何もない通常の年でさえ、スタートアップの経営を成功させるには大変なパワーが必要だ。2020年のコロナ禍の後、すでに余裕のない状態だった多くのスタートアップがぎりぎりの経営を続けている。パンデミックの最中、自社の製品やサービスに対する関心の高まりを感じたスタートアップの中にも、最後まで走り抜くことができなかったものがいくつかあった。
TechCrunchが、その年に生き残れなかったスタートアップのリストを作成するようになってから、もう数年が経つ。決して楽しい仕事ではないが、その年に会社をたたんでしまったスタートアップを振り返ってみるのは価値あることのように思える(中には会社をたたむ前に大企業に買収されたスタートアップもあるが、そうしたスタートアップが終わりを告げたことを示すのもやはり価値のあることのように思える)。また、そうした会社の問題点を少し遠くから客観視することで、コミュニティ全体で覚えておくべき重要な点がないか検討してみる機会にもなる。
今年のリストはこれまでで一番多様性に富んでいる。小企業のありふれた終焉からQuibi(クイビー)やEssential(エッセンシャル)などの大型スタートアップの破綻まで、さまざまなケースがある。今年のパンデミックでとどめを刺されてしまった企業もあるが、新型コロナウイルスによって世界経済が突然停止する随分前からビジネスモデルのさまざまなほころびが表面化し始めていたケースがほとんどだ。
Atrium(2017-2020年)
調達総額:7500万ドル(約77億6000万円)
Justin Kan(ジャスティン・カン)氏によって創業された従業員100人の法務テックスタートアップAtrium(アトリウム)は、法律事務所の厄介な旧態依然としたシステムを置き換える効率的な方法を見出すことができず、3月に廃業した。アトリウムは調達した7550万ドル(約78億1000万円)の資金の一部をAndreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)などの投資会社に返却さえしている。
アトリウムが廃業したのは、その数か月前に同社が方向転換して、社内弁護士を解雇し、より明確にSaaS方向に舵を切った後である。結局、アトリウムの失敗は、従来型の複雑なシステムをディスラプト(創造的に破壊)することがいかに困難で採算性に乏しいかを示している。
アトリウムは当初、スタートアップ向けに資金調達、採用、買収をナビゲートし、法務チームとの協働体制を築くためのソフトウェアの構築を目標として創業された。同社の事業が終わりを告げたのは創業から3年後だった。
Essential(2017-2020年)
調達総額:3億3000万ドル(約341億5000万円)
壮大なプラン、大物幹部、そして潤沢な資金は、Essential(エッセンシャル)に長期のランウェイを用意するのに十分なはずだった。確かに、エッセンシャルは成熟した飽和状態の市場に参入しようとしていた。Playground(プレイグラウンド)から出資を受けた同社がその困難な道を選択したのは、3億3000万ドル(約341億5000万円)の調達資金、業界トップの幹部を揃えた経営陣、真に革新的ないくつかのアイデアがあったからだ。
筆者がエッセンシャルの創業時に話を聞いたとき、1人の幹部が、モバイルとスマートホームの分野でトップ企業になる10年計画の概要を説明してくれた。結局、この会社が何とか存続できたのは、世に出てから3年足らずの間だけだった。確かに期待できそうなハンドセットを発表したが、常時接続型ホームハブはまったく実現しなかった。
タイミング、広範なマーケティングの問題、性的不品行という厄介な疑惑などがすべて相まって、エッセンシャルの壮大な計画は歩みを止めることになった。
調達総額:1140万ドル(約11億8000万円)
Shruti Merchant(シュルティ・マーチャント)氏によって創業されたHubHaus(ハブハウス)は大人向けの宿舎が流行するという確信に根差した長期のシェアハウスプラットフォームだった。都市のホワイトカラー層をターゲットとして、有名なベンチャーキャピタルから約1100万ドル(約11億4000万円)だけ調達した。シリーズBの資金調達に入ると、マーチャント氏は何とかラウンドを成功させようとしたが、WeWork(ウィーワーク)のIPO失敗の影響で投資家の関心を失った。
その後、自己資金で運営する会社に方向転換し、基盤を築こうとしていた矢先に、米国で新型コロナウイルスのパンデミックが発生し、レンタル市場は壊滅的な打撃を被った(その打撃の大きさはAirbnbの上場苦戦にも現れている)。結局ハブハウスは9月に廃業を決定し、家主、会員、ベンダーは中途半端な状態で放置されたため、厳しい批判と論争を引き起こした。
ベイエリアでは手頃な価格の物件不足が引き続き課題となっており、 ハブハウスが廃業したことで、ますますその現状が浮き彫りになっている。
調達総額:5500万ドル(約56億9000万円)
Adam J. Goldstein(アダム・J・ゴールドシュタイン)氏とRedditの共同創業者Steve Huffman(スティーブ・ハフマン)氏によって創業されたHipmunk(ヒップマンク)は、市場初の旅行サービス集約プラットフォームの1つだった。同社はフライト、ホテル、車のレンタルなどの情報を1か所にまとめて、利用者が価格を簡単に比較対照できるようにした。
ヒップマンクのプラットフォームに対する注目度は非常に高く、Concur(コンカー)に買収されたが、4年経過した今、このトラベルスタートアップは閉鎖された。ただし、言っておくが、ヒップマンクの閉鎖は必ずしも新型コロナウイルスのパンデミックと関係しているわけではない。ヒップマンクのサイトは1月23日、つまり米国でロックダウンが実施される数か月前に正式に閉鎖されていた。
