ZとGT-Rの未来は明るい!クルマ好きの首脳が率いる日産の次世代車は期待大☆岡崎五朗の眼

2019年度決算で巨額の赤字を計上した日産自動車。しかし、新たなリストラ計画“NISSAN NEXT”の下、全く新しいEV(電気自動車)のSUV「アリア」を発表するなど、復活に向けた動きも急ピッチで進んでいます。

では、日産はなぜ、これほどの窮地に陥ったのでしょうか? モータージャーナリストの岡崎五朗さんがこれまでの経緯を振り返りつつ、新しい首脳陣へのインタビューを交えながら日産復活の可能性を探ります。

■現在の経営状況を招いたコスト至上主義の徹底

2019年度決算で、衝撃的な数字を出した日産自動車。販売台数、売上高、営業利益、経常利益といった主要な財務指標はすべて対前年比マイナス。それも目を覆いたくなるような大幅悪化となった。

本業の儲けを示す営業利益は405億円の赤字。となれば当然、営業利益率もマイナスになる。参考までに、2019年度のトヨタはプラス8.5%、同ホンダはプラス4.8%の増益だった。製造業の場合、10%を超えれば花丸、8%なら◎、6%で〇、4%で△といったところが相場だが、日産の場合、営業利益率は2016年の6.5%をピークに、6.3%→4.8%→2.8%と下降線を描き、ここへ来てついにマイナスに。しかも、今回の決算に新型コロナウイルスの影響はほとんど入っていない。本格的な影響が出てくるのはこれからだ。

ちなみに、日産の今の苦境の原因を、カルロス・ゴーンの逮捕・海外逃亡といったスキャンダルによるイメージダウンの影響と考える人も多いが、それには諸手を挙げて賛成できない。確かに影響が全くないとはいわないが、極めて限定的というのが僕の読みである。

では、何が問題だったのか? それは“ゴーン〜西川(廣人氏)時代”の失策のツケが回ってきたというのが真相だ。

1999年に日産へ来てからの約10年間、ゴーンは間違いなくヒーローだった。2000年末に生産が終了した「フェアレディZ」(Z32型)の後継モデル開発にゴーサインを出し、新しいZ33型を後に経営をV字回復させる“日産リバイバルプラン”の象徴と位置づけたのはゴーンだし、グローバル市場における日産のシンボルとして「GT-R」の復活を宣言し、現行のR35型を世に送り出したのもゴーンだ。

フェアレディZ(Z33型)

GT-R(R35型)

しかし、日産の経営が軌道に乗ると、次第に“日産のための経営ではなく、筆頭株主であるルノーへの資金環流を重視する経営”に傾いていった。それを象徴するのが、モデルチェンジサイクルの長期化だ。

新車開発には莫大な資金が必要となるため、モデルチェンジを遅らせれば遅らせるほど開発経費を削減できる。もちろん、登場から時間が経てば売れ行きは鈍るものの、そこは値引きを拡大して無理やり売る。結果、1台当たりの利益は減るが販売台数は増え、開発費も削減できるため、会社トータルとしての利益は増える。加えて、マイナーチェンジの際は商品を改良するのではなく、例えば、サスペンション性能を高めるスタビライザーを省くなど、コスト至上主義が徹底されていたのも当時の日産車の傾向だった。

そうやって日産の(帳簿上)の経営は2016年にピークを迎えたわけだが、そんな戦い方が長続きするはずもない。残されたのは過剰な生産設備と古びたラインナップのみ。また、ダットサンブランドを復活させるなど、台数拡大を狙った途上国への進出も目論見通りにはいかず、日産の経営状態は坂道を転げ落ちるようにして悪化。そうして今に至るわけだ。

■まずは自分たちが欲しいと思えるクルマ作りから

そうした暗いゴーン〜西川時代の後を継ぎ、2019年12月に就任した内田 誠社長が打ち出したのが、NISSAN NEXTと名づけられた新しい中期経営計画だ。

その中身は、まず720万台にまで膨れ上がっていた生産能力を600万台規模へと縮小。さらに、ルノー、三菱自動車との連携を強め、小型車をルノー、中大型車とEV、スポーツカーを日産、プラグインハイブリッドを三菱といった具合に開発を分担し、それに伴うコスト負担を軽減する。加えて、地域ごとに個別に販売している車種を統合し、車種数を20%削減した上で、各モデルのライフサイクルを4年以下にする目標も掲げている。

これらによって削減される固定費は、3000億円が見込まれる。目論見通りにいけば赤字からの脱却が可能だが、それは売上規模を維持できればの話。このまま縮小均衡路線に入り込んでしまうかもしれないし、最悪の場合、販売不振が止まらず、坂道を転げ落ち続けるかもしれない。

もちろん、ここまで病状が悪くなってしまった以上、応急処置は必要だ。それをしなければいずれ命運は尽きる。だがそれとともに、日産の経営陣にもう一度直視して欲しいのが製造業としての本質だ。利益率とか工場稼働率とか販売台数とか、そういった数字のハナシではなく、自分たちは果たして、ユーザーが欲しいと思う商品を提供できているかどうか? そこが根本的に改善されない限り、コスト削減は対処療法で終わってしまう。魅力的な商品を提供し、それを買ってもらう。その結果生じる一つ一つの取引が集まって、日産自動車の販売台数になり、売上高となるのだ。

