モネが遺した最後の背中──。あの夜の散歩道に宿された命の記憶を辿り、新たな境地へと歩みを進める。

長友心平さんが描いたのは、別れの前夜、奇跡のように歩いたモネの背中。命の尊さと静かな祈りが宿る絵画『最後の散歩道』には、見送る側と見送られる側の境界を越えた、魂の対話が。

▲モネを迎えるまで、何千枚もの犬の絵を描いてきたが、モネのお陰で、やっと飼い主と同じ立場から犬を描けるようになったという

長友心平・モネ 享年15歳(トイ・プードル)1977年、鹿児島県生まれ。東京在住の画家。「命の尊さ」をテーマに旅立った動物や天国の風景を色彩豊かに表現。全国各地で絵を描く楽しさを伝えている。NHKEテレ『趣味どきっ!』絵画講師として出演。NHK朝の連続テレビ小説『半分、青い』など美術協力多数。世界遺産「毛越寺(平泉市)」で仏画公開制作。2025年8月より全国上映『満天の星』(戦後80年ドキュメンタリー映画・文部科学省選定作品)にて美術作画を担当。@shinpeinagatomo

モネの最後の一日に感じたのは、
小さな体で命を全うする圧倒的な美しさ。
それを一つの意味として昇華し、飛び立たせました。

「モネが2023年9月20日に旅立って、今日は601日目。モネのことを話すたび、やっぱりまた会いたくなってしまうものですね」

そう語るのは、犬の似顔絵や物語ある絵画で知られる画家・長友心平さん。言葉の端々に静かな想いが滲むが、その表情は不思議と穏やかで、どこかあたたかい。

長友さんの愛犬・モネは、亡くなる前日の夜、寝たきりだったはずの体でふらりと立ち上がり、ゆっくりと、しかし確かな足取りでいつもの散歩道を歩いた。長友さんはその背中を見守りながら、「命の静けさと偉大さに、ただただ圧倒されて涙が止まらなかった」と言う。

その夜の記憶を絵に昇華したのが、モネを題材とした『最後の散歩道』だ。ただ、その制作には時間を要した。「1年近く描けなかったんです。100パーセント描ける自信がなかったから」と、長友さんは振り返る。だが、モネの命日に合わせた展覧会が予定されていた2024年の夏。そこに向けてようやく筆を執る決意が生まれた。「自分で決めたというより、その時と場が用意されていた感じ」と語る通り、周囲の仲間や生徒、そしてモネの存在に背中を押されてのことだった。

▲長友さんは、愛犬の似顔絵イベントや、生徒を集めた絵画教室などを全国で開催している

▲水彩画やアクリル画、ペン画、水墨画……、様々な表現で長友さんは作品を創造し続けている。『天国のクジラ』などの代表作も多数

▲ときにはカラフルに描いたりモノトーンに描いたり、そのコの個性や、そのコから感じとれるもの全てを絵に昇華していく

最初に描いたのは正面やお座りの姿だったが、「やっぱりあの夜に見た背中を描きたかった」。あの日、モネはただ歩いていたのではない。自らの生きた時間を、一つひとつ確かめるように、静かに、誇らしく歩いていた。その姿は、長友さんの目にはまるで神々しいまでに映った。

モネのことを誰かと話していると、
また会いたくてたまらなくなるよ。
キミと共に過ごした日々に感謝を込めて、
また全ての命に畏敬の念を持ちながら、
これからも僕は犬を描いていくね。

さらに絵の奥には、教会のステンドグラスのような窓を配した。「最初は白く描いた窓でしたが、やがて真っ黒に塗り替えた」と語るその黒は、悲しみではなく、命の奥行きを象徴する色だったのかもしれない。

「この絵を描き終え、人前に出すことで、一つの意味が飛び立っていきました。飼い主とか犬とかを越えて、生き物同士のやりとりに近い感覚だったんです」

▲2025年春に個展作品として描いたモネの似顔絵。「モネはとても人懐っこかったんです」と長友さん

保護団体から迎えたモネ。モネを選んだ理由を聞くと、「亡くなった母の面影と似ていたから」と長友さん。モネの名前の由来は、印象派を代表するフランスの画家・モネから

展示を終えた後、ふと背中しか描けなかったモネの顔が、自然と浮かぶようになったと、自身の不思議な感覚を振り返る。

「こうあってほしいっていう理想じゃなくて、モネの“呼吸”が見えたんです」。その瞬間、長友さんはようやくモネと正面から再会できたのかもしれない。

かつては、亡き犬の似顔絵を依頼されても、「自分だったら到底乗り越えられない」と、悲しみがよぎった。しかし、モネを見送り、この絵を描き切ったことで、今は「自然と寄り添いながら描けるようになった」と長友さんは言う。

長友さんの絵には、たしかに“時間”が宿っている。寄り添い、見送り、また出会う──。その静かな奇跡を、キャンバスにそっと閉じ込めながら。

▲「モネの後ろ姿には、最後の命をふりしぼって歩く尊厳がありました」。モネの別れに向き合い、魂を込めて描いた作品『最後の散歩道』を抱える長友さん

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<構成・文/小出健太郎、写真/小澤義人、協力/Deco's Dog Cafe 田園茶房>

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