まるでV12気筒モデルのよう! ロールスロイスのピュアEVクーペ「スペクター」は静かな水面を滑るような乗り心地

ロールスロイス初の量産EV「スペクター」に乗ることができました。すごい性能、とひとことで表現したくなる2ドアクーペ。試乗場所は、2023年7月の米ナパバレーです。

ピュア電気自動車(BEV=バッテリー駆動のEV)の面白さはどこにあるでしょうか。私は、各ブランドが、エンジン車から続く、自社の個性を表現しようとしているところだと思っています。

今回のスペクターも同様です。大容量バッテリーと、前後のモーターによる全輪駆動。出力は430kW、最大トルクは900Nm。満充電での航続距離は530kmに達します。

しかし、「電気で走るより、ロールスロイスであることが開発の最優先課題でした」と、ロールスロイス・モーターカーズのトルステン・ミュラー=エトヴェシュCEOはナパの試乗会場で語っていました。

つまり、まったく新しいプラットフォームを用いながら、これまでのファントムやゴーストといった12気筒搭載のロールスロイス車と同様の操縦性を追求したのが、スペクターだというのです。

▲スピリット・オブ・エクスタシーのマスコット、バッジ、パンテオングリルは欠くことの出来ない要素

▲キャビンの造型とウインドウグラフィクスは既発の「レイス」クーペを連想させる

■電気モーターでありながらV12気筒モデルのような操縦性

▲パンテオングリルのベイン(縦の桟)は可動でなく基本的に閉じたかたち

「電気モーターは、いきなり野生の馬のような加速を可能にしますが、それはロールスロイス車のキャラクターではありません。たとえば、眼に見えない巨人の手が後ろからそっと押してくれるような、そんな加速をスペクターでは目指しています」

そう語るのは、ナパバレーの試乗会場で出合ったエンジニアリングのトップ、ドクター・ミヒア・アヨウビです。

加えて、船で静かな水面を滑っていくような乗り心地(ワフタビリティといいます)や、空とぶじゅうたんに乗っているような静粛性なども、これまでのロールスロイス車と共通するフィーリングをめざしたそうです。

実際に走らせると、驚くことに、ほんとにV12気筒モデルとよく似た操縦性なのです。

アクセルペダルの踏み込み量を長めにして、ゆっくり加速できるように気を遣ったなど、ディテールもいろいろEV化に合わせて調整されているようです。

すーっと音もなく加速していき(室内で聴ける合成された加速音を選ぶこともできます)、どんどん速度を上げていきます。荒れていない舗装路面では、まさに大きな船で鏡のような水面をいくイメージといったらいいでしょうか。

▲ゆるやかなカーブのある舗装道路はもっとも相性のいい道

径が大きめのハンドルを指でつまむようにしただけで、あまり力もいらず(これをRRでは「エフォートレス」と表現)、カーブの大小に関係なく、すいすいとこなしていくさまに感心です。

ナパバレーは、ハーランエステートやロバートモンダビといった日本でも名の通ったワイナリーが並ぶセントヘレナとかは、ゆるやかな丘陵地帯ですが、バレー(谷)というだけあって、周辺は山岳路がくねくねと通っています。

そこを走るのも、スペクターならお手のもの。これまでロールスロイスは、ゴーストがワインディングロードも得意としていました。これでさらにもう1台、運転が楽しめるモデルが増えたとわかりました。

電子制御アクティブサスペンションは、空から吊り下げられて路面の凹凸に関係なくフラットな姿勢を保てる「スカイフック理論」が適用されています。

実は…ここだけの話ですが、2ドアだけどスペース充分の後席に身を落ち着けていると、あまりに快適で、あっというまに眠りに落ちそうになります。

 

■「ファントムクーペ」を受け継ぐラグジュアリアスなクーペ

▲ラウンドシェイプになったパンテオングリルと、やや目立たないヘッドランプが特徴的

2ドアボディのプロポーションは、ファントムクーペ(2008年−16年)をなぞったもの、とデザイン統括のデンマーク人アンダース・ワーミング氏は言います。

実際は、フォントムクーペのほうがノッチ(トランク部分)がしっかりあって、それに対してスペクターはルーフからリアエンドまで流れるようなファストバックスタイルです。

▲ボディの造型においては直線と垂直面は避けたとデザイナーは言う

▲ルーフからテールエンドへ続くパネルは1枚で成型

別の言葉でいうと「精神的な後継車」(ミュラー=エトヴェシュCEO)とかで、つまり、マーケットでは、ラグジュアリアスなクーペが求められていたので、スペクターを出した、ということでしょうか。

「なぜ、BEVの第1号をクーペにしたかというと、エモーショナルなスタイルが、エキサイティングな新しいパワートレインと相性がいいからです」

ミュラー=エトヴェシュCEOは、そう説明してくれたのでした。

路上に同じロールスロイスは2台走っていない、なんて言われるほど、この手の超高級車ではビスポーク(特注)の内外装が好まれます。

ロールスロイスは、それでも、プレタポルテでどこまでできるか、さまざまな色や素材で仕上げた内外装の試乗車をずらりと並べてくれていました。

▲グレースホワイトなる色のレザーにウッドパネルを組み合わせた仕様

 

▲ドアの大きさゆえ、内張の木目が美しく映える

▲レザーとウッドを組み合わせたドアの内張りは造型感覚がおもしろい

驚くほどの多様性です。外装色でも、ミュラー=エトヴェシュCEOが好きだという「シャルトリューズ」や、デザイナーのワーミング氏の推す「アーデントレッド」なるくすんだピンクともいえるカラーなど、多様です。

内装の仕上げもしかり。シート地の色のコンビネーションは、パイピング(縁取り)を含めて、多種多様。

もうひとつ、スペクターで注目は、ドアの内張りにも、夜になると星座がきらめく「スターライトドア」が用意されたことでしょう。

▲インフォテイメントシステムのコントローラー

▲左右ともドアを開けると仕込まれた傘が取り出せるようになっている(ホテルのドアパースンなどはこれを差しかける)

▲この仕様はスターライトドア

従来のモデルでおなじみ「スターライトヘッドライナー」と組み合わせたばあい、夜に(よりよく室内全体が見える)後席にいると、宇宙空間に浮かんでいるような幻想的な思いにとらわれるほどです。

ほかにない世界観を実現しているスペクター。日本での価格は4800万円からとなります。

【Specifications】
Rolls-Royce Spectre
全長×全幅×全高:5475x2144x1573mm
ホイールベース:3210mm
車重:2890kg
モーター:電気モーター×2
駆動:全輪駆動
バッテリー容量:102kWh
最高出力:430kW
最大トルク:900Nm
加速性能:0−100km/h 4.5秒
最高速:250kph
満充電からの航続距離:530km
価格:4800万円

>> ロールスロイス「スペクター」

<文/小川フミオ、写真=Rolls-Royce Motor Cars提供>

オガワ・フミオ|自動車雑誌、グルメ誌、ライフスタイル誌の編集長を歴任。現在フリーランスのジャーナリストとして、自動車を中心にさまざまな分野の事柄について、幅広いメディアで執筆中

 

 

【関連記事】
◆2023年発売予定!ロールスロイス初の電動自動車「スペクター」がもたらす新時代の幕開け!
◆加速する電動化の渦中で「エンジン」から考える"五感を刺激してくれるプロダクト"としてのクルマ
◆車高が低くてフルオープン!走りが楽しいマセラティ「MC20チェロ」は人生を楽しむための1台


Amazonベストセラー

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA