三菱鉛筆、東京大学らと“筆記具の動きから脳波を予測する実験”実施。集中力の予測が可能に

三菱鉛筆株式会社(以下、三菱鉛筆)では、筆記具の役割を“書く・描く”に限定することなく、さらに広げていくことを目指しています。

同社が新たな提供価値を検討するなかで、日常的な筆記行為を通じて、自分の集中状態を把握することができれば自分自身に合った学習や作業を実現できるのではないかと考えるに至ったそう。

そこで三菱鉛筆は、東京大学 大学院薬学系研究科の池谷裕二教授とストーリア株式会社との共同研究として、筆記具の動きと脳波を記録し、筆記具の動きから脳波を予測するという実証実験を実施。

今回の実証実験の結果、筆記具の加速度データから集中力を予測できることが判明しました。

アタッチメント型のIoT機器で筆記動作をセンシング

実験では、筆記具に装着して加速度を測定するアタッチメント型のIoT機器(ストーリア製 試作品「Penbe」)で筆記動作をセンシング。同時に、脳波計を被験者に取り付け、集中力やタスクパフォーマンスとの関連が知られている脳の前頭葉のガンマ波成分を計測しました。

これらの筆記動作(加速度)とガンマ波の二つを、ディープラーニングの一つである「長短期記憶ニューラルネットワーク手法(以下、LSTM手法)」を用いて、時系列的に分析しました。

筆記動作から正しく予測できた割合は83.0%

今回の実験では、アラビア語学習経験のない被験者を対象に、60分間アラビア語の書き写しを行い、その後10分間ずつ絵画と数理クイズのタスクを課しました。

なお、アラビア語の書き写しをする60分間においては、集中を阻害するために、動画視聴やフリートークといった妨害を行ったとのこと。

外部から妨害を行った時間帯では、妨害の少ない時間帯に比べて、ガンマ波強度・デルタ波強度比率の平均が低いことが判明。

そのため、ガンマ波強度・デルタ波強度比率が、集中度合いの指標として用いることが妥当と確認できたようです。

また、筆記動作からLSTMネットワーク手法を用いて予測したガンマ波強度・デルタ波強度比率と、実際のガンマ波強度・デルタ波強度比率の、時系列変化の推移がほぼ一致することを確認。

さらに、ガンマ波強度・デルタ波強度比率が0以上になる時間帯を「集中」、0以下になる時間帯を「不集中」と分けると、感度(実測した脳波に対し、筆記動作から正しく予測できた割合)は、83.0%となりました。

(注1)ガンマ波の発生量が課題に対する集中力と関連があることは過去の研究で示され、脳の休憩状態と関連するデルタ波で補正して集中力指標としての有効性が示唆されているものの、「集中力」に対するより明確な定義や評価方法の確立は今後も検討が必要。

(注2)被験者の数が限られており、さらに筆記具の加速度データと脳波データの関係は被験者によって異なる可能性があるため、汎用的な手法を提供するには、より多くの被験者を集めた実験が必要。

教育や作業といった場面に応用できる

今回の実験によって、LSTM手法を用いて筆記具の加速度データからデルタ波を予測できることが示されました。

これは、脳波を直接測定することなく、日常的に使用する筆記具から脳内の状態を予測することができることを意味しており、教育や作業といったさまざまな場面において応用することができると考えられます。

筆記具が新たなデータ取得の手助けに

現在、集中力を予測するためには、脳波計などのデバイスを頭部に装着する必要がありますが、頭部にデバイスを付ける行為自体が煩雑かつ集中力を下げる要因となる可能性があり、データ取得において多くの課題を抱えているといいます。

三菱鉛筆では、筆記具の動きから集中力の予測が実現できれば、新たなデータ取得の方法になり得ると考えています。

参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000215.000028890.html

(文・Haruka Isobe)


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