サッカー選手であると同時にスタートアップ界隈では投資家としても知られる本田圭佑氏、2020年3月末までネスレ日本の代表取締役社⻑兼CEOを務めていた高岡浩三氏、そしてヘルスケアスタートアップFiNC Technologies創業者の溝口勇児氏——。それぞれのフィールドで様々な挑戦に挑んできた3人のプロフェッショナルが「21世紀の課題解決」をテーマに、新たなファンドを立ち上げる。
ファンド名は「WEIN挑戦者FUND」。3人が共同ファウンダー兼代表パートナーとなり、6月中にも設立する予定だ。国内スタートアップへ投資をするだけでなく自ら事業を立ち上げるほか、大企業やスタートアップとコラボして共同で事業を展開していく計画だという。
キーワードは「ウェルビーイング」
WEIN挑戦者FUNDの事業概要は大きく「スタートアップ投資」「自社事業」「共同事業」の3つだ。
すべてに共通するキーワードがWEINの由来にもなっている「Well-Being(ウェルビーイング)」という概念(WEINはWell-Being+LINKの造語)。同社ではウェルビーイングを「身体的、精神的、社会的に健康な状態」と定義していて、この領域に関する企業に対して投資をしたり、自分たちで事業を立ち上げたりするという。
「日本は20世紀最大の課題である『戦争・飢餓・病気』にいち早く対応を進めてきたが、その一方でWell-Beingの観点ではまだまだ課題を抱えている。自分たちが考える21世紀の課題は『孤独・退屈・不安』であり、今後はこれらの課題との戦いになる。あまりにテーマが広いので、自分たちでこの領域に関する事業を作るだけでなく、スタートアップへの投資や大企業・スタートアップとの共同事業にも取り組むことで課題解決を目指していくことを決めた」(溝口氏)
これからファンドを設立する段階ではあるが0号ファンドでは個人を中心に20億円程度、1号ファンドでは事業会社などをLPに迎えて100億円を超えるような規模を目指す。ウェルビーイング関連事業を手がける国内スタートアップを対象に、事業のステージや1社あたりの投資額などについては特に絞らず投資をしていく方針だ。
1つの特徴と言えそうなのが、ファウンダーの3人に加えてビジネス開発やファイナンス、マーケティングなど各領域の専門家が集まって投資先を支援するスタイルを採っていることだろう。溝口氏によると「スタートアップスタジオ」に方向性が近く、単に出資をするというよりは投資先と密に関わっていくイメージだという。
「投資の目利きをするというよりは、一緒に成長していくという感覚の方が近い。(3人のファウンダーは)みんな自分たちのことを投資家とは思っていなくて、経営者であり起業家であり、挑戦者だと考えている。たとえば自分自身は社員が誰もいないところから会社を始めて350人ほどになるまで経営してきた中で、小さな成功とたくさんの失敗をしてきた。自分たち自身が挑戦して積み上げてきたものを軸に支援することで本当の意味で大きな支援ができると思っている」(溝口氏)
これまで本田氏と溝口氏はそれぞれがエンジェル投資家として複数のスタートアップへ投資をしてきた。ただ個人でやれることには限界があり(特に経営者やサッカー選手として本業が別にある中ではなおさら)、組織化することでできることが増えるというのが溝口氏たちの考えだ。
今後国内スタートアップへの出資に関してはファンドの方に集約し、チームとしてサポートすることになるとのこと。WEIN挑戦者FUNDはすでに20人ほどのメンバーが在籍するチームになっていて、出資はしていないもののスタートアップの支援は始めているという。
また自社事業ではウェルビーイング×テクノロジー×コンシューマー向けを軸としてすでにプロダクトの準備を始めているそう。元ネスレ日本の代表であり自身でスタートアップの支援も手がけてきた高岡氏などを中心に、大企業やスタートアップとの共同事業にも取り組んでいく計画だ。
「国内No.1の挑戦者エコシステム」を目指す
WEIN挑戦者FUNDは昨年12月に溝口氏がFiNCの代表を退任するにあたって、それを知った本田氏が連絡をとったことから始まった。
「開口一番『おめでとう、これで一緒にやれるね』と声をかけられて、気持ち的にも救われた部分があった。彼がちょうど日本にいたこともあり、何度も会って一緒にやれるかをディスカッションしたのがきっかけ」(溝口氏)
