「なぜスーツケースを背負うのか?」。モールシステムにエマージェンシーオレンジでギア感満点の「テオフィールドHS」。その開発目的はなんと「〇〇〇〇」だった、という話。

「円が弱くて海外旅行はちょっと」なんて話、最近聞きますね。そのため国内の観光地は大いに賑わいを見せているわけですが、国内外、邦人外人を問わない旅シーンの必需品といえばスーツケース。その旺盛なニーズに応えようと各社とも提案性ある商品を発売しているけど、エースの新作「テオフィールドHS」はギア感満点のスーツケース……だけじゃなかったのだ!

まず「だけじゃないのなら、何のための新製品なの?」という話になりますが、答えは既に商品名に示されている。それは「HS」。

「商品名のHSは、HOME STORAGEで、“家庭内の備蓄収納”がコンセプトです」。とは、スーツケースのトップブランド「ace.」で商品開発の任を負うメンバー、白石悠一郎さん。本製品「テオフィールドHS」の言い出しっぺ、もとい担当者だ。(以下「 」内コメントは白石さん)

「テオフィールドHS」は「ace.」ブランドで展開するスーツケースの新作で、発売は8月末。このモデルの前身として2023年8月末にリリースされた「テオフィールド」があり、こちらも現行品。ということはシリーズの追加品番ということになる。

▲「テオフィールドHS」イメージ(防災用品は付属しません)

▲付属品「リフレクター付き吊り下げポーチ」は「テオフィールドHS」本体に装着可能

「2年前に出た「テオフィールド」のキャッチコピーは“旅行・アウトドアにも、避難時にも使えるフェーズフリースーツケース”でした。フェーズフリーって? と思われる方もおられると思いますが、これは身の回りにあるモノやサービスを、日常・非日常の垣根なく役立てる、という考え方です」。

なるほど「これは防災用品だから有事の際の専用に」ではなく、「普段使い用品であるが、イザの時も使える」あるいは「備えない防災」として活用できるということ。だから僕らの身の回りにあるアウトドア用品の中にも、敢えてそう位置付けはされていなくても、フェーズフリー用品としての素質を持っているものはある。

▲「テオフィールド」デビュー時。2サイズ×3色展開だった。現在は3サイズ×4色展開

■なぜフェーズフリーなのか?

今年創業85周年。スーツケースの老舗であるエースにとっても、フェーズフリーを謳う製品化は先の「テオフィールド」、そして同時期にリリースされた「フロートビズリュック」「ガジェタブルPF」がお初だった。いま思い返せばフェーズフリー的な要素をもった製品もあったというが、いずれにしろ、フェーズフリー協会から認証を受けた「フェーズフリー認証製品」はエース初。

「これらフェーズフリー製品誕生のきっかけは、弊社とは長くお付き合い頂いている千葉工業大学松崎教授のアドバイスでした。ある打ち合わせの際、フェーズフリーという言葉や考え方があることを教えていただいたのです」。

▲左「ガジェタブルPF」、右「フロートビズリュック」

▲フロートビズリュック 右/ガジェタブルPFにはホイッスル付きバックルを採用

防災専用品なら専業メーカーがあるし、一日の長は彼らにある。ではエースとしてフェーズフリーをものにするにはどんな切り口が考えられるか? 白石さんはざっくりとしたプランを頭に、信頼している社内デザイナーを尋ねた。

「トラベルとアウトドアを両立できるスーツケースを作りたいのですが」。

「なるほど。相性よさそうだね。キャンプやミリタリーのディテールを採用しようか」。(デザイナー氏)

「さらに防災の要素も盛り込んで」。

「なぜ、そこに防災⁉」。(デザイナー氏)

トラベルとアウトドア≒キャンプは相性がいいのは自明の理。いずれもアウトフィールドであるし、タフさ、持ち運びやすさ、使いやすさなど求められるポイントも近しい。「テオフィールド」ならではの機能性を付与したことで、軽量モデルとは謳えない(それでも機内持ち込みサイズで3.2㎏だ!)ものの、頑丈なギアを手に入れる喜びは『&GP』読者なら納得のはず。「ace.」ブランドとしては初となるフロントオープンデザインとしたのも好評を後押しした。

