共通規格Matterで急成長予測のスマートホーム市場|クラファンにもMatter搭載製品登場

日本においてスマートホーム普及の障害の一つであった「メーカーごとの規格の壁」だが、2022年10月に登場した共通規格「Matter」によって解消される見込みとなっている。「Matter認証」の製品を選ぶだけでシームレスなスマートホームが実現することから、日本市場での急速な拡大も期待される。

「Matter」は、Connectivity Standards Alliance(CSA)が主導し策定・開発したスマートホームデバイス間の相互接続性に関する統一通信規格。Apple、Google、Amazonの3社が協力することから誕生した。スマートホーム機器間の相互利用だけでなく、安定した接続性や高度なセキュリティー対策を実現する。

CSAの日本支部設立でMatterの国内浸透推進

5月29日には上述CSAの日本支部(Japan Interest Group)が設立。「スマートホームのプロ集団」を自認するX-HEMISTRYは、同社CEO新貝文将氏が日本支部会長に選出されたことを6月27日に発表した。X-HEMISTRYはスマートホームに関する事業開発のコンサルティングおよび伴走支援を行う企業だ。

日本支部は今後、MatterやAliroをはじめとした標準規格や活動内容を日本支部加盟企業間で情報共有していく予定。また、Matterに関する技術部会(Matter TIG)も設立され、同部会議長にはmui LabのCXOである佐藤宗彦氏が選出された。

こちらのmui Labは7月29日のリリースDSR Corporation(DSR)との業務提携を発表。日本国内で浸透している通信規格「ECHONET Lite」と「Matter」の双方に対応するスマートホームコントローラーの開発を進める。

DSRは、CSAの前身であるZigbee Allianceから規格策定に携わるなど、スマートホーム領域での通信技術に深く精通するアメリカ企業だ。京都を拠点とするmui LabはMatter策定に向けたワーキンググループに2021年から参画、昨年にはMatterのソフトウェアコンポーネント認証をいち早く取得した。

新型「muiボード」など、クラファンでもMatter対応製品に注目集まる

mui Labは、スマートホームコントローラー「muiボード第2世代」を今年12月に出荷予定。今年1月には「先行予約」としてKickstarterおよびIndiegogoでプロジェクトを実施し、合計約2700万円の資金を集めた。また、この秋には国内で初となるクラウドファンディングも予定している。

Image Credits:mui Lab

Matterを搭載した同製品は、DSRとの共同開発による「スマートホーム制御システム」対応の最新モデルだという。インターフェイスはmuiボード第1世代より踏襲している天然木の静電容量タッチパネルで、インテリアに溶け込む家具のようなビジュアルが魅力だ。幅約60センチ、高さ約8センチ、厚さ2.6センチの本体は重量850グラムで、ナチュラルとダークの2色がある。

照明やエアコン、スピーカーやカーテンなどさまざまなIoT家電を操作できるほか、天気予報やタイマーといった機能も搭載されている。ボード上に指で書いたメッセージを表示させたり、Chat GPTに質問を手書きで送信することも可能だ。今後はスマートプラグやスマートロック操作も提供される予定。
mui Labは、400年の歴史を持つ家具専門店街である夷川通に拠点を構えるスタートアップ。2018年の「muiボード」(第1世代)発表以来、チームの人数は30人以上に成長した。muiボード第2世代は、伝統と技術の融合に成功した京都の文化と、夷川通での暮らしにインスパイアされたものだという。

クラファンサイトではスマートホームを実現する各種デバイスが次々と登場、プロジェクトを成功させている。多機能はもちろんながら、インテリアの邪魔をしない「インビジブル」重視のデザインが共通の特徴だ。

「InvisOutlet」はコンセントとカバープレートに擬態

家具にしか見えないmuiボードと同じくCES 2024で発表されたのが「InvisOutlet」で、こちらはコンセントに擬態した製品と言えるだろう。昨年のクラファンプロジェクトは12分で目標金額を達成、862人の支援者から約2600万円を調達した。今夏以降に製品としてローンチ予定だ。

Image Credits:Indiegogo

「インビジブルなコンセント」という名前のとおり、同梱のカバープレート「InvisiDeco」内部に各種センサーおよびWi-Fiルーターを搭載したもの。人感センサーで人の存在を感知して、それに合わせて扇風機やヒーター・照明を操作して室温や明るさを調節、快適な環境を維持する。

Image Credits:Indiegogo

また、二酸化炭素濃度を含めた室内の空気質を把握。窓を開けて空気の入れ替えを行うタイミングを知らせてくれる。住人が留守の場合には不要な家電をオフにして省エネも実現。侵入者を検知するとリアルタイムでスマホにアラートが届く。家の電源に直接接続するため電池は不要、操作はカバープレートのタップや音声、専用アプリ経由で行える。

開発元のIntecularはローズ・ハルマン工科大学卒のCEOであるLawrence Ko氏が率いるアメリカのスタートアップで、シードラウンドの資金調達活動を行っているとのことだ。Matter対応の「スマートホーム」を実現する製品だが、ホテルや病院での導入も提案している。

LeTianPaiの「Box」は45グラムのミニサイズ

8月4日にプロジェクトが終了したスマートセンサー「Box」は、人感・赤外線・気温・湿度・照明の5種のセンサー機能を1台で担うというもの。Matter対応でアレクサやApple Home、Google Homeなど複数のアプリと連動しスマートハウスを実現する。
55×55×25ミリ、45グラムとミニサイズで、マグネットやシールで設置場所を自由に選択・変更できる。照明として天井に取り付けも。ケースを変えれば見た目を「Box」から円状に変えることも可能だ。

Boxの獲得金額は約32万円。開発元であるLeTianPaiの前回プロジェクト「Rux Robot」が618人から3200万円以上を獲得したことを考えると金額的には小規模だが、目標達成度は約230%、支援者数は120人を超えた。プロジェクトは終了しているが現在もパークを購入可能。

北京を拠点とするLeTianPai(楽天派)は、中国Xiaomi最初期メンバーの1人だったLi Ming氏が2022年に設立したスタートアップ。Xiaomiの家電部門およびモバイルソフトウェア部門の副ジェネラルマネージャーなどの要職で活躍した同氏は、スマートドアロックや冷蔵庫・掃除機などの同社ヒット製品開発を主導した人物。

GRAND VIEW RESEARCHによると、今後CAGR27.3%での成長が見込まれるスマートホーム自動化市場において、2030年までのCAGRが最も高くなるのはアジア太平洋地域とのことだ。スマートホーム普及率では中国や韓国に比べて遅いと指摘されてきた日本だが、今後はメーカーとしても消費者としても存在感を増していくことが期待される。

(文・根岸志乃)


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