緊急事態宣言下、プレジャーボートの売れ行きが堅調というニュースを見ました。が、マリンレジャーってちょっと敷居が高いし、高級なプレジャーボート(クルーザー)に至っては間近で目にする機会もそうそうありません。
でも実際、最新のクルーザーってどんなモノなのか気になる…と思っていたところに、面白いクルーザーがデビューしたという情報を得たので、早速話を聞いてきました。
それがMarine XのAIクルーザー「X40 Concept」。実艇を目の当たりにすると「えっ、これがクルーザー? 未来的なデザインだし、シンプルでカッコいい」というのが第一印象。さらに開発メンバーにお話しを伺うと「ボートのメカってこんなに進化してるのか!」と、驚きの連続でした。
この「X40 Concept」は、今年4月に開催されたジャパンインターナショナルボートショー2021に実艇を初展示、マリンレジャー関係者から注目を集めた艇。水上モビリティの進化をテーマに掲げ、デザインや機能、メンテナンス性に至るまで“オーナー目線”で考え尽くした最新のモーターボートです。
そのコンセプトはもちろん、人目を惹くデザインを手掛けたのは、なんとパナソニックのエボルタくんの設計・開発などでも知られる、ロボットクリエイターの高橋智隆さん。どのような経緯でこの近未来的なモーターボートが誕生したのか、そして注目すべき機能にも迫ってみましょう。
■ボートのプロ“じゃないから”思いついた多彩なアイデア
▲アンカーはバウのカバー内に格納される。フェンダーや係留用のクリートもハルに収められ、スッキリとした外観を実現。メインキャビン上にブリッジを設けないことで、橋をくぐれる船高を実現した
ひと口にモーターボートやプレジャーボートといっても、サイズやジャンルもさまざま。呼び方もメーカーによって異なりますが、快適なインテリアを備える中・大型クラスのモーターボートといえば、ぼんやりとスタイルが思い浮かぶのではないでしょうか。しかし、Marine Xの「X40 Concept」の外観はどれにも似ていない、都会的で未来的、オリジナリティに溢れるデザインとなっています。
ともすれば、同クラスのモーターボートの基準から外れるような意匠や構造もありますが、それはもちろん理由があってのこと。
▲バウ(先端)側のデッキは十分にスペースのある通路としたことでバウレールを不要とした。出入りはベッドルームのハッチから
例えば、フライブリッジ(キャビン上の操船スペース)を備えず、低い船高は東京湾周辺などの河川に架かる橋をクリアするため。両舷に前方デッキへ出るための通路を設けなかったのは室内空間を広くとるための判断なのです。
デザインしたロボットクリエイターの高橋智隆さんは以前からボートに接しており、“買い替えるならこういうボート”というプランがあったそう。
相談を受けたMarine Xの代表取締役・平谷健悟さんや取締役の小西元昭さんをはじめとする主要メンバーは、モノ作りに深く関わる会社を経営しており、以前からロボット開発などを通じて親しい関係にありました。
そして、高橋さんの描いたイメージスケッチはというと、“このクラスならこの装備は要るだろう…”という既成概念にとらわれず、理想のカタチと機能を追求。むしろボートのプロでないからこその柔軟さを感じ、皆に共通する理想のボート作りという夢が一気に加速しました。
平谷さん曰く、高橋さんのプランはかなり具体的、かつボートの未来を感じさせるもので「自分たちのボートだけで終わらせるのはもったいない! 事業化してボートの未来を自分たちで描こう!」と思ったそうです。
こうしてプロジェクトが動き出し、X40 Conceptが誕生したのですが、そのスペックは、全長:12.48m(約40ft)、全幅:4.02m、総トン数:12トン、定員:12名、エンジン:Mercury Verado350(350馬力)×2基となっています。
先の低い船高もそのひとつですが、例えばエンジンも船外機とすることでメンテナンスの手間を軽減しています。
ボートのエンジンは船外機(アウトボードエンジン)、船内外機(スターンドライブ)、船内機(インボードエンジン)など、幾つかのスタイルがありますが、船外機は整備性に優れ、キャビン内の静粛性も保てるほか、係留中にエンジンを上げておけるので、プロペラに貝が付着するのも防げます
▲船外機式エンジンには船体と一体感のあるカバーを装着。カバーにはMarine Xのロゴが描かれる
各方式には一長一短がありますが、船外機は個人や少人数でも維持しやすいのが最大のメリット。しかし、船のデザインとの一体感がないという欠点もありますが、X40 Conceptはハル(船体)と一体感のあるエンジンカバーを備えることで、全体との調和を図っています。この辺りのサジ加減はまさに高橋イズム、の現れと言えそうです。
もちろん、全体のデザインはモダンで未来的ではあるけど、性能的にはどうなの? という方もいることでしょう。建造は世界的なメガヨットビルダーとして知られる台湾のホライゾンが担当、その知見も反映されていますが、デザインを検証したところ極端にスピードを追求するのでなければ問題ない、むしろマリンレジャーを手軽に楽しむというコンセプトでは理にかなっているとお墨付きを得たそうです。
■進化するメカニズム、自動操船システム搭載へも挑戦中
▲コクピットに並ぶ操船装置類。中央にあるのが平行移動や回転などが簡単に行えるジョイスティック。左にはマルチエンジン用制御装置が備わる
ひと口にモーターボートといっても全長4~5m(15フィート前後)の小型のレジャー用もあれば、30m(約100フィート)を超えるメガヨットまで多種多様。40フィートといえば、国内マリーナでは中・大型クラスにあたります。富裕層を中心に人気の同クラスですが、いざ手に入れてみると想像よりも扱いが難しい…と感じる方も少なくないそうです。
