“次の日に疲れを残さない”サーマレストのマット「Zライトソル」が定番たる所以

【The ORIGIN of the CAMP GEAR】

アウトドア用スリーピングパッドの老舗ブランドとして多くのアウトドア愛好家たちから信頼を集める「サーマレスト(THERM-A-REST)」。

「日本国内ではクローズドセルパッド『Zライトソル』(9900円)の認知度が高いサーマレストですが、実はインフレータブルマットを世界で初めて開発したブランドなんです」と話すのは株式会社モチヅキの西脇さん。

株式会社モチヅキは新潟県三条市にあるアウトドアギアの輸入・販売を手掛ける、創業1950年の企業。同社はサーマレストはじめ、MSR、プラティパスなど、名だたるアウトドアブランドを持つ米国カスケードデザイン社の日本総代理店で、サーマレストについては2000年から正式に総代理店として販売を続けています。西脇さんは20代からアウトドア業界に身を置く、業界を牽引するキーマンのうちのひとりです。

▲ハイカー御用達のスリーピングパッド「Zライトソル」

インフレータブルマットとは、簡単に言えば空気で膨らませて使用する、合成樹脂入りのマット。オープンセルフォーム(高反発マットレスのような無数の穴が空いた合成樹脂素材)にエアーを組み合わせ、さらにバルブを開けるだけで空気が入っていく自動膨張機能を持たせたもので、アウトドアマットレスとしては定番のカテゴリー。そんなインフレータブルマットを開発したのが、実はサーマレストだったのです。

「サーマレストは1972年、世界で初めてインフレータブルマットを開発しましたが、これは本当に革新的でした。アウトドアシーンの大革命、技術革新と今でも語られるほど。1990年代には国産を含め、多くのアウトドアブランドがインフレータブルマットを開発、販売を始めていましたが、品質・アフターサービスともに同ブランドの右に出るものは当時いなかったですね」

そんなサーマレストはインフレータブルマットを開発後、従来のクローズドセルパッドの改善にも着手。

1986年にはマットに凹凸をつけることで、クッション性能や断熱性能を向上させた「リッジレスト」を、1989年には折りたたみ方式を採用し収納性を向上させた「Zライト」を開発。その後、耐久性や熱管理機能を向上させるサーマキャプチャーを付与した上位モデルとして、2011年に「リッジレストソーライト」、2012年に「Zライトソル」を開発しました。

登山に行けば、ザックにくくりつけているハイカーに必ず出会うと言っていいほど多くの登山家たちに愛されている「Zライトソル」ですが、キャンパーたちにとっても馴染みのあるギアです。

▲登山シーズンには、ザックのサイドやボトム、トップリッドに取り付けて歩くハイカーの姿をよく見かける

ブランドを立ち上げてから50年以上経ってもなお、“次の日に疲れを残さないためのマットレス”を目指すサーマレスト。そんな同社の人気商品「Zライトソル」が定番となったその所以を探っていきます。

 

【定番たる所以①】独自の凸凹パターンと特殊コーティングが生み出すふたつの効果

キャンプ用のマットには大きく分けて3つの種類があります。空気を入れてふくらませるエアーマット、ウレタンを始めとした合成樹脂素材で構成されるクローズドセルパッド、合成樹脂素材とエアーを組み合わせたインフレータブルマットの3つです。

クローズドセルパッドは、空気を入れる必要がなく、広げるだけで使えるアウトドア用マットで、主に地面からの冷えを遮ったり、そのクッション性で寝心地を向上させる目的で寝袋の下に敷いて使うもので、多くのキャンパーに使われているギアカテゴリーです。

▲断熱性や保温性、クッション性を生み出す、独自の凸凹のパターン

「Zライトソル」はこのクローズドセルパッドにカテゴライズされるギアで、表面には独自の凹凸パターンを採用。このパターンの効果は大きく2点あります。

ひとつめが寝心地の向上。

フラットなマットに比べて、凹凸パターンが体重を均等に分散するので、地面からのプレッシャーを軽減してくれます。さすがにこれ一枚だけで誰もが快眠できると言い切れるほどのクッション性ではないですが、慣れてしまえばこれ一枚で眠ることは可能です。

ふたつめが、空気による断熱および保温効果です。

マットに寝転んだときに、凹んだ部分にしっかりと空気が閉じ込められます。その空気が地面からの冷気を抑える断熱材の役割を果たすので、フラットな表面のマットに比べてより高い断熱効果が見込まれるわけです。

▲マットに横たわった際に、凹部分に閉じ込められた空気が体温に温められることで、高い保温性が発揮される構造

西脇さんによると、それ以外にも「凹凸の中の空気を自分の体温で温めることで、体温による熱を分散させないので、背中に暖かさを感じやすくなります」とのこと。

私はフラットなマットレスを使ったことがなく比較ができないので、この点について、一年を通して山に登る友人Aは「確かにフラットなタイプのマットに比べて背中に暖かさを感じるときはある。背中が暖かいので、夏山登山時の不意の気温低下にも安心して眠れる」と言います。

