ホンダ「シビック」はココがスゴい!各部の徹底した熟成で走りの爽快感が劇的アップ

ホンダは先頃、新型「シビック」を発表。乗る人すべてが“爽快”になれるクルマを目指した11代目の登場だ。

2021年9月の発売開始を前に、そのプロトタイプをテストコースでドライブする機会に恵まれた。果たして新型はどのような進化を遂げていたのか?

■新型シビックのボディタイプはハッチバックのみ

2020年のホンダの生産台数をチェックすると、最も多く生産されたモデルは「CR-V」の73万台。3位は「ヴェゼル(欧州名「HR-V」)」の54万台、4位は「アコード」の48万台と続く。

では、CR-Vに次いで2番目に生産台数の多かったモデルは何か? 正解はシビックだ。1972年の発売以来、トータルで2700万台以上をユーザーの元に届けたホンダを代表するクルマ、それがシビックなのである。

2017年に日本でデビューした先代の10代目は、世界10カ所の工場で生産。セダンやハッチバックのほか、スポーティモデルの「Si」、3ドアの「クーペ」、そして量産前輪駆動車で世界最高峰の速さを誇った「タイプR」という5つのバリエーションを展開した。

そんなシビックが先頃11代目へと進化した。新型における最大のトピックは、日本仕様のボディタイプがハッチバックのみになったこと。先代の日本仕様はハッチバックとセダンがラインナップされていたが、今回セダンがドロップしたのである(海外市場向けには設定がある)。

シビックは“Cセグメント”と呼ばれるクラスに属していて、日本車でいえばトヨタ「カローラ」や「マツダ3」、スバル「インプレッサ」などがライバルとなる。輸入車ならプジョー「308」やルノー「メガーヌ」、そして同セグメントのパイオニアでありトップセラーでもあるフォルクスワーゲン「ゴルフ」などと競合する。そんな中で新型シビックは、全長4550mm、全幅1800mmという、ライバルより大きめのボディサイズ設定となっている。

■先代よりもリアシートの居住性が高まった

新型のプラットフォームは、先代のそれを進化させて継承。それもあって、エクステリアやプロポーションは大きく変わっていないが、デザインはよりシンプルに、大人っぽくなっている。先代で“ガンダムっぽい”といわれたディテールのデザインがスムーズかつ大人しくなったことが、そう感じさせる理由だろう。

そんなルックスで注目したいのは、リアフェンダーの張り出しや立体感の美しさだ。新型の全幅は先代と同じだが、リアのトレッドがカタログスペックで10mm、実際には12mm拡大されている。その結果、リアタイヤが外側へと張り出し、安定感を強調している。

また、フロントピラーは付け根の位置が50mm後退し、いわゆるロングノーズのフォルムとなってボンネットを長く見せている。これがスタイリングの伸びやかさにひと役買うと同時に、視野の拡大にも貢献。結果、ドライバーの前方視界が良化している。さらに、ドアミラーの取り付け位置をフロントピラーの付け根からドアへと変更したことで斜め前方の視界も良化。交差点を右折する際などにそのメリットを実感できる。

一方、キャビンでは、中央にハニカムメッシュが横断するインパネデザインが印象的だ。これも新型シビックの特徴のひとつで、エアコンの吹き出し口はその内側に隠されている。

また新型は、リアシートの取り付け位置変更により、居住性が高まったのが朗報だ。先代のハッチバックはリアシートの位置がセダンよりも前方にあり、足下スペースが狭かったのである。

その点、新型は、取り付け位置を後ろへズラすことで、前後席の間隔を35mm拡大している。

■MT/CVTともに同スペックのVTECターボを搭載

エンジンは、先代から継承した1.5リッターの直噴VTECターボがひとまず用意される。追って、独自の2モーターハイブリッドシステム“e:HEV(イー エイチ イー ブイ)”が追加されるほか、ハイパフォーマンス版の「タイプR」も2022年に登場する予定だ。

