シェラカップはキャンプの象徴ともいうべき道具です。
アメリカに本部を置く自然保護団体「シエラクラブ」で会員証代わりに配られていたステンレス製のカップがその起源とされています。
会員証としての浅型・広口のカップは大いに評判となり、後にこのステンレス製カップを販売し、その売り上げの一部を寄付金として自然保護に役立てるというスタイルに変更。会員にならずとも、シエラクラブのカップが世界中のアウトドア愛好家の手に渡るようになりました。
あまりの人気ぶりに、いつしかシエラクラブのカップをオマージュした同スタイルの「シェラカップ」が各社から販売されるに至ったわけです。
日本でも長らくシエラクラブのカップが販売されていましたが、2016年に中国産となったモデルが最後の入荷。残念ながら、本国のシエラクラブでも生産・販売していません。
元祖シェラカップの歴史は途絶えましたが、今も多くのメーカーが受け継ぎ、世界中で愛されているのはなぜでしょうか。
■軽くて頑丈、熱にも強い
構造はとてもシンプル。カップの周辺を折り返していて、そこにハンドルとなるワイヤーがぐるり。カラビナでパックに引っかけて持ち歩くことがありますが、どこかにぶつけてもそうそう壊れることはなく、またネジなしなのでぐらつきもありません。すき間に粉状のゴミが入りやすいというのが欠点ですが、口には触れないので許容範囲でしょう。
そんなタフなシェラカップなので、かつてはストーブにしちゃうハローマークデザイン/アリゾナストーブなるものが販売されていたり、決して衛生的ではありませんがいざというときはスコップ代わりに使えたりもします。
素材はステンレス、チタン、真ちゅう、銅など。バーナーや焚き火にのせても今どきの樹脂製カップとは違って溶けることはありません。
■ブランド違いだってスタッキング
シェラカップのハンドルはカップの縁から飛び出ていて、ハンドルの反対側はカップに触れません。だからすき間なく重ねて収納できます。
しかも、ブランドが違ってもほぼ同じサイズ、同じ構造。底の広さ・深さがわずかに異なるものもありますが、縁は同寸です。だから、ブランド違いであっても、すっきりスタッキング収納ができるんですね。
ちなみに、一部ブランドではメッシュを販売していて、これもスタッキングできます。ザル代わりに使えるほか、味噌を溶くなんてときにも重宝しますよ。
■長いワイヤータイプのハンドル
二股に分かれたワイヤータイプのロングハンドルなので、火にかけていても熱くなりにくいという特徴があります。
そうはいっても金属製だから、ずっと火にかけていると熱くなります。でも火から離せば、カップ部分はまだ熱くてもハンドルは割合早く冷めるので「焚き火のそばでは落ち着いて行動しよう」というメッセージと受け取りたいですね。
ハンドルの形はブランドによって異なりますが、カップの底とほぼ同じところまで下がっているハンドルはなんだか安定感がありますし、ハンドルの端がカーブを描いているものは指を引っかけやすいという特徴も。
どのハンドルでも、親指と人差し指、中指か薬指の3本を使い、バランスよく持てます。
ハンドルのカーブから先の形状によっては、人差し指をフリーにして、親指と中指または薬指だけで持てます。指をケガしたときでも持ちやすく、また、安定感があるのでうっかり落としづらいデザインであるとも言えます。
■容量は250〜310ml
シェラカップ(写真中央)の容量は深さによって微妙に異なり250〜310ml。
1980年代、シェラカップの容量に不満をもったバックパッカーが、縁の直径は同じで容量1パイント(約500ml)のシェラカップを作り、ロッキーカップと名付けました。シェラカップ同様、ロッキーカップもオマージュ製品(写真左)が広まっていて、サイズは本家ロッキーカップとほぼ同サイズ。
現在は、シェラカップ、ロッキーカップ、そしてビッグサイズのシェラカップ(写真右、約630ml)ほかいろいろな容量のものでにぎわっています。
■食器として優秀
浅めの広口ですから、調味料や下ごしらえした食材の一時置き場として、そして取り皿としてかなり優秀です。
バターをちょっと溶かしたいときは、わざわざフライパンを使わなくてもシェラカップごと焚き火の脇に置くだけ。スープの温め直しだってできますよ。
ただし、温め直しのときはゴトクのサイズに注意。シェラカップは底が小さいので小型ストーブは問題ないのですが、大鍋対応のストーブではゴトクに載せられない場合があります。
そして、広口なのでドリッパーを載せられないことも。そんなときは箸や小枝をカップの縁に渡して対応しましょう。
ちなみに、取り皿、食器としては優秀なシェラカップですが、コーヒーは冷めやすく、勢いよく持ち上げるとこぼしやすいなど「カップ」としてはちょっと使いづらい面もあります。
■炊飯の仕方は2種類
米0.5合であれば、炊飯も可能。ちょっとだけごはんを食べたいソロキャンパー向きです。
シェラカップはふたがないので別のシェラカップをふた代わりにして、その上に石を載せて炊きます。シェラカップが1個しかない場合は、アルミホイルで代用。
通常、1〜2合は沸騰後弱火12分程度で炊き上がりますが、シェラカップの場合沸騰後、ごく弱火で6分程度。どうしてもふきこぼれるので硬めのごはんになりましたが十分おいしい!
ふきこぼれが嫌なら、ふたをせずパエリア風に米を煮るという方法もあります。
よく吸水させた米と、同量の水を入れて沸騰させます。沸騰したら中火のまま加熱し、水分が少なくなったら湯を加えてちょうどいいかたさになるまで加熱します。ねばりが出るのであまりいじりたくありませんが、どうも一部が芯メシになりそうだったので途中で何度か米全体を混ぜたところ、ムラなく加熱できました。
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そもそもシエラクラブは、ジョン・ミューアが1892年に発足した団体です。ジョン・ミューアは、アメリカ・ヨセミテ渓谷からマウントホイットニーにかけて伸びる約340kmの世界屈指の人気トレイル、ジョン・ミューア・トレイルに名が残る、自然保護の父でもあります。そう、シエラカップには優に100年を超す歴史があるということです。
カップとしては微妙な面もありますが、食器、鍋などマルチに使える道具は、まさにアウトドア向き。シンプルな美しさに加え、ハンドルや容量など各社で工夫を凝らし、今なお新しい工夫が生まれている懐の深さも持ち合わせています。
ひとつ持っているのに、ふたつ、みっつ……と増えていくのも納得です。
取材・文/大森弘恵
大森弘恵|フリーランスのライター、編集者。記事のテーマはアウトドア、旅行、ときどき料理。Twitter
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