データ・遊休地・ギグワーカーで切り開く、ラストワンマイル配送の未来

「頼んだ荷物がなかなか届かない!」そんな経験をしたことがある人は少なくないはず。トラブルを引き起こしている一因は、人手不足や再配達など物流業界が抱える課題にあるかもしれません。

ラストワンマイル配送におけるこれらの課題解決をめざしているのが、207株式会社(以下、207)。同社のプロダクト「TODOCU(トドク)」は、配送業務の効率化をめざして開発されました。

どのような方法で物流業界を変えていくのか、CEOの高柳慎也氏に伺いました。

物流課題は山積みの状態

――「物流クライシス」と言われるように、近年物流業界の危機が注目されるようになりました。高柳さんは、現在の課題をどのように捉えていますか?

高柳:物流業界が抱えている課題はいくつもありますが、ラストワンマイル配送においては、まず不在配達の多さが挙げられます。運んだ荷物の個数で売り上げを計算する契約が業界のスタンダードなので、何度も同じ場所へ再配達をするのは非常に効率が悪いんです。

――再配達を利用したことがある人は多いでしょうから、他人事ではありませんね。

高柳:もう一つの課題が不在票です。いまだに紙が使われていて、手書きのものも多いです。そのほか、時間指定の仕組みが30年間ほぼ変わっていなかったり、複数の物流事業者がバラバラに宅配していたり、課題を挙げればキリがありません。

また、現在は人手不足が深刻です。これらの課題は、業界全体の慢性的な長時間労働につながっています。

ラストワンマイル配送の効率化をめざす「TODOCU」

――御社のプロダクトは、これらの課題を解決するために開発されたのでしょうか?

高柳:はい。207が開発している「TODOCU(トドク)」は、ラストワンマイル配送の業務効率化を実現するソリューションです。

配送業務の効率化アプリ「TODOCUサポーター」、中堅以上の物流事業者向けの配送管理システム「TODOCUクラウド」、そして受け取り側のWebサービス「TODOCU」の3種類のプロダクトを提供しています。


――まず「TODOCUサポーター」について教えてください。

高柳:「TODOCUサポーター」は、エンドユーザーの自宅まで荷物を届ける個人配送ドライバー向けに開発したアプリです。じつはラストワンマイルを担う配送ドライバーは、物流企業から委託を受けた個人事業主が全体の7割を占めると言われています。

従来はカーナビや地図アプリに配送先の情報を手動で入力する面倒な作業があったのですが、「TODOCUサポーター」を導入すれば、伝票をスマートフォンで撮影することでデータ化できます。そのデータをもとに、配送先までの最適なルート提案が可能です。

現在、約2万8000人(3月3日取材時点)の登録サポーターがいて、このアプリを使用すればするほどデータが溜まっていく仕組みです。たとえば、届け先の宅配ボックスの有無や駐停車場所などの配送効率化データを、サポーター全員が共有できるようになっています。

――続いて「TODOCUクラウド」について教えてください。

高柳:個人配送ドライバー以外の3割は、企業に勤める会社員ドライバーです。「TODOCUクラウド」は、彼らが所属する中堅以上の物流企業をターゲットにしたシステムです。

それらの企業は配送管理システムである「トランスポートマネジメントシステム(TMS)」を構築していますが、現状は独自の仕様でバラバラに運用しています。

そこで共通化された配送管理システムとして「TODOCUクラウド」を物流企業や荷主企業のシステムとつなぎ、会社員ドライバーにも「TODOCUサポーター」のアプリを利用してもらっています。

「TODOCUサポーター」で収集したデータを活用して、配送の効率化にも貢献できるというわけです。

――最後の「TODOCU」は、受け取り側が利用するサービスとのことでしたが。

高柳:はい。「TODOCUサポーター」には、伝票に記載された携帯電話の番号を読み取って、自動でSMSを送信する機能があります。SMSにはURLが記載されていて、それを受け取ったユーザーは、「TODOCU」のWebサイトにアクセスできます。

Webサイトから在宅状況や置き配指定、帰宅予定時間を回答できるようになっていて、その情報をもとに「TODOCUサポーター」を利用する配送員が効率的に届けられる仕組みです。

「TODOCU」を応用した「スキマ便」も検証

――「TODOCU」のプロダクトは応用の幅も広いと感じますが、現在何か新しい取り組みは進めていますか?

高柳:「TODOCU」のプロダクトを応用して、「スキマ便」という新たなサービスを検証しました。物流業界は人手不足なうえに、ECの普及で運ぶ荷物の量はどんどん増えています。しかし、業界ではこうした課題を「配送エリアに精通したドライバーが運ぶ」など、属人化した工夫で対処してきたんです。

――それでは根本的な解決にはならないかもしれませんね。「スキマ便」では具体的にどのようなことを?

