VW(フォルクスワーゲン)「ゴルフ」のラインナップに、“TDI”と呼ばれる新開発のディーゼルエンジン搭載モデルが追加された。
VWは過去にディーゼルエンジンの問題で懲りたこともあったが、新しいTDIの完成度は我々の想像を超えていた。新しい「ゴルフTDI」は、現行ゴルフのベストチョイスといっても過言ではない。
■3.5リッター自然吸気ガソリン車に匹敵する極太トルク
「これは現行ゴルフのベストチョイスじゃない!?」
新たに追加されたディーゼルエンジン搭載仕様=ゴルフTDIを数百メートル走らせたところで、筆者はそう確信した。「VWはこんなに素晴らしいディーゼルエンジンを一体どこに隠していたのか?」という気持ちになったほど、先代ゴルフTDIからのレベルアップはハンパない。
VWの新しいディーゼルエンジンは何がスゴいのか? まず第1に、とにかくスムーズだ。ディーゼルエンジンにありがちなザラザラとした感触がなく、アクセル操作に対する反応や回転上昇のフィーリングも滑らか。その上、音も静かで、アイドリング音が耳ざわりな停車中でさえ、窓を閉めておけば全く気にならない。車外にいても一般的なディーゼル車に比べてはるかに静かだから、「本当にディーゼルエンジンなのか?」と思わず疑ってしまったほどだ。とにかく音や振動といったフィーリング面において、新しいTDIにはディーゼルのネガが皆無である。
しかも、走り味も良好だ。36.7kgf-mという3.5リッター自然吸気ガソリンエンジン車に匹敵する極太トルクを、VWの従来のディーゼルエンジンより低い1600回転から発生する。その分、出足が力強くて乗りやすいのは当然だ。
そうした極太トルクによる力強さに加え、アクセルを踏んだ時のレスポンスにも優れるから、ワインディングロードだって楽しく走れる。ガソリン車と同様の良好なステアフィールも相まってクルマとドライバーの一体感が強く、右へ左へとコーナーが続く峠道でも、ひと昔前の「GTI」に匹敵するドライビングプレジャーを得られる。その走りはスポーツモデルかと勘違いしそうになるほどだ。
さらに、高速クルージング時の矢のように突き進む直進性の良さと優れたスタビリティ、そして、乗り心地の良さに起因する快適性の高さも感激させられるほどハイレベルだ。
これだけ完成度が高いのだから、現行ゴルフを買う場合、エンジンはこの新しいディーゼルを基本に考えるべきだ。GTIなどのハイパフォーマンスグレードは別として、日常のパートナーとしてパワートレーンの実力とクルマとのバランスを考えた場合、TDIエンジンはイチ押しである。
ちなみにTDI仕様は、装備内容がほぼ同じガソリンエンジン車に対して、価格が28万円〜48万円ほど高いのが数少ないウィークポイント(とはいえ、各種税金の免税/減税措置で実際の価格差は圧縮される)。だが、WLTCモードで20.0km/Lと省燃費な上に、燃料となる軽油はハイオクガソリンに比べて単価が2割ほど安いから、ランニングコストも安く収まる。最上級グレードの「Rライン」どうしで比べると価格差は28万円ほどだから、免税/減税とランニングコストの差額で購入価格の差をカバーできる可能性が高い。
■VWはEVもガソリン車もディーゼル車も全力投球
ここまでの内容を見て、「VWはディーゼルエンジンの問題で懲りたのだから、もうディーゼルに力を入れていないのでは?」とか「VWはEV(電気自動車)戦略を強力に推し進めているから、ディーゼルだけでなくガソリンエンジンだって止めちゃうのでは?」と感じたクルマ好きも多いのでは? 確かに近年のVWは、EVの開発にリソースを多く注いでいるのは事実である。そのためエンジン車のことは、忘れようとしているかのような印象を受けるかもしれない。
しかし、それは間違った認識だ。確かに今後、EVの販売比率は増えるだろうが、VWは年間1000万台規模の巨大自動車メーカーである。パワートレーンをEVだけでまかなおうというのは、どだい無理な話。それはVW自身がよく理解している。
むしろ現状では、VWにとってEVの売り上げ比率はわずか数パーセントに過ぎず、そこに開発のリソースを割くことは、先行投資的な意味合いが強い。そして足元を見ると、VWの経営はガソリン車やディーゼル車の販売にしっかり支えられている。つまりVWは、EVのイメージを強く押し出しながらも、実際には“EVもガソリン車もディーゼル車も全力投球”という戦略なのだ。
「世界には、電力供給事情が十分とはいえない地域もあり、エンジン車でなければクルマを持てない人もいる。“人々のためのクルマ”という社名を掲げる私たちは、そんな人々からクルマを奪うようなことはしません」と車両開発責任者が語るように、VWは今後も、エンジン車に力を入れていくのである。
■ディーゼルエンジンのさらなる可能性を見せられた
そうはいっても、従来通りのエンジンを作り続けていればそれでいい、というわけにはいかない。この先ますます厳しくなる環境規制に対応する必要がある。
そうした視点から、新しいゴルフTDIの2リッター4気筒ディーゼルエンジンに搭載されたのが“ツインドージングシステム”だ。これは、NOx(窒素酸化物)を中和するためのアドブルー(尿素水)の散布を、これまでの1カ所から2カ所で行うようにしたシステム。エンジンの低負荷時、高負荷時それぞれで効率よく尿素を活用できるため、先代のTDIに対してNOxの排出量が最大8割も削減されたという。
また新しいTDIエンジンは、1燃焼当たり9回に分けて燃料を噴射する、2200気圧(水深約1.1万mというマリアナ海溝最深部の水圧の2倍以上に相当)というとんでもなく高性能な高圧インジェクターを搭載。このような燃焼効率を高める仕掛けも積極的に採用している。
一般的に、環境規制に対応したエンジンといえば、牙を抜かれたイメージがあるが、新しいTDIエンジンはまるで逆。環境に対応しながら従来を超えるトルクと動力性能、そして滑らかなフィーリングを手に入れた上に、燃費まで向上している。コストが掛かっているだけあって、全方位的にハンパない伸び代で性能がレベルアップしているのだ。
環境への適合度合いから優れたドライバビリティまで、トータルで見た時の商品力の高さを知れば「ディーゼルエンジンは時代遅れ」なんて口が裂けてもいえなくなる。それくらい、新しいゴルフTDIの完成度は高く、ディーゼルエンジンのさらなる可能性をも見せてくれた。
<SPECIFICATIONS>
☆TDI Rライン
ボディサイズ:L4295×W1790×H1475mm
車重:1460kg
駆動方式:FWD
エンジン:1968cc 直列4気筒 DOHCディーゼル ターボ
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:150馬力/3000〜4200回転
最大トルク:36.7kgf-m/1600〜2750回転
価格:408万8000円
>>VW「ゴルフ」
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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- Original:https://www.goodspress.jp/reports/421134/
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