことは間違いないようです。

▲カーチスXP-55アセンダー。震電と同様のエンテ翼を採用、エンジンも同じく機体後部に搭載しているのでシルエットはよく似ている。しかし先尾翼の配置や垂直尾翼の形状などいかにもカーチス的ではあるが、震電に比べると全体的に洗練さに欠ける気がする

>> [連載]達人のプラモ術

<製作・写真・文/長谷川迷人>

 

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