高柳:「スキマ便」で掲げている目標は二つあって、一つは人手不足のマーケットに新しいリソースとしてギグワーカーを投入することです。「TODOCUサポーター」で収集したデータを活用すれば、配送業務の経験がない人でも効率よく運べますから、一定の配送効率を保てます。

もう一つが、宅配荷物を共同配送にすることです。各社がバラバラに荷物を運んでいる現状を、共同配送によって効率化したいと考えています。

ただ、実現するにはいくつかハードルがあって、その一つが、先ほど述べた企業ごとの配送管理システムです。その課題については、「TODOCUクラウド」と「TODOCUサポーター」を活用すれば解決可能だと思っています。


――「スキマ便」の実地での検証方法について教えてください。

高柳:2つのパターンに分けて検証をおこないました。まず1つ目が、ECなどの軽貨物とフードデリバリーを組み合わせた配送サービスの検証です。

フードデリバリーは昼食と夕食の時間帯に配送が集中します。その空き時間、たとえば14時から17時の間に軽貨物を運ぶことで、配送リソースを適切に配置できるのでは、と考えました。

――検証してみて、いかがでしたか?

高柳:需要の予測が難しかったと感じています。フードデリバリーは一時的に需要が急増するケースが多く、配送リソースが不足することもありました。

その場合、配送の受け付けを一時的にストップするなど、需給をマネジメントしなければなりませんでしたが、このオペレーションが非常に煩雑でした。

――煩雑なオペレーションを改善する方法はあるのでしょうか?

高柳:たとえば、フードデリバリーと「スキマ便」のシステムを連携させ、一定以上の注文を受け付けないようにシステム側で制限する方法などが考えられます。しかし、その対応をおこなうエンジニアなどのリソースが、現状では不足していました。

――人的リソースの不足が運用に大きく影響したんですね。

高柳:そこで、2つ目の「軽貨物のみを配送する」という検証を、目黒区と品川区の一部エリアに限定して行いました。

軽貨物に絞ればフードデリバリーのように迅速な配送は求められませんし、配送の前日までに集まった荷物に応じてギグワーカーを割り当てれば対応できると考えました。

――そちらの検証についてはいかがでしたか?

高柳:まず、荷主に営業して配送する荷物を確保することが困難でした。全国に荷物を届ける荷主の場合、今回のような狭いエリアだけわれわれが受け持っても、全体のごく一部にすぎませんから、配送コストが下がるメリットを感じにくかったのだと思います。

また、今回検証した狭いエリアに対して、オペレーションのリソースが過剰にある状態で、もっと配送エリアを広げないとオペレーションコストが下がらないとわかりました。

――実証実験を終えて、率直な感想はいかがでしょうか?

高柳:今回の「スキマ便」の検証では、配送拠点やリソースをあらかじめ確保して、一定規模の配送エリアで展開する必要があるとわかりました。

一方で、狭いエリアに小ロットで配送業者を切り分けている荷主からは支持されましたから、必要な投資をして規模を拡大すれば事業は成り立つ、という手応えを感じています。

――課題が残った一方で、収穫もあったということですね。今後「スキマ便」の展開についてはどのように考えていますか?

高柳:当面は「スキマ便」の開発リソースを、「TODOCU」の事業へと注力する方針です。ただ、自社で配送リソースを持つことは「TODOCU」のプロダクトを改善していくために必要なので、引き続き「スキマ便」のオペレーションは維持します。

「スキマ便」のポテンシャルは、今回の検証で確認できたと思っているので、いずれ再チャレンジしたいと考えています。

自動運転社会でもデータや拠点は必要

――将来、配送車両の自動運転化や小型の配送ロボットの導入が進んでいくと思いますが、そうした先進技術との連携は視野に入れていますか?

高柳:もちろん視野に入れてます。われわれが「TODOCU」や「スキマ便」を通じてやろうとしていることは明確で、前者は配送を効率化するデータを取得すること、後者は配送拠点を高密度に設置することです。

たとえば配送の手段が自動運転車や配送ロボット、ドローンになったとしても、データや拠点の重要性は今後も変わらないと思っています。自動運転でも最適な配送ルートを示す必要がありますし、エンドユーザーへスピーディーに届けるには高密度な拠点が必要ですから。

――データは「TODOCUサポーター」や「TODOCU」の利用者が増えることで蓄積できると思いますが、配送拠点はどのように確保していく方針でしょうか?

高柳:「スキマ便」の検証を通じて、郊外の大規模な物流センターではなく、小規模なスペースでも配送拠点として成立することがわかりました。

街には多くの遊休地が眠っていますし、他にもオフィスや新聞配達店など活用できる場所はたくさんあります。今後そうした場所との協力を進めて、配送拠点を増やしていく考えです。

(文・和田翔)


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