【The ORIGIN of the CAMP GEAR】
「『FORE WINDS』(フォアウィンズ)は1995年にスタートしたブランドです。1990年代のキャンプブームの際にはアウトドア関連商品を取り扱っており、フォアウィンズもその中で生まれました」と話すのは岩谷産業株式会社「フォアウィンズ」チームの正木さん。
フォアウィンズは、カセットこんろで馴染み深い岩谷産業のアウトドアブランド。特にここ数年アウトドアイベントへ精力的に出展しているので、「キャンプブームに乗って新しく作ったの?」と思われがちですが、実は老舗のアウトドアブランドなのです。
1980年以降にはガス式のランタンやBBQグリルを開発し、その流れの中で1995年にフォアウィンズが誕生したとのこと。現在は社内でも30代以下の若手社員が集まって進めるプロジェクトとして再始動しているそうです。
そんなフォアウィンズの「COMPACT CAMP STOVE」(イワタニアイコレクト価格:5980円)は、「Iwatani」ロゴでおなじみの岩谷産業株式会社のロングセラーモデル「ジュニアコンパクトバーナー」の性能そのままに、使い勝手やビジュアルを向上させた屋外用バーナーです。商品ページに記載されている通り、まさに「王道かつ定番」たる所以を深掘りしていきます。
■アウトドアに合わせた設計のバーナーヘッドと特殊な五徳で生み出す高火力
▲コンパクトながら十分な火力を生み出すバーナーヘッド。この色、好きなんですよね
まず驚くべきは、その高火力。小さな見た目に反して最大発熱量2,300kcal/hとキャンプ用バーナーとしては十分な性能です。しかし、特筆すべきはバーナー出力よりも、特殊なブレード形状の五徳。
▲幅広のブレードがバーナーヘッドを囲うように配置。“開” “閉”の印字がキャンプ未経験者にも優しい
「耐風性を高めた構造で、高い加熱力が一番の特徴です。五徳を幅広のブレード状にすることでウィンドシールドとしての機能を持たせており、より風の影響を受けにくく、熱を逃しにくい構造になっています。バーナーヘッドも風の影響を受けにくく、より熱効率のよい設計にしています」(フォアウィンズ 正木さん)
▲五徳のブレードが幅広かつバーナーヘッドを囲むように展開されるので、ある程度の風であれば風防がなくても使用可能。風の影響をうけにくい=熱が逃げにくいので、数値以上に火力を感じられます
▲気温25℃、条件下で、水温20℃の水1Lを約4分で沸騰させられるとのこと
ギミックによってサイズ感が大きく変わる機構ではないので、UL(ウルトラライト)系ギアのような最軽量、最小を謳うストイックなバーナーではありません。ですが、手のひらに収まる程度のサイズ感は商品名にある通りまさに“コンパクト”。
▲収納ケースに入れても手のひらサイズで名に違わぬコンパクトさ
ギアコンテナの中に忍ばせておいても邪魔にならないので、サブバーナーとしても優秀です。
また、燃料が入手しやすい点も◎。イワタニのカセットガスは、スーパーどころかコンビニでも売っているので、燃料をうっかり忘れてしまってもリカバーが容易です。OD缶より安いですしね。コンパクトなサイズ感と相まって、使い勝手の良さが際立ちます。
他にも圧電点火方式の点火機構が採用されているのもいい。簡単に言えばライターの“カチッカチッ”する部分のようなものですね。
▲点火装置とバーナーヘッドとの間には十分なクリアランスが確保されていて操作性もバッチリ
この部分も前身のジュニアコンパクトバーナーから引き続きなので、使い勝手が良いだけでなく、よりお得感を感じられるのもロングセラーモデルたる所以でしょうか。
また、フォアウィンズ正木さんによれば「キャンプはもちろんですが、場所を取らずに収納しておけるので、防災用品としてもおすすめです」とのこと。
岩谷産業では、災害発生時にLPガスの迅速な復旧を目的とした全国規模の防災組織を結成していたり、一度に100人分を同時調理できる「炊き出しセット」を自治体に寄贈していたり、大規模な自然災害時に被災地に支援物資としてカセットこんろ・ボンベなどを無償提供する支援基金を設立したりと、災害への対策をいくつも行っています。