しかし、日産自動車の社員から聞こえてくるのは「自社には乗りたいクルマがない」という声。社員ですらそうなのだから、ユーザーに買ってくれというのは無理な話かもしれない。まずは自分たちが欲しいと思えるクルマを作り、それを提供するくらいの気持ちがなければ、根本的な解決にはならないはずだ。

■バッジだけを変えるという発想ではない

ここからは、内田社長と、商品全般を担当する日産のナンバー2、アシュワニ・グプタ氏の声を交えながら、これからの日産車を占っていく。

まず内田社長には、ルノー・日産・三菱アライアンスの記者会見における「ルノーとの共同開発で今後はボディ外板も共用し、コストを40%削減する」との発言に対し、共用化を進めることで日産らしさが低下する懸念はないかと尋ねた。

それに対し内田社長は「ボディの外板、つまりデザインは、確かにブランド“らしさ”につながる重要な要素です。しかし、これまでは販売台数に対する要求が高すぎたため、ルノーとマーケットでの競合を恐れるあまり、過大なコストを投じて差別化を図りすぎていたと反省しています。もちろん、バッジだけを変えるという発想ではありません。例えば、同じドアパネルを使いながらも、見た目の差別化を図ることはできるはずです。今後はそういったことを踏まえながら、クルマ作りをしていこうと考えています」と答える。

この回答に関しては、確かに同意できる部分もある。結果的に日産車らしく見えるのなら、部分的にルノーと同じボディ外板を使っても問題ないだろう。実際、現行の「リーフ」は、ドアのインナーパネルだけでなくルーフパネルも先代と同じものを使っているが、きちんと違うクルマに見える。

現行リーフ(上)と初代リーフ(下)

また、日産の欧州でのビジネスは縮小方向だし、ルノーの日本におけるビジネス規模は小さいから、商品の“カニバリ”もさほど気にしなくていいだろう。

とはいえ、日産と三菱の軽自動車の関係のように、日産車とルノー車の違いがネーミングと顔つきだけになってしまったら、大ブーイングが起こるのは想像に難くない。そうならないことを望むばかりだ。

■日本市場にも魅力的なモデルをどんどん投入

続いて、内田社長につぐ日産のナンバー2で、代表執行役最高執行責任者 兼 チーフパフォーマンスオフィサーのグプタ氏には、日本市場向け商品ラインナップに対する疑問を投げ掛けた。

ホームマーケットであるにもかかわらず、日産の日本市場への商品投入はかなり消極的だ。日産ほどのメーカーが(三菱と共同開発している軽自動車を除くと)3年近くも新車を投入しないというのは常識的に考えてあり得ないし、これだけSUVブームが盛り上がっているにもかかわらず、逆に「ジューク」や「デュアリス」をラインナップから落とし、「エクストレイル」のみに絞るという戦略も理解できない。また、モデルチェンジサイクルも長く、平均車齢はライバル各社の中で最も古い。こうした背景にはどんな判断があったのだろうか?

デュアリス

ジューク

これに対しグプタ氏は「そのことについては、私も以前から気になっていました。最大の原因は、世界中で拡大路線を進めた結果、開発リソースが不足して日本市場向けのモデルにまで手が回らなかったことです。日本は特殊な市場で、販売されているクルマの63%が日本専用車種。グローバルカーを優先的に開発した結果、その63%が軽視されてしまいました。これは反省すべき点ですし、今後は日本専用車種の開発にも力を入れていきます」と答える。

でも収益的に見ると、多くのメーカーがひしめく日本は厳しいマーケットだ。

「確かにそれもありますが、日本のお客さまは品質や技術に対する要求度がとても高いので、並大抵のことでは満足していただけません。確かに難しいマーケットですが、日産は日本のメーカーなので絶対にあきらめるわけにはいかないのです。むしろ、世界一厳しい日本のお客さまに満足していただけるクルマを作り、それ自体やそこに投入された技術を全世界に拡大してくべきだと個人的に考えていますし、そういう方向性を社内でも強く打ち出しています」(グプタ氏)

つまり、ワールドワイドでは車種を削減して効率化を進めていくが、日本マーケットではその限りではないというわけだ。

「日本市場のもうひとつの特徴が、世界で最も高齢化が進んだマーケットだということです。高齢ドライバーの方にも安心して運転していただくために、日産が得意とする“プロパイロット”のような運転支援技術がきっとお役に立てるはずです。いい換えれば、日産のニューマンセントリック思想、つまり人間中心思想というのは、本来、日本のマーケットに適したものなのです。

プロパイロット2.0

ですが、これまでの日産は、商品企画、営業、設計といった各部門がバラバラに動いていたため、結果的に商品としてのメッセージ性を強く打ち出せていませんでした。現在は私の下で各部門の連携を強めたので、今後、その成果が出てくると思います。新型コロナウイルスの影響で新車開発に若干の遅れが出ていますが、日本市場にも魅力的なモデルをどんどん投入していきます。もう少しお待ちください」(グプタ氏)

