膨大な顧客や従業員との会話データから、質の高い分析を大規模に行うのは簡単ではない。人の手によるQAチームでは会話の一部しか見られず、バイアスが入る恐れもある。従来の会話分析ツールは特定のキーワードやフレーズしか捉えられず、やり取りの全体的な文脈を見逃してしまう。
膨大な会話ログの中には、ビジネス上の重要な課題や機会につながる洞察が隠れているはず。そこで登場したのが、次世代会話分析ツール「Conversational Analytics」だ。
Thematicは6月11日、このツールのベータ版をリリース。複数の大規模言語モデル(LLM)を活用し、数十万件もの顧客会話を戦略的に分析し、企業にとって重要な指標や事業に役立つトレンドを提供する。
会話データを分析し、顧客ニーズをつかむ
Conversational Analyticsは、Thematicの主力製品であるレビューやアンケート回答、コミュニティコメントの分析ツールを大幅に拡張したもの。生成AIの力で、アンケートやソーシャルメディアなど他のフィードバック源と並行して会話データを分析し、顧客ニーズを包括的に把握できるようになった。会話データがクリーニングされた後、LLMが各会話を要約し、何についてのやりとりだったのか、重要な詳細、解決したかどうかを伝える。そしてテーマや顧客の意図、解決状況などをタグ付けし、カテゴリ化。機械学習とLLMの組み合わせにより、要約に関連する会話の特定部分を切り出してリンクさせる。
データソースを接続するだけで、Thematic AIは大量の会話から何が起きているのかを正確に理解し、意思決定を支援。ファインチューニングやプロンプトは不要だ。
英通信Vodafoneや米デリバリ最大手DoorDashが顧客
Thematicは2017に米国で創業以来、着実に事業を拡大し、グローバルな顧客基盤を獲得してきた。2017年にはYCombinatorプログラムに参加し、売上が3倍に増加。2018年にはAIスタートアップ部門で最優秀賞を受賞するなど、製品イノベーションとビジネス開発が高く評価された。2020年には業務とオフィスが完全にリモートになり、ニュージーランドに研究開発拠点を設立している。
Thematicはすでに英通信大手Vodafone、米国デリバリ大手DoorDash、人材情報LinkedInなどの企業を顧客に抱えている。
Vodafoneニュージーランドは、Thematicのプラットフォームを導入してから9か月で、VodafoneのtNPS(購買・サービス利用の経験にもとづく推奨意向を数値化したもの)の全体的な向上を実現し、Vodafoneグループ内で他国と肩を並べるまでになったという。
分析するのは顧客の声だけではない。DoorDashはThematicのダッシュボードを通じて、従業員であるドライバーたちのフィードバックを分析。その結果、勤務時間が働き手の満足度に影響することがわかった。この情報はガバナンスでも取り上げられ、成果の高いスタッフへの新しい報酬システムも導入され、優秀なスタッフの定着率向上にも寄与したという。
Thematicの最高経営責任者(CEO)のAlyona Medelyan氏は次のように語る。
「当社のミッションは、あらゆる意思決定者がフィードバックからの洞察を簡単に得られるようにすること。LLMの台頭はゲームチェンジャーだ。いまや言語の理解のみならず、フィードバックチャネル全体で一貫した分析を提供することが肝要となっている」
フィードバック分析にAIを活用し、顧客の生の声をよりスピーディかつ的確に理解し、ビジネス上の意思決定につなげている。 こうしたモデルが常態化する時代となりそうだ。
(文・嘉島亜麻実)
- Original:https://techable.jp/archives/238359
- Source:Techable(テッカブル) -海外テックニュースメディア
- Author:Haruka Isobe
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