先日、仕事で出向いた東京・町田で時間が空き、アウトレットモール・南町田グランベリーパークに立ち寄りました。たまたま入ったブティックで良いスーツを見つけ、その場で買うことにしましたが、聞けば「パンツの裾上げをする必要があります」と言います。
「あ! そこまでは考えていなかった!」と慌ててモール内のお直し屋さんへ。その場で裾上げをお願いしました。費用は1500円強で、完成時間は90分。手間のかかるお直しをお願いするので、送ってもらうなどを覚悟していた、このスピード感にまず大助かりでした。さらに、裾上げのクオリティ自体もかなり繊細で、元々あつらえて仕上げられていたかのよう。スタッフの皆さんの過不足ない接客も素晴らしく、ちょっとした感動を覚えるほどでした。
しかし、ここで素朴な疑問も浮かびました。そのお直し屋さんの奥には、顧客がアウトレットショップで購入し持ち込んだとおぼしき新品の高価な洋服が山のようにハンガーにかけられています。
▲お直し屋さんのカウンターの奥にかけられた無数の洋服たち
その無数の洋服を前に「速く仕上げる」「高品質に仕上げる」という、素人目には「相反する条件」をどう実現しているのか、ということ。
そんな疑問もあり改めてこの南町田グランベリーパークを訪ね、お世話になったお直し屋さん「洋服のお直しグランマジック」に潜入。スタッフの方にその秘密を聞いてみることにしました。
▲南町田グランベリーパークにある唯一のお直し屋さん「洋服のお直しグランマジック」
■全ての接客は技術者が行い、自らが必ず顧客と向き合う
▲取材に対応してくれたマネージャーの神品敦子さん
よく聞けば、「洋服のお直しグランマジック」は、全国に220店舗以上を直営で展開する大手のお直し屋さん「おしゃれ工房」の1つのブランドとのことですが、だとするとさらに謎が深まります。
飲食業が顕著ですが、たとえ直営であってもチェーン展開が大きくなればなるほど、どうしてもクオリティの均一化は課題になってくるはずです。さらに、繊細な「お直しを行う業態」となれば、こういったことは大きな課題となるはずです。しかし、前述の通り、筆者がオーダーした裾上げは実に完璧なものでした。
ますます謎が深まりますが、マネージャーの神品敦子さんによれば、こんなふうにその裏側を教えてくれました。
「お直し業の中には、店舗でお直しの受付をした後、セントラル工場に受注した衣服を送り、そこで作業を終えた後、また店舗に送り返してお客さまにお渡しする…というところもあるようです。
しかし、当社では受付スタッフ全員が『お直しの技術』を持っていて、その店舗でお直しをさせていただくことが多いです。お客さまと直接対面して作業をすることで、お客さまごとに異なる『ひとつひとつの想い』に寄り添い、より良いサービスを提供できるように努めています。
また、そうすることで、例えばお客さまが当初考えていらしたお直しよりも、よりご希望に合ったお直しをご提案できることがあります」(神品さん)
▲技術スタッフが接客も全て行います
つまりは、「受付だけを専門的に行うスタッフ」で構成しているわけではなく、技術者自ら接客することで、顧客は安心してオーダーすることができ、またスタッフ側も「その人の想い」を感じ取って作業することで、より丁寧にお直しをしようという気持ちもわいてきます。
■細分化された『社内基準』と技術向上サポート
▲スタッフの技術向上にも秘密がありました
しかし、ここでもまた謎が生まれます。それだけの技術者をどのようにして雇用しているのか、ということ。全国に220店舗以上も展開するおしゃれ工房ですが、腕のある技術者をどのように確保しているのでしょうか。
「経験者の方を雇うのが確かに一番楽ですけど、やはり限界がありますよね。そんな理由から、実は当社は『未経験のスタッフ』も多いんですよ。
未経験の方は、店で実際にお直しや、接客をするまでには徹底した技術研修を行います。また、技術研修は社内で定期的に行われており、JTを含めさらなる技術向上をしてもらっています。
社内で細かく設定した『社内基準』に準じ『初級クラス』『Cクラス』『Bクラス』『Aクラス』『Sクラス』といったクラス分けをします。仮に、なかなか技術が向上しないスタッフには、どんなところにその原因があるかを見つけて、マネージャーなどが積極的に指導を行い、技術向上をサポートするようにしています」(神品さん)
ちなみに、店頭スタッフのうち、初級クラスクリアのひとつの目安が「1時間に4本のスラックスをシングルで裾上げする」というものだそうです。
▲神品さんに裾上げを実演してもらいました。スラックスをカットし、すぐにミシンへ
▲裾上げの後、アイロンをかけ…
▲最後にきれいに整えて完成!