調達総額:5140万ドル(約53億2000万円)
IfOnly(イフオンリー)は「Goat Yoga」などの招待制イベントのマーケットプレイスを築いた(Goat Yogaはまさにパンデミック中に難問に直面したビジネスの1つだった)。イフオンリーは、出資企業の1つであるMastercard(マスターカード)によって昨年末に買収されたが、買収の事実は、イフオンリーが夏の間に事業の閉鎖を明らかにするまで発表されなかった。
マスターカードは、イフオンリーのチームとテクノロジーは依然としてPriceless(プライスレス)エクスペリエンスマーケットプレイスの一部であり、「IfOnlyプラットフォームは引き続きプライスレス戦略の推進に役立っているし、弊社との共同チームは、世界中のカード所有者に独自のエクスペリエンスを従来よりも良い状況で提供する用意ができている」と述べている。
Mixer/Beam Interactive(2014-2020年)
調達総額:52万ドル(約5390万円)
マイクロソフトは今年、Twitch(ツイッチ)の競合会社であるMixer(ミキサー)を閉鎖し、そのパートナーシップをFacebook Gamingに譲渡した。 ミキサーはもともと、2016年のTechCrunch Startup Battlefieldで優勝した直後のBeam Interactiveをマイクロソフトが買収したところから始まった。
マイクロソフトは譲渡前にミキサーを成功させるいくつか大きな投資をしてきた。中でも注目すべきはストリーミング界のスーパースターNinja(ニンジャ)およびShroud(シュラウド)との独占契約を結んだことだ(彼らはミキサーの閉鎖後フリーエージェントとなった)。ただし、マイクロソフトのゲーミングチーフPhil Spencer(フィル・スペンサー)氏は、ミキサーは、ストリーミング市場の最大手より「はるかに遅れて」参入したことに苦しんでいた。
調達総額:1020万ドル(約10億5700万円)
ニュースメディアプラットフォームはイノベーションと投機で忙しい年だったが、自らを「次世代のThe New Yorker」と称していたThe Outline(アウトライン)は事業を停止した。同社はJosh Topolsky(ジョッシュ・トポルスキー)氏によって創業され、ミレニアル世代にデジタルファーストなニュースメディアブランドを提供することに明示的に重点を置いていた。
The Outlineの閉鎖は同社を2019年に買収したBustle Digital Group(バッスルデジタルグループ)の広範なレイオフの一環だった。だが、The Outlineは買収される前すでに、編集部員を削減し、フリーランス執筆の記事に方向転換していた(トポルスキー氏がBDG傘下で創業したテックサイトInputは事業を続ける)。
Periscope(ペリスコープ)は突然倒れたというより、どちらかというと泣き言を言いながら廃業したという感じがする。ペリスコープは製品を出す前にツイッターに買収された。その年、サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)でMeerkat(ミーアキャット)が一躍話題になったこともあり、ツイッターは独自のライブビデオサービスを構築するためにスタートアップを買い漁っていた。
Periscopeはライブ動画中継アプリとしてはまずまずだった。そのテクノロジーは、Periscopeアプリが来年3月に正式に停止した後も、ツイッターのビデオサービスの一部として生き残る。しかし、結局のところ、Periscopeは以前のPeriscopeの抜け殻だった。実際、これは、パンデミックによって事業停止が実際に遅れた可能性があるまれなケースだ。
同社は次のように述べている。「2020年のコロナ禍のために軒並み延期となってしまったさまざまなプロジェクトがなければ、もっと早く事業停止の決断を下していただろう」。
調達総額:1510万ドル(約15億6000万円)
PicoBrew(ピコブルー)はコーヒーポッド型のPicoPaksを使ったビール醸造機を製造し、それをコーヒーや紅茶などの別のカテゴリーに拡大させたが、ビジネスを存続可能にするほど顧客を惹き付けることはなかった。ピコブルーは今年初めPB Funding Group(ピコブルーを破綻させないように当時のCEO Bill Mitchell(ビル・ミッチェル)氏によって募集された貸し手グループ)に資産を売却した。
ピコブルーは何らかの形で存続する可能性がある。PB Funding Groupによると、同グループはピコブルーの特許と知的財産の買い手を探しており、会社が完全に事業停止してしまわないようにウェブサイトは短期的には稼働状態のまま維持しているという。
調達総額:17億5000万ドル(約1800億円)
クイビーの存在は、最近の記憶では(おそらくTheranosを除き)どのテック企業よりも、夢を見ていたような感じがする。17億5000万ドル(約1800億円)という巨額の資金を調達し、観ることができた作品は、「Fierce Queens」(雌の動物に関する自然ドキュメンタリー)、HGTVスタイルの番組「Murder House Flip」、そしてもちろん、「The Shape of Pasta」(パスタの話)だ。