CVTと組み合わせる1.5リッターターボは、最高出力こそ先代と同じ182馬力だが、最大トルクは24.5kgf-mと2.1kgf-m向上している。さらに新型は、CVTにもパドルシフトが用意されるほか、トルクコンバーターの性能アップやブレーキング時のステップダウンシフト制御、全開加速時のステップアップシフト制御などを盛り込むことで、スポーツドライビング時のドライバビリティを高めている。

また、なんといっても興味深いのは、新型にもMTが用意されること。今、日本の新車販売におけるMT車比率は2%未満といわれるが、先代ハッチバックのMT比率は約3割にも達していた。意外といっては失礼だが、シビックはスポーツカーに匹敵するくらいMT比率が高いクルマなのだ。そう考えると、新型にMTが設定されたのは当然の流れといえるだろう。

気になるシフトストロークは、先代モデルに比べて前後方向で5mm、左右方向で3mm短くなった。せっかくMT車を選ぶのならシフトフィールにも気持ち良さを望みたくなるが、硬すぎず柔らかすぎず、クッと吸い寄せられるようにギヤが噛み合う新型シビックのシフトフィールは、期待を裏切ることはない。

ちなみにMTと組み合わされるエンジンは、最高出力や最大トルクこそ先代のMT仕様と同じだが、最高出力の発生回転数が6000回転へとアップ(新型のエンジンはMTとCVTで同スペックになった)。実際にドライブしてみても、加速の“伸び感”が増していることを実感できる。

■新型の走りは先代とは別次元の出来栄え

そんな新型シビックのプロトタイプを、先代モデルと比較しながらテストコースで走らせてみたが、その出来栄えは先代のそれとは別次元だった。先代も運動性能や走行安定性は優秀だったが、新型はそれを超えてきたのである。

まず印象的だったのが、絶妙なステアリングフィール。コーナー進入時にハンドルを切り込む際の感触が、素晴らしく気持ちいいのである。その秘密のひとつが、絶妙にチューニングされたステアリングの操舵力だ。先代モデルよりもパワーステアリングのアシスト量を増やし、操舵力を軽くしているという。

実はこの手法は、最近多く見られるもので、例えば、ボルボ「XC40」やフォルクスワーゲンのゴルフなど、ステアフィールがいいとされるモデルは基本的に操舵力が軽く設定されている。かつては「ハンドルは重いほどスポーティ」といわれていたが、時代は変わっているのだ。

ハンドリングコースで先代モデルと乗り比べてみると、ハンドリングの洗練度の差は歴然だ。新型はコーナーへの進入からコーナリング中、そして直進状態に戻るという一連のプロセスがスムーズにつながり、嫌な引っ掛かりや挙動のギクシャク感が皆無なのである。

もうひとつ驚いたのは走行安定性の高さだ。タイヤの接地感に優れ、先代モデルと同じ感覚で走ってみると、新型は明らかにコーナリングスピードが高い。その理由は、シャーシ性能が大幅に引き上げられているからに違いない。

なお、今回の試乗は舗装のいい路面ばかりだったので確認できなかったが、開発者によると「サスペンションの動きをスムーズにしたので乗り心地も向上している」とのこと。これは公道で試乗するのが楽しみだ。

先代シビックは、北米、欧州、アジアなど世界各地で販売が始まった後、随分遅れて日本デビューを果たした。しかし新型は、アメリカの次と、かなり早いタイミングでの発表となった。実は先代は、当初、日本デビューの予定がなく、後から開発されたモデルだったという。しかし新型は、開発当初から日本での発売が決まっていて、発表もシリーズとしてはアメリカにつぐ2番目、ハッチバックとしては世界初の正式発表となっている。これは、シビックにおける日本市場の位置づけが変化してきたことの表れといれるだろう。

<SPECIFICATIONS>
☆EX
ボディサイズ:L4550×W1800×H1415mm
車重:1340kg(6MT)/1370kg(CVT)
駆動方式:FWD
エンジン:1496cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:6MT/CVT
最高出力:182馬力/6000回転
最大トルク:24.5kgf-m/1700〜4500回転
価格:各353万9800円

>>ホンダ「シビック」

文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

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