密かに4WDの乗り味が変わった!改良型マツダ「CX-30」は雪上でもかなり遊べる

2020年末に商品改良を受けたマツダ「CX-30」。最新モデルは、進化した夢のエンジン“eスカイアクティブX”の搭載や、先進安全装備の進化などがポイントだが、実は密かに4WDも進化を遂げていた。

今回は、そんな進化型4WDの実力を雪上ドライブでチェックした。

■より多くの人に受け入れられるCX-30

セールスの現場で話を聞くと、CX-30は「とても売りやすいクルマ」なのだという。まずジャンル自体が、今、売れ筋のコンパクトクロスオーバーSUVであり、ボディサイズも多くに人にジャストフィットする設定だからだ。

例えば、同じマツダのSUVである「CX-3」では、リアシートやラゲッジスペースが狭くて実用性が心もとないが、「CX-5」では逆に大きすぎるという人に対し、セールスパーソンが「じゃあ、これがありますよ」とCX-30を提案すると、皆、前向きに購入を検討するのだという。

確かに、全長4395mm、全幅1795mmというCX-30のボディサイズは、都市部の道路環境でも無理なく扱える上、よりコンパクトなCX-3とは異なり、リアシートに座っても閉塞感がない。おまけに、フロアの奥行きが810mm、容量が430Lと十分な広さを持つラゲッジスペース(数値はいずれも後席背もたれを立てた状態)も、実用性バッチリ。このようにCX-30は絶妙なバランスの上に成り立っていて、より多くの人に受け入れられる存在であることがうかがえる。

そんなCX-30が、2020年12月に初の商品改良を受けた。その内容は先のレポートに詳しいが、その内容は大まかにいって、CX-30とプラットフォームやパワートレーンなどのメカニズムを共用する「マツダ3」の商品改良に準じたものとなっている。

■冬のドライブでありがたいシート&ステアリングヒーター

今回はそんなCX-30の最新モデルで、雪道を目指してロングドライブへと出掛けた。試乗車は、従来の“スカイアクティブX”に対してパワー&トルク、そしてレスポンスが向上した“eスカイアクティブX”を搭載する4WD仕様だ。

車内に乗り込んでまず感じたのは、クロスオーバーカーらしい低いドライビングポジションだな、ということ。SUVの中には“らしさ”を演出すべく、地面に対してだけでなく、フロアに対しても着座位置を高く設定した車種が少なくない。しかしCX-30は、SUVであることをさほど意識させないドライビングポジションを採用している。もちろん、セダンなどに比べるとドライバーの視点は高いが、運転席に座った際のドライバーと床との位置関係やドラポジは、ハッチバックのそれに近い。高い着座姿勢は好きじゃないというドライバーにとって、このパッケージングは魅力的に映ることだろう。

そして、乗るたびに感心させられるのが、インテリアの上質感だ。CX-30やマツダ3は、インパネを始めとするインテリアの作りこみが文句なしにクラストップレベルで、欧州プレミアムブランドが展開する同クラスの車種と比べても、決して見劣りしない。表面の仕上げ、パネルの組み付け精度の緻密さ、スイッチ類の質感の高さ…。いずれもプレミアムな印象だ。お世辞抜きに、このクラスで上質なインテリアを持つクルマを求めるなら、マツダ車を選んでおけば間違いない。

加えて、今回のようなウインタードライブでは、カラダを温めてくれるシートヒーターと、ハンドルを握る手を温めてくれるステアリングヒーターがありがたい。CX-30では上級グレードに標準装備となり、暖房とは異なる快適さで乗員をもてなしてくれる。

■スカイアクティブXの進化に伴い4WDも変わった

さて今回、新しいCX-30で最も試したかったのが4WDの実力だ。先の商品改良で、eスカイアクティブXに組み合わされる4WDの制御が変更されたという。その結果、リアタイヤへと送られる駆動トルクが増し、腕に覚えのあるドライバーならアクセルペダルを踏み込んでいくことで、向きの変わりやすい挙動をつくり出せるという。

とはいえ、4WDの基本的な特性は、従来モデルから変わらず安定志向だ。マツダ車の4WDは、クルマの置かれた状況をより詳細に把握できるのが自慢。多彩なセンサーを駆使し、路面状況が雪や氷だと想定し、認識する。基本的な仕組みは、前輪駆動をベースとし、必要に応じて電子制御カップリングで後輪へと駆動トルクを送るオンデマンド方式だ。しかし、外気温やワイパーの作動状況までも加味して路面状況を推測し、雪や氷といった悪条件下では、タイヤが転がり始める瞬間からリアタイヤへもしっかりと駆動力を配分する賢い制御を採り入れている。

加えて新型は、ドライバーがアクセルペダルを深く踏み込んだ際、リアタイヤへより多くの駆動力を配分するようになったという。駆動力を生み出すeスカイアクティブX自体のトルクが厚くなったことで、リアタイヤへ伝達できるトルクの絶対値がアップ。

その上で、開発エンジニアによると、クルマの速度、エンジン回転数、ハンドルの舵角、4輪それぞれの回転速度と各輪の回転差、旋回Gといった多くのパラメーターから状況を判断し、「ドライバーが積極的にドライビングを楽しんでいるな」とクルマが判断すると、リアタイヤへの駆動力をより多く配分し、結果、オーバーステア気味の姿勢に持ち込めるようになったという。

■カウンターステアを当てつつ挙動を修正できる

新型を滑りやすい雪上でドライブすると、確かにコーナリング中にアクセルペダルを深く踏み込んだ際、クルマがスッと素直に向きを変える感覚があり、ドライビングが楽しく感じられる。公道から外れた広く安全なスペースで試してみたところ、時にはドリフト気味にカウンターステアを当て、クルマの挙動を修正しながら遊べるくらい気持ち良く走れる。

もちろん、スピンするような状況に陥らないよう、最終的にはクルマの方がスタビリティコントロールを作動させ、姿勢を安定させるのだが、マツダ車の4WDがこれほど楽しめるようになるとは正直いって想定外だった。

というのも、「CX-5」などマツダ3のデビュー前に登場したマツダ車の4WDは、雪道における安定感やトラクションこそ素晴らしいものの、ドライバーが積極的にアクセルペダルを踏み込んで遊ぼうとすると、早めにスタビリティコントロールが介入し、姿勢を無理矢理安定させるような味つけだった。それは確かに、安心・安全ではあるものの、腕のあるドライバーにとっては少し物足りなかったのも事実。それが今回の変更では、安全マージンを削ることなく、ドライバーが積極的にドライビングを楽しもうとすると、それにクルマが応えてくれるようになったのだ。

多くのユーザーにとっては意味のない改良かもしれないが、「その気になれば楽しめるようになった」というのは、クルマ好きとしてはうれしい限り。この4WDのブラッシュアップは、公式アナウンスにも載っていないほどひっそりと行われたものだが、その意義は決して小さくないと思う。改良型CX-30を滑りやすい雪道でドライブした結果、マツダ車の新たな魅力を発見できた。

<SPECIFICATIONS>
☆X プロアクティブ ツーリングセレクション(4WD/AT)
ボディサイズ:L4395×W1795×H1540mm
車重:1550kg
駆動方式:4WD
エンジン:1997cc 直列4気筒 DOHC
トランスミッション:6速AT
エンジン最高出力:190馬力/6000回転
エンジン最大トルク:24.5kgf-m/4500回転
モーター最高出力:6.5馬力/1000回転
モーター最大トルク:6.2kgf-m/100回転
価格:365万2000円

>>マツダ「CX-30」

文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

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