コンパクトになるというキャンプ道具の特性からおまけ的に「災害への備えにもなりますよ」と言っているのではないわけです。今日までに起こった震災時には、実際にカセットこんろを提供するなどしていて、そのあたりの意識の高さを感じます。防災への取り組みをしている企業の製品となると、安心感もあります。
▲カセットガスの切込み凹部を、バーナーの容器受けガイド凸部に合わせてひねるだけでセット可能
■本体+カセットガスで支える安定感
使用時の安定感や安心感も長く続く人気の理由です。
▲本体の3本脚とカセットガスで自立するため、使用中の安定感が抜群
OD缶を燃料とする一体型のシングルバーナーに比べても、重心が低く、バーナーの3本脚とカセットガス缶でクッカーを支える構造で安定感は十分以上。
風防としても機能する五徳には、クッカーをがっちりホールドする爪も配置されています。
▲五徳の“爪”も見た目以上にクッカーをホールドしてくれる。個人的に一番感動したポイント
余談ですが個人的にシングルバーナーの五徳ってあまり信用してなくて、五徳の上をスルスルとクッカーが滑ってしまう印象があります。コーヒー用に沸かしたお湯が落下した悲しい思い出が蘇る…。もちろんクッカーの底の処理やバーナーとの相性にもよるんですけどね。
そんな、クッカーを載せた際の五徳の安定感も含めて「これひとつをギアケースやザックに詰めておけばひとまずOK」な安心感を得られるバーナーです。
▲焚き火調理がメインなソロキャンパーの痒いところに手が届くサイズ感と使い勝手
小型なので当たり前といえば当たり前なのですが、気になる部分で言えば大型のクッカーが使用できない点。メインバーナーとして使用するなら、クッカーは登山系の小型のものを。もちろん湯沸かしや簡単な調理であれば十分使えるので、サブバーナーをお探しの方にもおすすめです。
■変更点は3つ!ディテールをブラッシュアップで使い勝手がより向上
発売から20余年と経過するなかで、細かい調整が幾多も入ったであろうジュニアコンパクトバーナー。その高い完成度ゆえ長年愛され続けている同製品の何がどう変更になったのか、気になるところ。
▲COMPACT CAMP STOVE(左)とジュニアコンパクトバーナー(右)
フォアウィンズ 正木さんは「手前味噌ではありますが、正直なところ『ジュニアコンパクトバーナー』はシングルバーナーとしてかなり完成されている商品で、なかなかこれ以上を目指すのは難しいというのはありました。今回のリニューアルでは、これまでの高い完成度はそのままに、細部のブラッシュアップで今のキャンプシーンにあったデザインを目指しました」と話します。
▲新ケース(左)と旧ケース(右)。素材感もよく見た目もスマートに
ひと目で分かる変更点としては、収納ケースの素材と形状の変更です。まず使用素材について、樹脂製からよりクッション性の高いEVA素材に変更されています。
これまでの樹脂製ケースはパッキングのしやすさもあって多くのキャンパーに支持されてきましたが、一方で内部のクッション性が低く、収納時の保護力が気になるところでした。
他には、燃料調整バルブの素材が変更に。
▲幅広・細長なバルブへ変更になり、バーナー使用中の火力調整も行いやすくなった
これまでの樹脂パーツから、ステンレス素材の“今風”のバルブに変更。つまみが薄く長くなったことで、クッカーを載せている際の火力調整や再点火の際の操作性も向上しています。操作性の向上だけでなく、よりスマートなビジュアルになった点も好評なようです。
▲点火装置側面部の印字も変更点。「Iwatani」からブランド名の「FORE WINDS」に
■安全なバーナーの選び方とバーナーとカセットボンベの“あの話”も聞いてみた
ガスのプロフェッショナルに取材をする機会もそうそうないので、安全なバーナーの選び方を聞いてみました。
正木さんによれば「カートリッジ式のガスこんろは、国の定めた技術基準に適合した商品でなければ販売できず、適合している商品には“PS LPG”のマークが記載されます。他にも日本工業規格のJIS規格による基準も定められています。日本国内で流通している以上は、必ずこれらの基準をクリアした記載があるはずです」とのこと。