▲アウトドアでの「テオフィールド」。フロントオープンの一気室仕様としても使えるので出し入れがしやすい。デイジーチェーンはアクセサリーやギアの吊り下げに

発売以来「意外なほど!」(白石さん・笑)セールスも好調で、セレクトショップ・コラボの依頼、特定用途向け特別オーダーの受注など「刺さる人には刺さる!」製品であることが見えてきた。その証拠に、要望の多かったカーキ色の追加、最大サイズの追加を実施し、現在では3サイズ×4カラー=12品番でドド~ンと展開。そこに加えられたのが、新作「テオフィールドHS」だ。

▲こちらは「テオフィールド」追加カラーのカーキ。目下の売れ行きNO.1カラーがこれだ

■「HOME STORAGE」が意味するところ

追加型がリリースされるのはつまり、商品が好評をもってユーザーに迎えられている証拠である。

「「テオフィールド」ユーザーの中には、スーツケースとしての使用はもちろんのこと【自宅では見せる収納として使っている】方がおられるようでした」

ブラック、ベージュ、ブルーにカーキといったアウドドアカラー、ギア感満タンな仕様と意匠とくれば、ユーザーが特別気にする・しないは別としても、フェーズフリー製品としては狙い的中と言ったところだろう。つまり、トラベルギア、アウトドアギアとして手に入れたユーザーが、自然にフェーズフリーに一歩足を踏み入れていることになるからだ。

いずれにしろ次の一手は白石さんの頭の中にあった。方向性としては「防災」。要するに「いざ!」の時の使い勝手を高めるためのリ・デザインである。

旅、アウトドアそして防災で役立つスーツケースという「テオフィールド」としての背骨は不変ながら、「テオフィールドHS」では敢えてフェーズフリーという冠にしばられることなく、株式会社サイボウが運営する防災用品ブランド「サイボウパーク」と共同開発。

「これまで通り、旅行でもアウトドアでも活躍しますが、より防災に寄せたのが「テオフィールドHS」。最大の特長は背負えるスーツケースであることです」。

▲「キャスターストッパーが欲しかったとのお声を頂いています。次作ではぜひ!」と燃える男の白石さん

取り出したハーネスを上下左右4か所のループに装着すると、あっと驚く、スーツケースリュックの登場だ!

■なぜスーツケースを背負う?

「むろん奇を衒ったわけではありません。日頃から防災用品を備蓄収納(HOME STORAGE)しておく。イザの時にはそれを手に避難する。この一連の動きはいいとしても、たとえば街中や道路ががれきで荒れていたり、冠水していたり、避難場所が高台だったりと、タイヤで引いていくのが難しいシーンも想定されます。『だったら緊急避難的に背負えるようにしたらどうだろう』というのがハーネスを装着した理由です」。

水や食料に防災グッズと、重い荷物は転がして運ぶ方が圧倒的に楽だろう。しかし足場が悪い場所や階段などでは時的に背負えた方が都合が良い。

▲「スーツケースを背負うという意味で参考にしたのは楽器ケースでした」と白石さん。※写真は試作品

ぱっと見は似ているが、通常版と「テオフィールドHS」はそのディテールにおいてかなり違う。モールシステムやデイジーチェーン、フック付き台座の新設。フライトジャケットを連想させるエマージェンシーオレンジの内装とポーチ。そして収納力を拡大させるエキスパンダブル機能などがそれにあたる。直径60㎜の大径ホイールや限られたスペースでも開閉しやすいフロントオープン仕様などは継承している。

「価格は税込4万6200円と、現行モデルの「テオフィールド」比8800円アップとなりましたが、備える気持ちに前向きになれるギアとして、ユーザーに響くと信じています。発売は防災の日を控えた8月下旬です」。

▲リフレクター付きポーチを装着してマチを拡張した「テオフィールドHS」と生みの親。白石さんは鉄道マニア(乗り鉄)で、近い将来には鉄分多めな商品が出る……かも知れない

そういえば「テオフィールド」の「TEO」ってなんだろう?

「TRAVEL、EMERGENCY、OUTDOORのイニシャルになります。「テオフィールド」はフェーズフリー製品として。また「テオフィールドHS」はより防災に振った製品としてリリースしました。「E」で活躍することのないのが理想ですが、「T」と「O」では、ガンガン連れ出していただきたいですね!」。

ace./テオフィールドHS
本体サイズ:高54×幅36×マチ25(29)㎝/機内持ち込みサイズ
カラー:グレー
税込価格4万6200円

>> テオフィールド

<取材・文/前田賢紀>

前田賢紀|モノ情報誌『モノ・マガジン』元編集長の経験を活かし、知られざる傑作品を紹介すべく、フリー編集者として活動。好きな乗り物はオートバイ。好きなバンドはYMO。好きな飲み物はビール

 

 

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