一方「厳冬期の雪山だと、温かいからか凸凹の間に結露が発生して凍ってしまうこともある」とのことなので、通常のキャンプシーンはともかく、雪山登山のような、より過酷な環境下で使用する際はマットの使い分けも必要でしょう。

▲凹凸パターンが互い違いに配置されているため、折りたたんだ際に嵩張りにくい

また、「Zライトソル」には凹凸以外にも、表面に施されたフィルムにも暖かさの秘密が。

「独自の金属製のサーモフィルム“サーマキャプチャー”による効果も大きいですね。このフィルムが効果的に体温を反射するため、より暖かさを感じられます。実際、サーマキャプチャーのない『Zライト』と比べて、断熱性が20%向上しています」

いわゆる銀マットの“銀”の部分になるわけですが、これには熱を反射する機能があるんです。ただ、正直なところ、その効果について少し眉唾なものを感じていました。

今回、この取材を機に試してみましたが、実際にアルミ蒸着されている面とされていない面にそれぞれ横になってみると明確に違いが感じられました。持っている人はぜひ一度、半袖半ズボンのような軽装で試してみてください。“サーマキャプチャー”のある面では、よりじんわりと温まる感覚があります。

余談ですが、スリーピングマットの断熱性能を示す値として“R値”があります。R値が高ければ断熱性が高く、地面からの冷気を大きく遮断できます。マットを選ぶ際にはこのR値を参考に、断熱性がそれほど求められない夏用のマットを探しているならR値の低いマットを、断熱性が非常に重要な冬のキャンプではR値の高いマットを選ぶと良いでしょう。

▲慣れれば単体でも眠れるが、他のスリーピングパッドと組み合わせることでより快適に

「Zライトソル」のR値は2と、単体の使用では春、夏、秋がメインシーズン。インフレータブルマットやエアーマットとの組み合わせで、冬も使っていけるギアになります。

そんなR値ですが、実は2020年までは各社独自の方式で計算がされており、統一規格がありませんでした。つまり同じR値であったとしても、快適に使える状況が大きく異なる場合があったのです。

そこで2020年、アメリカの規格制定機関「ASTMインターナショナル」により、「ASTM規格」として遂にR値が規格化。その結果、それぞれのメーカーでR値の基準が同じになり、R値による製品の比較を正しく行えるようになりました。

ただ、アメリカで販売されているメーカーについてはASTM規格でR値を表記していますが、2023年時点の日本ではASTMに基づいたR値の表記義務はありませんので注意しましょう。

 

【定番たる所以②】故障もせず、長期間使用してもヘタりにくい高耐久性

私は「Zライトソル」と「リッジレストソーライト」を持っていますが、これらは登山でのテント泊だけでなくキャンプでも必ず持っていくアイテムのひとつです。平地でのキャンプ泊の機会が多いということもあるかもしれませんが、大きな故障もなく使い続けています。

この耐久性について、西脇さんは「『Zライトソル』での修理依頼はほとんどありません。あるとしても長期間の使用からくるヘタりについての問い合わせが年にあるかないかくらいですね」と話します。

なるほど。合成樹脂で厚手なので、エアーやインフレータブルのように穴が空いてしまって使えない!ということがなく、故障のしようがないわけですね。

耐久性に関しては、故障以外で無視できないのがヘタリになります。ホームセンターで売っているような格安の銀マットを使ったことがある人はわかると思いますが、長いこと使っているとヘタってきて、次第にクッション性を感じなくなります。例えるとしたらせんべい布団とでも申しましょうか。

▲収納時に使っている留め具の取り付け部分はさすがに角が潰れてしまった

そんなペラペラな状態では地面の影響を受けやすいキャンプでは快眠どころか眠ることも難しくなります。なので、ヘタりにくさというのはかなり重要な要素です。

「実際に使用しているユーザーの方や販売店の方からは『ヘタリにくさが違う』とお声をいただくことが多いですね。寝心地や使い勝手などは使用する方の好みによって変わりますが、ヘタり具合への評価は一定して頂きます」

私もそれなりに長いこと使ってきて、個人的にもヘタりにくいと感じています。身長170cm、体重80kgで、「Zライトソル」を5年で50泊ほど使用してきましたが、寝心地、性能ともに購入時と比較して大きく気になる点は今のところありません。

また、同ブランドの「リッジレストソーライト」は「Zライトソル」と性能も形状も異なるので同列に語ることはできませんが、10年で200泊ほどしていても、こちらもまだまだ現役です。

 

