今年1月、時価総額最大の暗号資産であるビットコインの現物ETFが米国で承認。金融市場から大きな注目を集めた。また、国内に目を向けても上場企業のメタプラネットが「ビットコイン購入戦略」を採用し、財務資産としてビットコインの買い増しを継続的に行っている。
こうした状況のなか、9月21日・22日には日本初のビットコインに特化した国際カンファレンス「Bitcoin Tokyo 2024」が渋谷パルコDGビルの最上階にあるDragon Gateで開催された。国内外のキープレーヤーが集結し、多くの“ビットコイナー”がカンファレンスに参加し、ビットコインエコシステムの最新動向やトレンドについて触れる機会となった。
今回はDay2のセッションを取材し、その様子をレポートしていく。
AIが発展した先には「支払いのインフラ」が必要になる
ビットコインとは、政府や金融機関など発行主体が存在せず、ブロックチェーン技術を活用した世界初の暗号資産(仮想通貨)。2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる人物が、ビットコインに関する論文を発表。そこから16年経った今、暗号資産の時価総額ランキングで1位にランクインするまでに価値が上昇している。
金(ゴールド)と同様に、希少性や価値の保全性の高さから、ビットコインは“デジタルゴールド”とも呼ばれており、投資家を中心に「金融資産」としての需要が非常に高まっている。
一方で、2021年に世界で初めてビットコインを法定通貨に定めたエルサルバドルなど、ビットコインを「通貨」として使用するユースケースも存在している。このような事例を支えているのが、ビットコインによる決済を高速かつ安全に実現する技術「ライトニングネットワーク(以下、ライトニング)」である。
ライトニングの開発を手がけるライトニングラボは、AI技術を用いてビットコイン決済を可能にする技術の構築に取り組んでいる。
Bitcoin Tokyo 2024 Day2では、「AI時代の中立かつプログラマブルなお金」をテーマに、ライトニングラボ GrowthリーダーのMichael Levin氏が登壇。AI開発とビットコインの関係性や将来性についてプレゼンを行った。
Michael氏は前職のGoogleにて、プロダクトやマーケティングなど約5年間にわたってさまざまなチームに携わっていた。2021年にLightning Labsへ入社し、現在はHead of Product Growthとしてプロダクトの成長に寄与している。
冒頭では、「ビットコインとライトニングが決済インフラにおいて重要な役割を果たすユースケースを作ることの重要性」について触れた。
ライトニングでコーヒー代を支払う例は昔からある。ビットコインが「価値の貯蔵手段」から「交換手段」へと移行していくなかで、成長著しいAI産業に目を向け、新しいテクノロジーを取り入れながら価値提供することが求められているのだ。
そしてOpenAIがChatGPTを発表して以来、急速にAIソリューションが普及しており、今も現在進行系でAI技術は進化している。
「AIエージェントは、複数のステップを経て論理的かつ瞬時にタスクを実行できます。たとえば、東京で一番美味しいラーメンを尋ねると3つのお店を教えてくれる世界から、飛行機のチケットやホテルのレストランを予約してくれる世界になると、『支払いのインフラ』が必要になってくるでしょう。
今後10年間に、AIが世界経済に与える影響は1兆ドルから5兆ドル程度になると予測されています。この巨大な産業の中で、ビットコインとライトニングがどのような役割を果たせるかを考えることが大事だと言えます」(Michael氏)
AI時代におけるビットコイン決済の未来
一方で、演算・アルゴリズム・データの3つの要素で構成されているAIの機械学習モデルにおけるコストは非常に高価であり、先行投資が必要となる。AIについて考えるとき、GPUの価格やエネルギー消費量が高いことはもとより、AIモデルのトレーニングには多くの時間と労力を要するわけだ。
こうしたAIモデルの精度がより高度化していくことで、「どのようなデータにアクセスできるか」が、今後のビジネスにおける差別化要因になるとMichael氏は述べた。
Googleがアメリカ発の掲示板型SNSサービス「Reddit」とライセンス契約を結び、Redditのユーザーが投稿したコンテンツをGoogleのAIモデル学習に利用できるようにした動きは、まさにAIビジネスにおける新たなデータの収益化の事例だと言えるだろう。
Michael氏はAI全体における決済の役割について、「将来的にはAIエージェント同士がデータアクセス用のAPIに課金したり、現実世界で支払いをし合ったりと、AIによる支払いシステムの構築に非常に大きな貢献を果たすと考えている」と話した。
Lightning Labsでは、2023年に開発者向けのAIプロダクト開発ツール「LangChainBitcoin」をリリースしている。
ライトニングと統合してマイクロペイメント(少額決済)による従量課金APIや、AIエージェント同士によるデータのやりとりが可能となり、AIのデータ領域への応用が進んでいけば、新たなビジネスチャンスが生まれるだろう。
ユーザー体験とセキュリティの保証は完全に異なる
他方、別のセッションではビットコインエコシステムを代表するBlueWallet Co-Founder/Lead DeveloperのIgor Korsakov氏、Bitcoin Keeperを運営するBitHyve CEOのAnant Tapadia氏が登壇し、ビットコインを失わないための「鍵管理の鉄則」について議論が交わされた。
暗号資産を管理するうえでは、財布のような役割を果たすWallet(ウォレット)が必要不可欠となっている。暗号資産の所有者であることを証明する暗号コード(文字列)が「秘密鍵」であり、BlueWallet とBitcoin Keeperはユーザー自身が秘密鍵を保管する「ノンカストディアルウォレット」となっている。
Igor氏は「鍵を管理する最も重要なものはウォレットだが、『セキュリティにはスペクトラムがある』ことを理解しておく必要がある」と語った。
ユーザー体験とセキュリティの保証は完全に異なるものであり、要は全財産を預ける用途で考える場合もあれば、資産を分散させてリスクヘッジさせる場合など、ユーザー固有の状況に左右されているということなわけだ。
鍵管理の責任はユーザーにあるからこそ、リテラシーの教育が重要
こうしたなか、Anant氏は「マルチシグ(複数の秘密鍵を必要とするセキュリティ技術)を念頭に置いて、『脅威をモデル化』すれば、あらゆる状況に耐えるセキュリティの確保ができる」と話した。
しかし、ウォレットを提供する企業にとっては、高いレベルのセキュリティを維持しながら、ユーザビリティを向上させることが求められるだろう。ユーザビリティとセキュリティのバランスを取るために意識している点について、Anant氏は次のようにコメントした。
「ユーザーが使いやすく、支払いやすく、NFTや暗号資産のようなデジタルアセットを簡単に保管できるユーザビリティを保つうえでは、セキュリティの確保や鍵管理は維持すべきです。
私は倫理的な観点から、『鍵を失くさない限りは、そこにビットコインは存在し続ける』ことを常に念頭に置くべきだと考えています。私たちは、『ユーザーが鍵を安全に保管しているか』をアプリ内でヘルスチェックを行っています」
Igor氏も「基本的にウォレット提供者は、可能な限り鍵を安全に保管することが最も重要だ」とし、Anant氏は「ウォレット提供者として、ユーザーにバックアップ、セキュリティ、保管の責任があることを教える義務がある」と見解を示した。
(取材/文・古田島大介)
- Original:https://techable.jp/archives/245918
- Source:Techable(テッカブル) -海外テックニュースメディア
- Author:古田島大介
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