最新モデルに試乗して改めて感じた「GT-R」の変わらぬ“凄さ”と“特別感”

「G」「T」そして「R」。

クルマ好きにとってそのアルファベット3文字は特別だ。古今東西を問わず「GT-R」という名称は特別なスポーツモデルを指すことが多く、なかでも、もっとも知名度の高い「GT-R」といえばやはり「日産GT-R」だろう。

そんなGT-Rの最新モデルに改めて試乗して感じたのは、変わらぬ“凄さ”と“特別感”だった。

■デビュー時から変わらない日産GT-Rの凄さ

試乗したのは、2021年秋にシリーズあわせて100台の限定車として登場した「GT-RプレミアムエディションT-spec」。発売とともに完売した、幻のGT-Rだ。

スカイラインシリーズから独立して「スカイラインGT-R」ではなく「GT-R」となった現行世代のデビューは2007年冬。驚いたのは専用のボディを用意したことだった。

それまでのスカイラインGT-Rは、スポーツセダン&クーペの「スカイライン」をベースに超高性能化するのが作り方のレシピだった。しかし現行世代では車体までGT-Rのためだけの専用設計。いうまでもないが、コストは度外視し、速く安定して走るためだけにわざわざ車体を用意するのは日本の量産車メーカーとしては異例中の異例だ。

■エンジンは熟練の職人が組み上げる“匠の作品”

そこに組み込むエンジンも特別な逸品だ。VR38DETTと名付けられた排気量3.8LのV6ターボエンジンはGT-R以外のモデルに使われることがない、贅沢な専用設計。作り方も特別で、一般的なエンジンが役割を分担した流れ作業で作られるのに対し、VR38DETTは熟練の職人がひとりですべてを組み上げる“匠の作品”となっている。GT-Rの場合、エンジンの組み立てが持つ意味は普通の量産車とは違う。単に形作るのではなく、魂を込める作業なのだ。

そのエンジンがもたらす速さは、ただただ圧倒的。2007年のデビュー時に480psだったエンジンは、熟成を経て現在では570ps(高性能仕様の「GT-R NISMO」は600ps)まで引き上げられている。それは一般的な軽自動車10台分にも相当するエネルギーだ。

アクセルを踏み込んだときの感覚は、まるで瞬間移動装置が作動したかのよう。停止状態から高速道路の制限速度域に到達するのはあっという間で、それは普通のクルマではとても垣間見ることのできない世界である。

しかし、単に速いだけではないのがこのエンジンの魅力だ。回転が上昇する際の、まるでドライバーとエンジンの回転がシンクロするかのような脈を打つ感覚。そしてエンジン回転を高めれば高めるほどパワーが湧き出す伸びやかさと高回転のパンチ力。そして響くエンジン音と排気音。それらが醸し出す色気がドライバーを高揚させ、快楽漬けにするのだ。そんな官能性能の素晴らしさがこのエンジンに惹かれる理由である。

■特別な仕立てになった内外装

今回試乗した「プレミアムエディションT-spec」は、内外装が特別な仕立てになっている。外観では軽量素材のカーボン(重量は一般的なタイプの約半分)で作られたリヤスポイラーを専用アイテムとするほか、NISMO系以外のモデルでは唯一となるアウトレットダクト付きのフロントフェンダーを組み合わせる。また足元を引き締めるアルミホイールも専用デザインとしたレイズ製の鍛造だ。

そのホイールの中を覗くと、サーキット走行を視野に超高速域からのブレーキングを繰り返した際に熱を持ちにくく耐久性にも優れるカーボンセラミックブレーキを組み込んでいるのも大きな違い。このブレーキは市販車への採用は少なく、一般的にレーシングカーに使われるものである。

またインテリアもダッシュボードやサンバイザーまでアルカンターラ(バックスキン調の素材)を張った専用の仕立てで、上質感が高まっている。そこから見えるのは、移動時間をぜいたくに使おうという狙いだ。

しかし、見える部分は「プレミアムエディションT-spec」の序章に過ぎない。

このモデルのハイライトは、専用の味付けとなったサスペンションだ。GT-Rのサスペンションは、超高速走行に対応するため硬めの設定となっている。しかし「プレミアムエディションT-spec」はしなやかさを加えて、高い運動性能をスポイルすることなく日常の快適性に配慮。

古くからのクルマ好きは先代に相当する“R34型”GT-Rの後期モデルにしなやかさを加えた「M-spec」というモデルが用意されていたことを覚えているかもしれないが、「プレミアムエディションT-spec」はそれと同じ方向性だと理解すればいいだろう。R35型GT-Rのなかで、もっともバランスのいい動的性能を身に着けたのだ。

■デビューから15年いまだに第一線級

久々に乗ったGT-Rは、以前のモデルに比べて乗り心地が良くなっているだけでなく、パワートレインの洗練度も高まって動作がスムーズになっていることを実感した。以前はやや乱暴な面があったが、ずいぶん滑らかさが増した印象だ。

R35型GT-Rのデビューは2007年冬。もう15年近くになるが、圧倒的な性能で世界をリードし続け、いまだに第一線級なのがスゴイ。

もちろん、加速も最高速度もGT-Rより凄いクルマは存在する。しかし、路面を選ばず、快適性や運転のしやすさまで含めた全方位スポーツカーとして、GT-Rよりバランスの優れたモデルはないに等しいのだ。

そこが、デビュー時から変わらない日産GT-Rの凄さである。

そんなGT-Rだが、実は走行音に関する環境規制の強化により現状のままでは2023年以降も販売するのは難しい。そのため、日産からの公式発表ではなくあくまで推測の域を出ないのだが、現在発売されている2022年モデルをもって有終の美を飾るのではないかという噂もある。

しかしながら2022年モデルは限定車の「T-spec」にとどまらず通常のカタログモデルまですべてのグレードが、コロナ禍と半導体不足の影響を受けてオーダー停止中。もしかすると、GT-Rはこのまま伝説となってしまうのかもしれない。

<SPECIFICATIONS>
☆GT-R プレミアムエディションT-spec
ボディサイズ:L4710×W1895×H1370mm
車重:1760kg
駆動方式:4WD
エンジン:3799cc V型6気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:6速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:570馬力/6800回転
最大トルク:65.0kgf-m/3300-5800回転
価格:1590万4900円

>>日産GT-R プレミアムエディションT-spec

文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

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