3000万ドル調達で注目集める仏FlexAI、AIコンピューティングの台風の目になるか

フランス・パリを拠点とする2023年設立のスタートアップFlexAIは、今年4月にステルスモードを脱し、2850万ユーロ(3000万ドル)の大規模な資金調達を行った。

いま進行しつつある生成AIの世界的な普及は、AIコンピューティングに適したAIチップたるNVIDIAのGPUや、GPUデータセンターへの巨大需要を巻き起こした。同社の顧客は、そのAIコンピューティング基盤を利用する、生成AIモデルのトレーニングや推論を含むAIアプリケーションの開発者である。

FlexAIはそれら開発者のために、AIコンピューティング基盤を容易に、かつ効率的に利用可能な「ユニバーサルAIコンピューティング」の提供を目指す。

NVIDIA、Apple、Intelを経てFlexAIを設立

Image Credit:FlexAI

FlexAIの共同創業者兼CEOであるBrijesh Tripathi氏は、AIチップ供給を独占するNVIDIAのシニアデザインエンジニアを務めた後、AppleでシニアSOCエンジニアとしてiPhone開発に携わった。その後、テスラでハードウェアエンジニアリングの責任者となり、イーロン・マスクのもとで働いた。

そして自動運転スタートアップのZooxおよびIntelのAIチップ開発事業部門であるAXGのバイスプレジデントとして、さまざまなエンジニアおよびアーキテクトの役割を担ってきた。

共同創業者兼CTOであるDali Kilani氏もまたNVIDIAでSoC設計者、ゲーム会社のZyngaでエンジニアリングディレクター、フランスのヘルステック企業LifenのCTOなど、技術面での重要な役割を果たしてきた。

AIコンピューティングを知り尽くした2人がFlexAIを率いていくのだ。

AIチップ需要の増加

Image Credit:FlexAI

生成AI時代のデジタル経営において、データが石油というならば、NVIDIAのGPUはゴールドだ。

生成AIの中核であるLLM(Large Language Model)のトレーニングと推論には、AIチップとしてのGPUの高性能を欠かすことができない。生成AIが登場したときに、唯一NVIDIAが高性能GPUを供給可能な場所にいた。その結果としてNVIDIAは92%のマーケットシェアを誇る。

AMDおよびIntelもAI向けGPUの開発競争に参入したが、2位のAMDのシェアはわずか3%。Intelのシェアは、それにはるかにおよばない。いまや生成AI開発競争力の最大の要因は、需要急増で不足が続く高価なNVIDIA GPUを、どれだけ利用できるかという資金力になっている。

今年2月、The Wall Street JournalはChatGPTを提供するOpenAIのCEO、Sam Altman氏が、数兆ドルの資金調達を模索していると報じた。Altoman氏は世界のAIチップ製造能力を強化するために、半導体産業の再構築を目論んでおり、アラブ首長国連邦政府を含む投資家との話し合いを進めているという。

FlexAIの「ユニバーサルAIコンピューティング」は、この状況に大きな一石を投じるものだ。

今年度末までにAIトレーニング向けクラウドを提供予定

Image Credit:FlexAI

FlexAIは2024年度末までに、最初の製品であるAIトレーニング向けのオンデマンドクラウドサービス「ユニバーサルAIコンピューティング」を提供開始する計画だ。

このサービスはFlexAIが新たに開発するソフトウェア基盤が、AIアプリケーションとGPUハードウェア基盤の間に≪中間層≫として介在する。そしてそれによって、AIアプリケーション開発者にふたつの大きなメリットを提供する。

2006年にサービス提供を開始したAmazon AWSや、それに続くMicrosoft Azure、Google Cloudは、クラウドアプリケーションの開発者に大きなメリットを提供してきた。それはデータセンターのハードウェア基盤の知識がなくてもアプリケーション開発を可能にすることだ。

しかし、いまのGPUデータセンター上のアプリケーション開発には、ハードウェア基盤の詳細な知識が必要だ。そこでTripathi氏は言う。

私たちは開発者によるAIコンピューティング基盤の利用を、汎用クラウドが20年かけて到達したのと同じレベルの簡便さに引き上げたいと考えています。

引用:TechCrunch

そしてこれが第2のメリットを可能にする。このソフトウェア基盤の利用によって、GPUがAMDのものであっても、Intelのものであっても、もちろんNVIDIAのものであっても、同じようにアプリケーション開発ができるのだ。

これはGPUのシェアを拡大したいAMDやIntelにとって大きなメリットをもたらす。そこでFlexAIは、AMD、Intel、Amazon AWS、NVIDIAと提携した。

強風ふきあれるAIチップビジネスの台風の目になる

NVIDAのGPU不足に全世界のAIアプリケーション開発者が悲鳴をあげているいま、FlexAIの「ユニバーサルAIコンピューティング」は、NVIDIA、AMD、Intelマーケットシェア再編のきっかけになる可能性を秘めている。

またGPUデータセンター基盤におけるAmazon AWSのようなソフトウェア基盤を提供する先行プレイヤーとしての可能性にも注目だ。Amazonとのパートナーシップの行く末はどうなるのだろうか。

このふたつの意味で、FlexAIは強風ふきあれるGPUビジネスの台風の目になるに違いないだろう。

しかし現時点ではGPUハードウェア基盤自体をパートナーに委ねているFlexAIは、自前のハードウェア基盤の構築を目指している。これについてTripathi氏は最近のビジネスモデルのトレンドにもとづいて、GPUチップを担保にする融資による資金調達を行う意向だという。

OpenAIのAltman氏によるAIチップ半導体産業再構築の目論みにしても、AIチップビジネス台風の進路から目が離せない。

参考・引用元:
FlexAI
GlobeNewswire

文・五条むい
X(Twitter):@catalyticforce


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