お互いがエンジェル投資をしているが、その活動を合わせて1つのファンドを作ることによっていろいろなサポートができるのではないかという話が出てきたのもそのタイミングだ。一緒にやるなら何かテーマが必要だということで、「日本から孤独や退屈や不安をなくすことができれば、それが地球の未来を良くしていくことにも繋がる」と考え21世紀の社会課題を解決することを軸に設定した。
もう1人のファウンダーである高岡氏は溝口氏が尊敬する経営者であり、数年前に勉強会に参加してからの縁だ。実はFiNCで代表を務めていた頃にはCOOになって欲しいと何度かオファーも送っていたそうで、今回のタイミングで遂に一緒に挑戦することに至ったという。
WEIN挑戦者FUNDでは3人を中心に投資や大企業・スタートアップとの協業を進めていくことになるが、挑戦者を支援するだけでなく「自分たち自身も当事者としてチャレンジすることにこだわりがある」そう。そのため自社が主体となって事業開発を行うほか、挑戦に関わる人を増やすという目標のもと、社会課題の解決にコミットしたいメンバーが集まるクローズドのコミュティ作りも進める。
最後に3人のファウンダーのメッセージをリリース内から引用して紹介しておきたい。
「高校在学中からフィットネストレーナーとして一人ひとりの健康をサポートし、2012年には ウェルネス領域でFiNCを創業、より多くの人に生活の土台である心と体の健康を届けたいと思ってやってきた。健康がないと生活の全てが崩れるようなものであるが、人が生きる意味は幸せになることだと僕は思っている。 しかし、日本は自分が幸せだと感じている人が少ない。これは生産性が向上したことにより、あらゆる面でゆとりができ『孤独・退屈・不安』が生まれてきたことが原因だと考えている」
「日本は21世紀の課題『孤独・退屈・不安』先進国だが、この問題に真剣に取り組んでいる プレイヤーがいない。『孤独・退屈・不安』は挑戦し、挑戦に関わることで解消される。 だからWEIN挑戦者FUNDは、挑戦する人、挑戦に関わる人を増やす国内No.1のエコシステム を構築し、21世紀の課題解決に挑む」(溝口氏)
「これまでの経験から日本のイノベーションの推進におけるスタートアップ企業の役割が 極めて重要との想いをもっている。退任のタイミングで溝口さんから要請を受けたことから、 WEIN挑戦者FUNDで日本のイノベーションを加速させるために参画した。日本のコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)におけるオープン・イノベーションの 成果が出ないのも、『何がイノベーション』で『真の社会課題が何か』が定義されないまま 投資されているからである。今後は、大企業およびスタートアップの経営とマーケティング のアドバイザリーとして、大企業のイノベーションに貢献し、スタートアップ企業の成⻑を加速させていく」(高岡氏)
「これまで日米あわせて50社くらい投資してきたが、もっともっと挑戦者をサポートできる んじゃないか、という思いがあった。ただ、サッカーもやりながら、しっかりコミットする ことができないというジレンマがあった。今回は溝口さん、高岡さんと一緒に行うことで、組織的、体系的にスタートアップをサポート できるようになる。投資した後もコミットし続けるという強みが出せる」
「WEIN挑戦者FUNDでやりたいことは2つある。日本を代表する企業を輩出するようなファンド にしたい。そして、社会をよくしたいという起業家に集まってもらい、21世紀の課題解決 に挑みたい。僕は遠隔での関わりになるので、個人のファンドであるKsk Angel Fundで学んだことを活 かしながら、さまざまなオファーを受けたり、情報発信したりする面で力を発揮する。投資 の意思決定には関わる。日々の事業サポートは、溝口さん、高岡さんが力を発揮する。Ksk Angel Fundにくる投資案件の全てを、今後はWEIN挑戦者FUNDを通じて投資していく」(本田氏)
- Original:https://jp.techcrunch.com/2020/05/28/wein-fund/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:masumi ohsaki
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