インドのSコマース市場拡大、業界牽引する立役者Meeshoのビジネスモデルはどう生まれたのか

昨年インドネシアで、政府によってSNS上での決済手続きが禁止されたことは記憶に新しい。しかし、まさにそのビジネス「ソーシャルコマース」(Sコマース)が芽吹いてから10年、拡大成長と競争激化を続ける国がある。中国を抜いて世界最多の人口を抱え、2050年にはGDPランクで米国を抜き世界第2位の経済大国になると予想されるインドだ。

SコマースはSNSとEコマースが融合したものを意味する。WhatsAppやFacebookといったSNSプラットフォーム上で、小規模事業者や個人が商品の販売・再販・注文・決済を行えるシステムだ。ネットとスマホが普及したインドのSNSユーザー数は、WhatsAppが約5億3000万人、Facebookが約3億6000万人、Instagramも約3億6000万人とすべて世界最多で桁違いのマーケット規模となっている。今月公開されたResearchAndMarkets.comによる最新予測では「2024年現在市場規模72億ドルのインドSコマース産業は年間約30%の成長を続け2029年までに約257億ドルに達する」とのこと。

Meesho社の企業ミッションは「インターネットコマースの民主化」。Image Credits:Meesho

インドのSコマーススタートアップにはGlowRoadやDealShare、Mall91、Bulbul、SimSim、Trellなどがあり、各社とも資金調達や大手への事業売却といったニュースに事欠かないが、インドでこの分野を牽引してきた草分けは2015年創業の「Meesho」だ。同名のオンライン取引サービスを運営する同社はFacebookやソフトバンクグループなどからも資金を調達、2021年にユニコーンの仲間入りを果たしている。2023年末に行った決算発表では、2022~23年度の営業収益は前年度比77%増の573億ルピーで目標を達成したことを報告。同期間にインドで最もダウンロードされたショッピングアプリとしてのリーダーシップ保持が目標達成の背景にあるとした。

Meeshoのシステム。サプライヤーは手数料なしで利用できる。Image Credits:Meesho

Meeshoで個人がビジネスを行う場合、「アプリでカタログを閲覧して商品を探す→売りたい商品をWhatsappやInstagram、Facebookで共有→家族や友達、フォロワーから注文が入る→卸売価格に自分のマージンをのせて代金を回収、注文する」というスリーステップで簡単に利益を出せるようになっている。もちろん、メルカリのように自宅の不用品・中古品の販売もできるほか、中小企業が公式アカウントとして自社製品の販売もできる。

地元ショップと初期ユーザーからヒントを得たビジネスモデル

Meesho は名門インド工科大学の卒業生Vidit Atrey氏とSanjeev Bharnwal氏によって、インドのバンガロールで2015年に設立された。創業者2人が初めに取り組んだのは、地元に特化したファッション販売・配達アプリ「Fashnear」だった。特定地域の実店舗にアプリ登録してもらい、消費者がアプリで選んだ品物を配達するというシステムだ。しかし、顧客の関心は地元のショップ云々ではなくセール品か否かであったため、このビジネスモデルは機能しなかった。

創業者のVidit Atrey氏とSanjeev Bharnwal氏2人Image Credits:Meesho

それでも、この期間に地元小売業者の生の声とリアルな運営状況を目の当たりにした経験から、のちのMeeshoとなるソーシャルコマースの閃きを得ることになる。バンガロールのコラマンガラ地区のあるショップオーナーが、すでにWhatsAppとFacebookでビジネスを展開していたのだ。新着アイテムの写真をアップして客から注文が入ると、従業員がそれを配達して代金を回収してくると言う。このシンプルかつパワフルなビジネスモデルに創業者2人は大いに感銘を受けた。そして新たに始めたのがMeeshoのプロトタイプ(旧名称Meri Shop)である。

Meeshoの経営陣紹介ページはなぜかアベンジャーズ風になっていてお茶目。Image Credits:Meesho

プロフィールのRead Moreをクリックするとヒーローに変身する前の姿が表示される。Image Credits:Meesho

FacebookアカウントでMeeshoアプリにログインすると、Facebook上のショップ・商品情報がすべてMeeshoにも複製され、ユーザー専用のウェブページが作成される仕組みだった。さらにアプリ上で自動在庫補充や在庫管理まで支援。マーケティングが功を奏して、ローンチから半年で1万軒のストア登録を達成した。このとき、彼らをさらに先へと導いたのが女性の「リセラー」たちだ。

初期のアプリ登録ストアのほとんどが、一般女性が自宅で運営するものだった。こうした女性オーナーは、「リセラー」を自称。在庫を持たない状態で毎日商品情報を更新、注文を受けてから品物を仕入れて販売するという卸売業を行っていた。創業者たちはそこに商機を見出し、サプライヤーとリセラーの架け橋となるプラットフォームを目指すことに。こうしてMeeshoは、資金がなくともスマホ1台あれば誰でもオンラインビジネスを展開し生計を立てられる「ソーシャルコマース」アプリとなったのだ。

Meeshoのサプライヤーは当初から女性が多かった。2021年には女性起業家数900万人に到達。Image Credits:Meesho

2021年12月には、同社プラットフォーム上でビジネスを運営する女性起業家の数が 900万人に到達したことを発表。女性差別に苦しむインドの女性たちにとって、経済的自立を獲得するうえで貴重な手段となっている。また、2023年3月には国際女性デーに先立ち「#NoBiasInBusiness」という取り組みを立ち上げ、すべてのビジネスウーマンに対する平等な尊重と評価を求めた。

インドネシアのEコマース大手Tokopediaがビジネスの民主化を果たしたように、Meeshoも企業ミッションを「インターネットコマースの民主化」としている。同社が提供するプラットフォームは単なるビジネスツールにとどまらず、社会的な変化を牽引する力を持っているのだ。CEO自らがMeesho文化の構築と形成を率いる実動リーダーとして、従業員中心文化を熱心に推進してきた。従業員が「創業者マインド」を抱ける環境を作ることで事業拡大を実現してきたというMeesho。インド経済、インドのSコマースビジネスとともに今後も成長が続きそうだ。

(文・Techable編集部)


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