【定番たる所以③】1年通して使用可能&スリーピングマット以外にも使える汎用性の高さ

「Zライトソル」の良点には、年間を通して使用できる汎用性の高さも挙げられます。
クローズドセルパッドが持つ断熱性を発揮できる冬シーズンにはインフレータブルマットやエアーマットを組み合わせて使い、春・秋シーズンではこれ一枚で十分地面の冷気を遮断できるので「Zライトソル」単体で眠ることも可能です。

▲ニッチかつもったいない使い方だが、車中泊時の隙間埋めに丁度いいサイズ感なのだ…

夏の平地のキャンプ場では、その性能がゆえに熱がこもってしまい、個人的にはあまりおすすめしませんが、標高1000mを超える高地でキャンプする際にはちょうどいい暖かさを感じられます。

▲見た目は不格好だが、秋冬キャンプ時には大活躍のチェアオン「Zライトソル」。暖かいだけでなくクッション性もあって丁度いい

また、スリーピングマット以外にも使い道があるのも◎。例えばベンチタイプのチェアの上に敷けば、ウレタンのクッション性で座り心地がアップ。冬キャンプでチェアに座っていると背中やお尻が冷えてしまいますが、座布団代わりに敷くことで冷えを防げます。

ちなみに、ユーザーの中には、自分のスタイルに合わせてカスタマイズを楽しむ方もいて、ロッククライミング中の岩壁でのビバーグ時に備えて、落下防止に隅にハトメ加工を施す人もいると聞きます。

このように、テント泊時のスリーピングパッドとして、オールシーズン使い所があるだけでなく、アイディア次第でアウトドアアクティビティに応用できるのも「Zライトソル」の人気の所以でしょう。

*  *  *

余談ですが、「マットの銀面とウレタン面どっちが表か裏か」という疑問について聞いたところ、「Zライトソル」は“銀面が表”。サーマキャプチャーには体温の反射効果があるため、銀面が上の方がより暖かく眠れます。逆に言えば、夏場のような暖かさが必要ないシーンにおいては、ウレタン面を表にするとより快適に眠れますよ。

▲銀色のサーマキャプチャーが溶着された面は熱を反射するので、シーズンに合わせて裏表を使い分けると良い

今回紹介した以外にも、折りたたんだ際の嵩張りを抑えるために凸凹部分が互いに収まり良くなるようなパターンに設計されているなど、細かく見ていくとその品質の良さをより実感できるポイントがあります。

ですが、数多くのブランドから同様のクローズドセルパッドが発売されている今日に至っては、それらの性能の違いを細かく比較して選ぶのは難しいように思います。私もこれまで多くのマットを比較してきましたが、良い悪いを一概に言うのはほとんど無理と言っても過言ではありません。ある意味では価格相応と言いますか、高価な製品は良い性能を持っていますし、一方で質はそれなりだけど安価で買いやすい製品もあります。この観点からすれば、商品の良し悪しは「そのギアに何を求めるか」によって変わると言えるでしょう。

▲現在は販売されていないが、「リッジレストソーライト」も耐久性と断熱性の高さで同ブランドの人気商品だった

スリーピングパッドで言えば、求められる要素には、断熱性や快適性、携帯性に耐久性と、さまざまあります。ブランドは、どういう環境下で使用するのか、どういう使い心地を提供したいのかを明確に持ちながら、各要素のバランスを調整し、商品化することになります。

▲全長が異なるショートとレギュラーの2サイズ展開だが、幅はどちらも一般的な登山用の寝袋にちょうどいい51cm

「サーマレストの製品からは明確な意図を感じます。なぜその厚み、その形状、その耐久性なのか、と言った、スリーピングパッドを形作るさまざまな要素に対して、しっかりと答えがある。創業から今に至るまで、『Zライトソル』が多くの登山家、キャンパーの皆様にご愛用頂けているのは、その点を追求し続けてきたからなのではないかと考えています」と西脇さんは言います。

思うに、しっかりとした意図を持って産み出される品質には信頼が生まれ、そういう商品は誰かに教えたくなる。そうして自然と伝わっていき、実際に使った人たちがその性能に満足し、また誰かに伝える。サーマレストに限らず、一本気な老舗ブランドの人気商品はこの点で共通しているような気がします。

「Zライトソル」はシングルのレギュラーサイズで9900円と決して安くはありませんが、これまで積み上げてきた信頼だけでなく、それを裏切らない品質が備わっているからこそ、定番と言えるほどの人気ギアになったのではないでしょうか。

>> THERM-A-REST

>> [連載]The ORIGIN of the CAMP GEAR

<取材・文/山口健壱

山口健壱(ヤマケン)|1989年生まれ茨城県出身。脱サラし、日本全国をキャンプでめぐる旅ののち、千葉県のキャンプ場でスタッフを経験。メーカーの商品イラストや番組MCなどもつとめる。著書に「キャンプのあやしいルール真相解明〜根拠のない思い込みにサヨウナラ」(三才ブックス)

 

 

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