結果、ボートを手に入れてもオーナーは出港や入港の手間、維持管理などに気を使い、「ボートを手に入れてもオーナー自らがクルージングを楽しむのが難しい」という問題もありました。実際、1人でもやいを解き、船を保護するフェンダーを外し、というのはなかなか大変な作業だったりします。
そこでMarine Xでは「1人で船を出して、1人で帰ってこられる」をメカニズムのコンセプトとしました。そのために導入した、主な最新システムをご紹介しましょう。
【ダイナミックポジショニング】
停船中のボートを自動的に同じ位置に保持する。同システムにより、オーナー1人や少人数での出港準備が可能。
【シーキーパー:アンチローリングシステム】
ジャイロ効果により船体の横揺れなどを軽減する。停泊中、航行中を問わず快適性と安全船を向上。
【ジョイスティック式操船システム】
ステアリングの他、ジョイススティックでの位置調整や操船が可能。
【バウスラスター】
船首部にスクリューを備え、船首を左右に動かす。
開発に携わった小西さんによると「40フィートクラスですが、本当に1人で出入港が可能です。位置の自動保持やジョイスティックでの微調整は非常に便利で、出航や帰航時の不安が解消できます」と、各装置類の利便性を語ります。
これらは一部の高級クルーザーでは装備されつつあるメカニズムですが、X40 Conceptももれなく搭載。さらに、近い将来AIシステムがオーナーの負担を軽減、クルージングをサポートするそうです。
これは「安全航行AIアシストシステム」と呼ばれるもので、独自開発した画像認識AIを活用したシステムにより、水上の航行可能エリアと障害物を検知・認識。画面表示とアラートオンにより、角度とおよその距離を操船者に知らせる仕組みとなっています。
▲操縦席の正面には海図や方位などを表示する大型のディスプレイを装着する
さらにAIを活用した船舶制御システムは、船外監視機能から始まり、段階的に機能を拡充。これらのAIや先進テクノロジーにより、将来的には自律航行システムへのアップグレードを計画しており、同じ場所にボタン1つで帰ってこられるドッキングシステムの搭載も予定しています。
広い大海原は陸路よりも自由に移動できる一方、暗礁や暗岩、定置網など注意すべき点も多々あります。最大限の注意を払って航行するのは操船者の努めですが、急な天候悪化やいつもと違う海域では想像以上の緊張を強いられるのも事実。出港から帰港まで先進テクノロジーによるサポートが受けられるのは、ボートオーナーにとってかなり心強いはずですし、今まで以上に気軽にクルージングに出てみようという気になるはずです。
■日常の延長にある違和感のないインテリア
インテリアは使いやすさを追求。オーナーの家族や友人など、ボートに詳しくない人が乗っても違和感のないインテリアや装備を追求、トイレやシャワールームも一般的なマンション用に準じたシステムとしたそうです。
▲四方から光を取り込める広々としたメインキャビン。キッチン回りなどはカーボン製だ。レイアウトや装備は変更できる
また、明るくモダンなメインキャビン、広々としたメインベッドルーム、子供部屋としても使えるクルールームなど、船内の設えは十分以上。
▲天井とサイドに窓が設けられたメインベッドルームには、ダブルサイズのベッドが収まる。周囲にはさらに余裕があり、壁面には大型の液晶テレビが設置される
▲シャワールーム右側はベンチ状になっており、座ってシャワーを浴びることができる(左写真)。トイレは温水洗浄機能付き(右写真)
▲ロックがかかる冷蔵庫のほか、バルミューダのオーブンレンジも装備。ホットプレートを付ければ船内で本格的な調理も可能だ
▲シンクの下には洗濯乾燥機が収まる。2~3日程度のクルージングでも衣類に困ることはない
▲メインキャビンの屋根上は一面のソーラーパネル。バッテリーの充電や船内家電製品への給電をサポートする
エアコンも各部屋個別にコントロールできますし、洗濯乾燥機や冷蔵庫、電子レンジも備えています。これら電気製品を使うことを前提に設計しているので、十分なバッテリー容量を確保、キャビン上のソーラーパネルからの給電も可能です。
航行させずに海の上の別荘ではもったいない感じもしますが、たとえ海に出られない日でも隠れ家的に使ってみるのも楽しそうです。
▲広々としたウッド張りのアフトデッキ(後方デッキ)はレジャー用品を置いても十分なスペースがある。メインキャビンとの段差もなく、荷物の持ち運びも簡単
そんなX40 Conceptですが、すでに数件の問い合わせが入っており、2号艇、3号艇がデビューするのも遠くないかもしれません。
さて、気になるお値段は1億5800万円。
そろそろボートでも…というゆとりのある皆さま、未来志向の個性派ボートでマリンデビューしてみてはいかがでしょうか。
<SPECIFICATIONS>
Marine X X40 Concept
船体サイズ:L12.48×W4.02m
総トン数:12トン
定員:12名
エンジン:Mercury Verado350×2基
最高出力;350馬力×2
参考価格:1億5800万円
>>Marine X
<写真・文/村田尚之>
村田尚之|自動車専門誌やメーカー広報誌などを手掛ける編集プロダクションを経て、2002年にフリーランスライター・フォトグラファーとして独立。クルマや飛行機、鉄道など、乗り物関連の記事を中心に執筆・撮影。そのほか、カメラやホビーアイテムの取材・執筆も得意とする。
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- Original:https://www.goodspress.jp/reports/408056/
- Source:&GP
- Author:&GP
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