■状況が厳しくてもなくすわけにはいかないZとGT-R

魅力的なモデルといえば、やはりZとGT-Rの話題を避けて通るわけにはいかない。そこで、話していただける範囲でこの2台の計画について尋ねた。

「先日の決算発表会では、今後発表予定のモデルとともに、新しいZのイメージスケッチをご覧いただきました。まだ正式決定は下していませんが…やる方向で進めています。

では次期型は、どんなクルマにするのか? 現行モデルは2008年デビューの旧いクルマです。特にエンジンやトランスミッションといったパワートレーンは、決定的に旧い。でもそれは、パフォーマンス領域における話であり、デザインは依然として魅力的ですよね?

そのため次期型は、まずパワートレーンを一新します。載せるエンジンやトランスミッションもすでに決まっています。フォードの『マスタング』を始めとする競合車と比べても、かなり競争力があると思います。デザインに関しては、現行モデルと初代のDNAをブレンドしたものになります。いわば『240Z』のモダン版ですね。デザイン部門がとても魅力的なものを作ってくれました。こちらも決定済みです」(グプタ氏)

歴代のフェアレディZ

パワートレーンとデザインが決まっているとなれば、あとは時間の問題。次期Zは非常に楽しみだ。一方、GT-Rは超ハイパフォーマンスカーのため、刷新は困難なように思われる。

「確かに今、GT-Rの開発は止まっています。一番の課題はパワートレーンです。いろいろな案が出ていましたが、その中のひとつである電動化プランは、私がストップをかけました。実はイタルデザインと共同開発した50周年記念限定モデル『Nissan GT-R50 by Italdesign』は、110万ドル(約1億6000万円)という高額車にもかかわらず、予定していた50台が完売したんですよ。営業サイドには『なぜ200万ドル(約2億1100万円)にしなかったんだ!』といいました(笑)。

Nissan GT-R50 by Italdesign

2021年の1月には方向性を固めたいと思っていますが、こちらもZと同様、やる方向性です。これはもうコストの問題ではありません。GT-Rは日産自動車の文化、ブランドアイコンですから、いくら状況が厳しくてもなくすわけにはいきません。同様に、モータースポーツ活動も続けていきます」(グプタ氏)

もちろん、無い袖は振れない。しっかりと収益を生み出していくことも重要だ。となると、中型/大型のSUVや乗用車が重要となるが、この領域でのプラットフォーム戦略はどうなっていくのだろう? やはりFF車ベースになるのだろうか?

「FR車は確かに、ダイナミックパフォーマンスの面では優れているのですが、現在は環境性能をどんどん高めていかなければならないので、FRプラットフォームを新規に開発するのは現実的でないと思います。先日発表したアリアに使っている“CMFプラットフォーム”をさらにアップグレードさせ、そこに電動化技術の“e-POWER”を組み合わせつつ、車種に合わせてホイールベースを変える方向となるでしょう。とはいえきっと、日産らしいクルマになるはずなので、こちらももう少しお待ちください」(グプタ氏)

■久しぶりに日産の経営陣と“クルマの話”をした

グプタ氏と話していて印象的だったのは、話の中に“数字”がほとんど出なかったこと。商品力とか、日産らしさとか、ブランド力とか、そういった話題を日産の経営陣と最後にしたのは、いつのことだったか。思い出せないくらい昔のことだ。

ゴーン時代はクルマ好きであることを公言すると、ゴーンに叱責されたという。「クルマ好きの視点では経営判断を間違えるぞ」と。それがゴーン流経営の限界だった。自動車メーカーの決算資料に載る数字を作るのは、ほかならぬユーザーの支払う購入代金なのだから。そういう意味で、ZやGT-Rの話題もさることながら、個人的に一番うれしかったのは、日産の経営陣と“クルマの話”ができたことだった。

ならば、内田社長はどうか? 公の場では社長らしく振る舞う内田社長だが、先日のインタビューではその人となりを垣間見ることができた。プライベートでは常にMT車を所有し続け、趣味は愛車のメンテナンス。「社長がこんなことをいったらディーラーさんに叱られるかな」と苦笑いしつつ、車検はいつもユーザー車検だと明かしてくれた。

トヨタの豊田章男社長や、プジョー/シトロエンなどを傘下に収めるグループPSAのカルロス・タバレス会長など、クルマ好きを公言するトップがいるメーカーが好調な経営を続けているのは、決して偶然ではないと思う。クルマを儲けるための手段と考えているトップがいるメーカーと、クルマ好きのトップがいるメーカーとでは、生み出されるプロダクトは自ずと違ってくるからだ。そういう意味で、内田社長とグプタ氏が率いる今後の日産には大いに期待したい。

文/岡崎五朗

岡崎五朗|青山学院大学 理工学部に在学していた時から執筆活動を開始。鋭い分析力を活かし、多くの雑誌やWebサイトなどで活躍中。テレビ神奈川の自動車情報番組『クルマでいこう!』のMCとしてもお馴染みだ。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。


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