クイビーの廃業に関する初期の報道は、あれほどの資金をこんなに早く使い切ってしまう方法などないように思えるという理由からだとしても、早計だったと思う。しかし、10月末にクイビーは廃業となった。「後は皆様をがっかりさせてしまったことについて心から謝罪するだけです」と創業者のJeffrey Katzenberg(ジェフリー・カッツェンバーグ)氏とメグ・ウィットマン氏は公開書簡に書いている。
スタートアップが失敗する原因には、タイミングの悪さもあれば、単なる不運もある。クイビーの場合、失敗の要因は「全部」の一語で要約できる。
調達総額:1500万ドル(約15億5000万円)
セキュリティ企業Concentric Advisors(コンセントリック・アドバイザーズ)からスピンアウトしたRubica(ルビカ)は、ウイルス対策ソフトウェアよりも高度だが、ウイルス対策ソフトウェア同様、個人や小企業でも使えるツールを提供することを目的としていた。CEO兼共同創業者のFrances Dewing(フランシス・デューイング)氏によると、「パンデミックで顧客が支出を削減したため、ターゲットを大企業に変更したが、大企業相手でもビジネスが成立することを投資家に納得させることができなかった」という。
「このツールが現在のニーズに的確に応えるものであり、需要があることを考えると、このような結果になったことに驚いている」とデューイング氏はいう。「投資家たちはその点に同意しなかったか、我々と見方が異なっていた」。
調達総額:1億400万ドル(約108億円)
ScaleFactor(スケールファクタ)は、小企業の経理担当者を置換できるAIツールを提供するという触れ込みのスタートアップだった。パンデミックのせいで収益が半減し、事業停止に追い込まれたというのが同社の主張だ。ところが、元従業員と元顧客がForbes誌に語った話は異なっている。スケールファクタは実際には人間の経理担当者(フィリピンでアウトソースしたチームを含む)に作業をさせていたというのだ。
スタートアップが人間労働に対するオートメーションのレベルをごまかすというのはほとんど前例がないが、このせいで、スケールファクタの顧客の経理処理は間違いだらけになってしまったという(前CEOのKurt Rathmann(カート・ラスマン)氏に事実確認のメールを送ったが、同氏は、そのメールが「事実ではない不正確な記述や虚偽の陳述だらけだ」としてコメントを拒否した)。
調達総額:2000万ドル(約20億7000万円)
Starsky Robotics(スタースカイ・ロボティクス)の共同創業者兼CEO、Seltz-Axmacher(セルツ・アクスマッハ)氏は、今年3月にMediumに投稿した記事の中で、「2019年、当社のトラックは実際の高速道路を走る最初の完全無人トラックとなった。そして2020年、当社は閉鎖する」と書いた。創業5年、2000万ドル(約20億7000万円)を調達した自動運転トラック企業は、その月に閉鎖した。野心や需要が不足していたわけではない。自動運転トラックには依然として明るい未来があると言ってもよいだろう。
最終的にスタースカイがその未来に参加することはないだろう。セルツ・アクスマッハ氏は、最大の原因はタイミングだとしている。混み合った市場では現在、自動運転テクノロジーを実用化しようと数え切れない企業がしのぎを削っている。
調達総額:1000万ドル(約10億3500万円)
2018年に元グーグル社員たちによって創業されたStockwell AI(ストックウェルAI)は、コンドームからラクロワ炭酸水まであらゆるものを販売できる屋内スマート自動販売機をビジネスとして軌道に乗せることができず閉鎖となった。同社は「現在の状況」(今我々が経験している世界規模のパンデミック)が閉鎖の原因だとしている。
ストックウェルAI(旧称Bodega)は、資金面でも知名度でも申し分なく、NEA、GV、DCM Ventures(DCMベンチャーズ)、Forerunner、(フォアランナー)、First Round(ファーストラウンド)、Homebrew(ホームブリュー)などから4500万ドル(約46億5000万円)以上を調達した。それでも、ベンチャーキャピタルでさえ、自動販売機を十分に機能させることはできなかった。
調達総額:250万ドル(約2億5000万円)
新型コロナウイルスによって、近所は言うまでもなく、安全に世界を探索する機会が制限される中、トラベル中心型スタートアップがまた1つ、閉鎖となった。Expedia(エクスペディア)に買収された旅行者向けの写真共有型ハブTrover(トローバ)が8月閉鎖した。トローバはRich Barton(リッチ・バートン)氏とJason Karas(ジェイソン・カラス)氏によって創業され、同じ場所を旅する人たちをつなげることを目指していた。この会社の誕生の経緯はまさに人生だ。旅行レビューサイトTravelPost(トラベルポスト)の残骸から始まった同社は、その親会社に拾われたが、調達できた資金はわずか250万ドル(約2億5000万円)だった。残念ながら、その9年間の旅はひとまず終わりとなった。
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(翻訳:Dragonfly)
- Original:https://jp.techcrunch.com/2021/01/19/2020-12-22-remember-the-startups-we-lost-in-2020/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:Brian Heater,Natasha Mascarenhas,Anthony Ha
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