■ある段階を超えると「速さ」&「品質の担保」は技術面の相乗効果を生む
▲お直し時間を示すボード
また、冒頭でも触れた「速く仕上げる」「一定以上の品質の担保」という一見「相反する条件」については、ある段階にいくと、「相反する条件」でなくなり、相乗的な効果を生むのだとも。
「確かに、習得の初期段階では、『速く仕上げる』『高クオリティに仕上げる』という2つの条件をそろえるのは難しく感じるかもしれません。
しかし、一定以上の技術を持ったスタッフにとっては、一定時間で多くのお直しが可能となるので、結果的に技術向上の場にもなり、実は質がどんどん上がっていくんです。
さらに、前述のように『技術者が接客も行う』ことで、『お客さまが本当に求めているお直し』を理解しカウンセリングすることで、的確かつ高品質のものに仕上げられるようになります」(神品さん)
「高品質なお直し」の実現には、システマティックかつ細やかな体制に加えて、こんな人間特有の要素もあったというわけです。
■ほとんどの衣服でやれない「お直し」はない!?
▲ミシン糸は異なる太さ、色などのものを常時1000以上準備して様々なお直しに備えています
「洋服のお直しグランマジック」はアウトレットモール・南町田グランベリーパークに入っているため、受注の多くはやはり「裾上げ」だそうですが、実はさらにハイレベルなオーダーも受注できると言います。「大事な洋服だが、体型が変わって着られなくなった。なんとか調整できないか」「この洋服の生地を使って何か別のものに転じられないか」などにももちろん応じるとのこと。いわく、「費用はまちまちだが、ほとんどの衣服の『お直し』でやれないことはない」とも。
「例えば、ジャケットなどで『体型が変わって着られなくなったが、調整できないか』といった場合、見えないところの生地を出して、広げることができることが多いですし、パンツも同様です。別の生地を足して広げることもできますが、どうしてもおかしい感じになってしまうので、できるだけ、表から見えない部分から移植するなど『あるもの』を活かしたお直しをご提案させていただいています」(神品さん)
▲筆者のジャケットも見てもらいました
ちなみに、これまでに受注した珍しい「お直し」を聞いてみると……。
「最近では制服リメイクなども人気です。高校時代に来ていた制服をぬいぐるみ用にリメイクしたり、ランドセルを手のひら大に作り変えてぬいぐるみが背負えるくらいのサイズにするなどのサービスも受け付けています。
また、さらに珍しいものだとお父さんの柔道着を息子さん用にリサイズして欲しいとか、毛皮のコートをバックにリメイクしてほしいなんて依頼も対応させていただきました」(神品さん)
■アウトレットモールのお直し屋さん利用アドバイス
▲店頭の雰囲気が良いのも「洋服のお直しグランマジック」の魅力。またお願いしたいと思いました
2つと同じものがない衣服、さらに顧客ごとに1人ずつ異なる要望を的確に理解し、「スピード」と「クオリティ」を両立させた仕上げの秘密がよくわかりました。最後に、「アウトレットモールでのお直し」でのアドバイスもいただきました。
「平日の午前中などは一番空いているのでねらい目です。逆にゴールデンウィーク、お正月はかなりの繁忙期で、1日に100人以上のお客さまがお直しのオーダーに来られます。受注状況によって、仕上がり時間も大きく変わってきます。早い時間帯にご依頼いただくなど『お直しの時間』も加味してショッピングをお楽しみいただくと良いと思いますよ」(神品さん)
アウトレットモールに行くと、「どんなブランドが入っているか」「どれだけ安いか」みたいなことばかりに目が行きがちですが、衣服によっては購入後の「お直し」も大切なこと。これからはしっかり時間配分を意識し、アウトレットモールを楽しもうと思いました。
<取材・文/松田義人(deco)>

松田義人|編集プロダクション・deco代表。趣味は旅行、酒、料理(調理・食べる)、キャンプ、温泉、クルマ・バイクなど。クルマ・バイクはちょっと足りないような小型のものが好き。台湾に詳しく『台北以外の台湾ガイド』(亜紀書房)、『パワースポット・オブ・台湾』(玄光社)をはじめ著書多数
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