地球に太陽エネルギーを送信する有志の寄付による10年の研究プロジェクト、その近況

それはまるで、天才詐欺師のアイデアのようだ。彼の悪賢い目標は、世界中に、安くてクリーンなエネルギーを提供することだ。そのために彼は、3キロメートル四方のソーラーアレイを宇宙に打ち上げて、太陽のエネルギーを電力の形で地表に送る。そのお値段も1億ドルと、低俗SF並だ。でもこれは、カルテック(Caltech、カリフォルニア工科大学)の本当のプロジェクトで、10年近く一人の寄付者が資金を提供している。

その、宇宙に設置する太陽エネルギープロジェクト(Space-based Solar Power Project, SSPP)は、少なくとも2013年から存在する。その年に、Donald Bren/Brigitte Bren夫妻からの最初の寄付がカルテックに届いた。Donald Bren氏は不動産開発企業Irvine Companyの会長で、カルテックの理事の一人だが、Popular Science誌で宇宙に置くソーラーを知った彼は、研究プロジェクトと資金提供を申し出た。これまで彼は1億ドル以上をこのプロジェクトに注ぎ込んでいる。資金源は長年、匿名とされてきたが、今週、カルテックがそれを公表した

このアイデアは、再生可能エネルギーが抱える現状の制約から、当然のように生まれた。太陽エネルギーは地表に遍在するが、天候や季節や時刻に依存する。どんなに理想的な環境に置いても、すべての時間にフル能力で動き続けるソーラーパネルは存在しない。そこで、電力としてのエネルギーをスマートグリッドにどうやって保存し送電するか、という問題になってくる。地球上に置いたソーラーパネルは、どれもその制約がある。

しかしソーラーパネルを軌道に置けば、ほとんど全時間、太陽の100%の光にさらすことができるかもしれない。そしてそのエネルギーは損失ゼロで、惑星を保護している大気層や磁気圏を通ってくるだろう。


SSPPが作った最新のプロトタイプ、太陽光を集めてそのエネルギーをマイクロ波の周波数で送る。画像クレジット: Caltech

カルテックのプレスリリースで、SSPPの研究者Harry Atwater氏がこう言っている: 「この意欲的なプロジェクトは、太陽エネルギーの地球のための大規模収穫技術に革新をもたらし、その間欠性とエネルギー保存の必要性を克服する」。

もちろん、こんなことをする価値があるほどの、十分な量のエネルギーを集める必要があるし、エネルギーが上に述べた保護層で減衰せずに地表に届く方法が必要だ。そしてしかも、途中でやけどや火災が発生する方法では困る。

これまでの10年間でこれらの基本的な問題は体系的に検討されたと思われるが、でもチームは、Bren氏の支援がなければこのプロジェクトはあり得なかっただろう、と明言している。補助金や助成金を探し回ったり、卒業生からの引き継ぎをやったりしていれば、とてもプロジェクトの継続はできなかっただろう。でも、こちらは資金が安定しているから長期の研究者を雇えたし、いろいろな初期的問題でプロジェクトが頓挫することもなかった。

同グループがこれまでに発表した研究論文やプロトタイプは、ここに見るように数十件にものぼる。その中には、従来品に比べて桁違いに軽い太陽熱収集機/送信機(コレクター/トランスミッター)もあり、最初のテスト衛星を宇宙に打ち上げる日も遠くないという。

プロジェクトの共同ディレクターAli Hajimiri氏は、本誌の取材に対して次のように述べた: 「打ち上げは2023年のQ1を予定している。打ち上げには、このプロジェクトでこれまでに開発された重要な技術を、実際に宇宙で検証するデモンストレーションの意味合いもある。それらは、エネルギーの長距離ワイヤレス伝送(ワイヤレス送電)や、軽量で可撓性の光起電子、同じく可撓性があって宇宙で展開できる構造体などだ」。


上図のようなタイルを結合して起電子体の列を作り、さらに発電用の宇宙船を作り、宇宙船の隊列を作る。画像クレジット: Caltech

それは6フィート四方ぐらいの小さなテストになると思われるが、そのビジョンはでっかい。というか、現在宇宙にあるどんなものよりも大きいだろう。

Hajimiri氏は曰く: 「最終的なシステムは複数の展開可能なモジュールの近接編隊になり、お互いに同期して稼動する。ひとつのモジュールは一辺が数十メートルで、今後モジュールをもっと加えていくことによってシステムは大きくなる」。


画像クレジット: Caltech

このコンセプトでは、最終的に出来上がる構造体は一辺が5-6平方キロメートルになる。しかし地球からうんと遠いから、巨大な六角形が星を隠すことはない。エネルギーは電力として、方向制御可能な一定方向のマイクロ波で地上の受信機にワイヤレスで送られる。このような構造体が複数、軌道にあれば、地上のどんな場所でもエネルギーをフルタイムで送ることができる。

以上はあくまでもビジョンであり、実用化までには多くの年月を要するだろう。でも、これをたった一つの野心的なプロジェクトとか、大げさな目標と呼ぶのは間違いだ。ソーラーを宇宙に置くというこの考え方から、太陽電池の進歩や、宇宙に置く可撓性構造体、送電のワイヤレス化などの技術が生まれ、それぞれを他の分野でも利用できる。ビジョンがSF的であっても、科学の進歩は堅実だ。

そしてBren氏自身は、重要だけれど他の人たちが取り組まないタスクに、自分が初球を投げただけで、満足しているようだ。

彼はカルテックにこう言っている: 「これまでの私は、宇宙における太陽エネルギー開発とその応用を、長年研究している学生だった。カルテックで世界クラスの科学者たちを支援する私の関心は、太陽の自然エネルギーを誰もが利用できるための装備があり得るという、私の信念に裏打ちされている」。

打ち上げ間近になったら、SSPPをもう一度取材しよう。

(文:Devin Coldewey、翻訳:Hiroshi Iwatani)
画像クレジット: Caltech

[原文へ]


Amazonベストセラー

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA