元Alibabaの科学者がコンピューターサイエンス分野以外の創業者に出資する理由

North Summit CapitalとAlibaba Cloudの元チーフサイエンティストであるミン・ワンリ氏(画像クレジット:North Summit Capital)

Min Wanli(ミン・ワンリ)氏は、コンピューターサイエンスを追求している人みなが切望するキャリアパスを持っていた。天才のミン氏は14歳のときに中国の一流大学に入学を許可された。同氏はその後、シカゴ大学で物理学と統計学の博士号を取得し、IBMとGoogleに計10年近く勤めた。

米国で働く多くの野心を持つ若い中国人科学者と同様、ミン氏は2010年代初めに中国でインターネットブームが起きたときに帰国した。同氏はAlibabaに設置されたばかりのクラウド部門に加わり、高速道路の交通量を抑制するために視覚的識別を使ったり、工場の効率を高めるためにコンピューティングを活用したりするような、同社のテックを産業面で応用する取り組みの最前線にいた。

そして2019年7月に、ミン氏は思い切った行動にで出た。eコマースの巨人Alibabaの成長の主要原動力となり、当時中国最大の公共クラウドインフラプロバイダーだった(今でもそうだ)Alibaba Cloudを辞めた。投資の経験はなかったが、ミン氏はNorth Summit Capitalというベンチャーキャピタル会社を興した。

「2016年と2017年ごろは、多くの企業が『デジタルトランスフォーメーション』についてかなり懐疑的でした。しかし(Alibaba Cloudからの)成功ケースを目にし、企業は2019年には実行可能性について疑問に思わなくなりました」とミン氏は深圳市の街並みや高層オフィスビルを見下ろしながら自身のオフィスで語った。きれいにアイロンがかけられた水色のシャツに身を包んだ同氏は子どものようなピュアな笑顔で話した。

「突然誰もがデジタル化したがりました。しかしわずか400〜500人のチームでそうした需要にどうやって応えられるでしょう」。

ミン氏のソリューションは、時代遅れの工場や会社に自らサービスを提供するのではなく、多数の企業がサービスを提供するよう資金を提供しサポートすることだった。間もなく、同氏はアラブ首長国連邦の氏名非公表の富裕人物から「数億ドル(数百億円)」を獲得してNorth Summit最初のファンドをクローズした。この人物とミン氏は、ミン氏が2018年に開催されたドバイテック会議にAlibabaの代表として参加したときに出会った。

「ベンチャーキャピタルは、私が多くのテック企業とコネクトし、私が昔得た教訓を共有できる拡大鏡のようなものです。ですので、テック企業はすばやく、そして効率的に従来の産業の顧客と協業できます」とミン氏は話した。

「たとえばポートフォリオにある企業と、まずハードウェア、あるいはソフトウェアの販売にフォーカスすべきなのか、それとも同等に重視すべきなのかを話し合います」。

ミン氏は支援する会社に深く関与するよう努めている。North Summitはこれまでのところ約500万〜2500万ドル(約5億5000万〜27億7000万円)の範囲で投資している。同氏はまた、ポートフォリオ企業に投資後のサポートを提供するQuadtalentというテクノロジーサービス会社も興した。

深圳市にあるNorth Summitのオフィス

デジタルトランスフォーメーションの概念は、従来の産業の性質がかなり複雑で細分化されているために、多くの投資家にとって手強いものだ。しかしミン氏はターゲットを絞るのに役立つ基準のリストを持っている。

まず最初に、投資可能なエリアはデータ集約型であるべきだ。たとえば地下鉄の追跡は鉄道システムの状況をモニターするかなりの数のセンサーを埋め込むことで恩恵を得ることができるかもしれない。2つめに、製造あるいは事業プロセスは、とてつもない設備を使う製造ラインのように、資本集約的でなければならない。そして最後に、産業は警察の交通誘導のように反復的な人間の経験にかなり頼るものでなけれなならない。

産業問題の解決は、創業者のコンピューティングの発明の才だけを要するのではなく、より重要なのは伝統的なセクターでの経験だ。なので、ミン氏は起業家を探すときに、コンピューターサイエンスウィザードの向こう側「遠く離れたところ」を見ている。

「今日我々が必要としているものは、『複合アルゴリズム』を扱える、複数の異なる分野にまたがる人材です。それは、センサーシグナル、ビジネスの論理的根拠、製造、コンピューターアルゴリズムの理解を意味します。他の要素なしにアルゴリズミックなブラックボックスを通じてニュートラルネットワークを適用するのは単なる無駄です」。

投資家らが次のABB、Schneider、中国Siemensを捉えようとするのにともなってミン氏はかなりの競争に直面している。中国は経済のすべての面でテクノロジーでの独立に向かっていて、新型コロナウイルスが世界のサプライチェーンをディスラプトしている中でその任務は緊急性を帯びている。その結果「産業用アップグレード」ソリューションをうたうスタートアップの評価額はうなぎのぼりだ。

しかし工場長たちは、自動化ソリューションプロバイダーが勝ち目のない企業なのか、あるいはユニコーンのスタートアップなのかは気にしない。「結局のところ、工場のCFOは『このソフトウェアや設備はいくら節約したり儲けたりするのに役立つのか』と聞くだけです」。

投資家らはミン氏の初のファンドの展開について慎重だ。展開を開始して2年、North Summitはこれまでに4件のディールを完了した。オートメーションを取り込んでいる創業17年の履き物メーカーTopScore、ロンドンを拠点とする就学前の中国人の子ども向けの英語学習アプリLingumi、マレーシアのドローンサービスプロバイダーのAerodyne、中小企業に安価なAIビジョンソリューションを紹介するマーケットプレイスのExtreme Visionだ。

North Summitは2021年、中国内外で企業に1億ドル(約111億円)近くを投資することを目指している。このところミン氏が注目している分野は光学式記憶装置とロボティックプロセスオートメーション(RPA)だ。

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カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:North Summit CapitalAlibabaDX中国Alibaba Cloud

原文へ

(文:Rita Liao、翻訳:Nariko Mizoguchi


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