▲「COMPACT CAMP STOVE」のPS LPGマーク
なので、基本的に日本国内で流通しているバーナー類は通常使用する限りは安全性に問題はないと言えるでしょう。「大手通販サイトで販売されている格安バーナーは日本の安全基準に達していないから購入してはいけない」といった噂がSNS上で話に挙がることもありますが、何にせよ日本国内で流通している時点でPS LPGマークが記載されているはずです。噂の真偽はともかく、不安な方はマークを確認した上で購入しましょう。
また、カセットボンベに限らずOD缶でも話題に挙がる「バーナーとガス缶のメーカーが違っても使えるけど使っちゃいけない」問題についても少し聞いてみました。
「あくまでカセットボンベというのは、カセットこんろの部品という立ち位置で、カセットこんろの検査はそのメーカーのカセットボンベでのみ行うんです。なので、器具とガス缶でメーカーが異なる状態で使用した際に、問題が起こる可能性を否定できず、メーカーとしても安全性を確保できないのです」(フォアウィンズ 正木さん)
なんだかんだ使えてしまえたり価格の部分もあったりと、「分かっちゃいても使ってしまう」なんてこともあります。ですが、なにか起きた時に自分だけでなく周囲のキャンパーを危険に晒してしまう可能性もあります。必ずカセットボンベとメーカーは合わせて使用しましょう。
* * *
コンパクトながら火力十分、安定感のある「COMPACT CAMP STOVE」。発売から20年以上にわたって愛され続けているシングルバーナーの王道「ジュニアコンパクトバーナー」の魂を引き継いだこのギアが、これから長い年月をかけてたくさんのキャンパーに愛用されていくことでしょう。
▲前身であるジュニアコンパクトバーナーとケース。オレンジ色のケースの人がいたらその人は古参キャンパーかも?
実際「ジュニアコンパクトバーナー」を20年ほど前に購入して以来、同じものを使い続けているキャンパーさん何人かに出会ったことがあります。「メインは他のバーナーだけど、なんだかんだ便利でいつも持っていくんだよ」なんて笑って話すベテランキャンパーを取材の中で思い出しました。
※「COMPACT CAMP STOVE」「ジュニアコンパクトバーナー」のガスの接続口にはゴム部品が使われています。ゴム部品は使用の頻度にかかわらず経年劣化していきます。製造後10年を目安に買い替えを検討しましょう
余談ですが、みなさんは同社のアウトドア向けカセットこんろと家庭用カセットこんろをしっかり見比べてみたことはありますか?
これが結構面白くて、そもそもバーナーヘッドの形状も構造も違うし、火の出方もまるっきり違う。
▲「カセットフータフまるJr.」の風防。単純そうに見えてしっかりと作り込まれており歴史ある企業の妙を感じざるを得ない
「言っても風防がついてるだけじゃん」とよく見もせず思っていましたが、その風防には強い風は遮って適量の空気が流れ込む仕組みにちゃんとなっていたりと、まじまじと見てみると興味深い発見も。
使い慣れたキャンプギアも視点を変えて眺めてみると新しい発見があり、それが故にその道具がより好きになるなんてこともしばしば。この機会に、あなたのど定番ギアを改めて手にとってみたら新しいキャンプ道具沼が見えてくるかも?
>> FORE WINDS「COMPACT CAMP STOVE」
>> [連載]The ORIGIN of the CAMP GEAR
<取材・文/山口健壱>
山口健壱(ヤマケン)|1989年生まれ茨城県出身。脱サラし、日本全国をキャンプでめぐる旅ののち、千葉県のキャンプ場でスタッフを経験。メーカーの商品イラストや番組MCなどもつとめる。著書に「キャンプのあやしいルール真相解明〜根拠のない思い込みにサヨウナラ」(三才ブックス)
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- Original:https://www.goodspress.jp/columns/544907/
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