【趣味カメラの世界 #30】
ここ最近、巷では「またコンデジが盛り上がってきたぞ」という空気が漂っています。小さくて、持ち歩きやすくて、気軽に撮れて…と、いいことづくめのカメラです。その流れの中で、新作として登場したSony(ソニー)の「RX1R III」(実勢価格:65万8900円)が話題です。今回はその実力を、フォトグラファーの田中さんに試してもらいました。
監修・執筆:田中利幸(たなかとしゆき)|ファッション誌などでブツ撮りやポートレートを中心に活動するフォトグラファー。カメラ・ガジェット好きで自身で運営するブログ「Tanaka Blog」において、カメラやガジェットに関するちょっとマニアックなことを書いている。
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筆者は普段、ソニーの「α7R V」と「α7C II」を使っています。どちらもフルサイズとは思えないほど扱いやすく、仕事でも日常でもつい手が伸びる相棒です。でも、RX1R IIIを初めて握ったときは、その小ささに「え、こんなに?」とちょっと驚きました。
実際に電源を入れて撮ってみると、写りの雰囲気や操作の感じは “いつものソニー”。フルサイズのカメラなのに、このサイズ感で持ち歩けるのはやっぱり魅力的で、サブ機や日常スナップに合いそうだな、と発売当初から気になっていた一台でした。
■「α7C II」と比較しても際立つコンパクトボディ

写真左のRX1R IIIは実測で約490g(バッテリーとメモリーカード込み)。写真右のα7C IIに「FE 35mm F1.8」を装着した約773gと比べると、その軽さは一目瞭然。スペックだけを見ると似た印象の2台ですが、実際に並べるとRX1R IIIのコンパクトさは際立っており、思わず驚かされます。
ただ、小さいからといって“軽いだけ”のカメラではありません。手に持つと見た目以上の密度感があり、しっかりとした作りの良さと堅牢性が伝わってきます。
60万円を超える価格だけを見ると、コンデジの枠を超えているようにも映りますが、手に取ればそのビルドクオリティに納得させられます。

ちなみに、レンズの横でさりげなく光る「ZEISS」の青いロゴも印象的。過度に主張するわけではありませんが、確かな存在感があり、手にしたときの所有欲を満たしてくれます。
■趣味としてのカメラ運用における“軽さ”の価値
この連載でも何度か書いていますが、趣味としてカメラを楽しむうえで“軽い”というのは、やっぱり圧倒的な正義だと思います。撮る目的が「作品づくり」だけでなく、「日々の記録」にも広がっている人ほど、この軽さがどれだけ味方になってくれるかは大きいはずです。

ポケットサイズとまではいきませんが、ジャケットの内ポケットや、小さめのショルダーバッグならすっと入ってしまう大きさです。
通勤の道すがらや、買い物のついで、散歩中のちょっとした瞬間。これまでなら「今日は重いし、まあいいか」と置いていったような日でも、気軽に連れていけます。
■操作感の心地よさとミニマルデザインのいい関係

コンパクトなサイズだからといって、操作感が損なわれていないのも、このカメラの魅力。レンズには絞りリングが備わり、指先でカチリと回すたびに心地よい手応えがあります。その質感が“カメラを操作する楽しさ”をしっかり思い出させてくれます。

日々の記録という目的では、意外と重要になるのが最短撮影距離です。本機は最短20cmまで寄れるため、被写体の質感をしっかり捉えるようなマクロ撮影にも対応。
ただし、最短距離で撮る際はレンズ先端を回してマクロモードに切り替える必要があります。慣れないうちは、マクロのまま通常撮影をしようとしてピントが合わず、少し戸惑うこともありました。
▲ソニー RX1R III、シャッタースピード1/2000秒、F2、ISO200、クリエイティブルック:ST
寄りの撮影でも、開放からピント面はしっかりとした解像感があり、シャープに写ります。開放F値は2.0とやや控えめではありますが、ボケを生かした表現も可能。背景のボケは滑らかで自然で、扱いやすさを感じました。

シンプルでミニマルなデザインながら、グリップはしっかり備えられています。
握りの深さはほとんどないものの、滑りにくいラバー素材で、思ったよりもしっかりとカメラを保持するのに役立ちます。

コンパクトなボディでありつつ、機能を割り当てられるカスタマイズボタンはしっかり用意されています。自分の撮影スタイルに合わせて設定を整えられる点は、大きな魅力です。なかでも便利だと感じたのが、シャッターボタン付近にデフォルトで設定されているステップクロップ撮影。
35mm単焦点のカメラでありながら、50mm・70mm相当の画角へワンタッチで切り替えられます。有効約6100万画素という高解像度を生かせば、70mm相当でも約1500万画素を確保でき、実用上の解像度としては十分。まるでズームレンズのように焦点距離を変えられる感覚で、気軽に使えるのが印象的でした。
この機能は、ぜひαシリーズにも搭載してほしいと思うほど。単焦点固定という制約を、高画素の力で柔軟に補ってくれる、非常に実用的な仕組みです。
■固定式モニターの潔さ

固定式のモニターは、ローアングルや自撮りでは少々使いにくさを感じる場面があります。ただ、その分ボディの厚みが抑えられ、全体のデザインもすっきりとしているため、大きな不満にはつながりにくい印象。
可動機構を省いたことで金属ボディの剛性感も高まり、手にしたときの質感や高級感にも寄与しています。

モニターが固定式だからというわけではありませんが、ファインダーが備わっているのも地味にうれしいポイントです。
個人的には、ファインダーを覗いて撮ると「撮影している」という実感がグッと高まるので、コンデジでありながらしっかりとしたファインダーを搭載しているのは好印象でした。
■普段使いでこそ光るフルサイズ
▲ソニー RX1R III、シャッタースピード1/2000秒、F3.2、ISO125、クリエイティブルック:FL
このカメラは、常に持ち歩きたくなり、ふとした瞬間にシャッターを切りたくなるカメラです。気軽に連れ出せるコンパクトさでありながら、画質はやはり見事。レンズ一体型だからこそ、センサーに最適化された緻密な描写が得られます。

そして、有効約6100万画素という解像度を、これほど手軽に持ち出せるようになったことに、カメラの進化を改めて感じました。
次回は、このカメラで特に気に入ったクリエイティブルック「FL」を紹介します。空や街並みをどんなふうに描き出すのか、作例とともにお届けします。
>> 趣味カメラの世界
<取材・文・写真/田中利幸 モデル/野上桜禅(@iam._.on)>
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- Original:https://www.goodspress.jp/columns/708560/
- Source:GoodsPress Web
- Author:GoodsPress Web
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