富山の郷土料理、ご当地グルメの筆頭と言えば、なんと言っても「ますすし」です(『ますのすし』とも)。
江戸時代から地元に根付き、かの吉宗も賞賛したというその味わいは、上品ながらも一度食べたら忘れられなくなるほど。北陸エリアの主要駅のお土産コーナーや各地で開催される富山物産展などでよく売られているので、中には「富山には行ったことがないけれど、『ますすし』の味わいだけは知っている」という人も多いかと思います。
その「ますすし」の筆頭は、パッケージに「ます」の絵がダイナミックに描かれた「ますのすし本舗 源」ですが、実はこれ以外にも地元にはいくつものブランドがあり、富山県人の間では「好みごとに指定ブランドがある」という話もちらほら。
▲「とやマルシェ」内「越中鱒寿し富乃恵」の様子。地元の「ますすし」がいくつも販売されています
富山駅隣接の土産販売エリア「とやマルシェ」内には「越中鱒寿し富乃恵」という地元の「ますすし」ブランドをずらりラインナップするお店もあります。その数に圧倒される一方、県外の人間からすれば「どの『ますすし』を選ぶべきか」と、つい迷ってしまうのも正直なところ。
そこで今回は、富山に複数ある「ますすし」ブランドから4つをピックアップ。食べ比べしながら、それぞれの「ますすし」の個性に迫りつつご紹介します。
▲富山の「ますすし」4ブランドを食べ比べ!
■【川上鱒寿し店】半レアの鱒の身がうますぎる一品!
▲「川上鱒寿し店」の「鱒寿し・1段」(税込・2000円)
▲わっぱに刻印された「川上」の文字がシブい!
まず最初は地元でコアな人気を誇るという「川上鱒寿し店」の「鱒寿し・1段」からいただきます。「川上鱒寿し店」は大正15年創業で、スタンダードな「ますすし」の製法を守りながらも、独自の繊細な作り方をしているのが特徴とのこと。上品なのに忘れられないその味わいに、売り切れてしまうことも多いとのことですが、果たして実際の味わいはどんな感じでしょうか。
▲繊細で優しい風味。地元で人気があるのも十分納得です
まず、鱒の身は半レア状態で押しすぎていない点が筆者の好みとも合致。そして、酢飯は甘酢を使っているのか、それほど酸味が強くなく、お米の風味をギリギリまで引き出している印象。
これらが合わさることで優しい味わいを実現しており、上品な旨みが口いっぱいに広がります。地元で人気というのも十分納得。特に舌の肥えた人にオススメしたい一品だと思いました。
>> 川上鱒寿し店
■【元祖せきの屋】100年超えの「ますすし」は完成度高き伝統の味!
▲「元祖せきの屋」の「ます寿し 小一重」(税込・2000円)
▲100年の歴史を感じるわっぱです
続いていただくのが100年以上の歴史を持つ「元祖せきの屋」の「ます寿し 小一重」。「味一徹 伝統の技」という謳い文句の通り、伝統的な「ますすし」の製法を頑なに守り抜いており、こちらも地元ではよく名の知れたブランドです。100年以上前から続くその味わい、果たしてどんな感じでしょうか。
▲あっさり控えめながら、ふっくらもちもちのお米の食感に頬が落ちそうになります
鱒の身はすっかり押された印象で酢飯と渾然一体となり、「伝統の味はこれなのだ」と強く実感しました。口に入れた瞬間に広がる、鱒の身の優しい風味と酢飯の米感は、どこかクラシカルに感じながらも、これがまた癖になる味わい。古き良き富山の景色を思い浮かべながらいただくことで、その美味しさが数倍アップしそうです。こちらもまた上品な味であり、「富山の食の奥ゆかしさ」を感じるほどでした。
>> 元祖せきの屋
■【吉田屋鱒寿し本舗】漁業出身ブランドだけに鱒の身うますぎ!
▲「吉田屋鱒寿し本舗」の「鱒の寿し一重」(税込・2000円)
▲スタイリッシュで奥ゆかしいわっぱです
続いて、「吉田屋鱒寿し本舗」の「鱒の寿し一重」をいただきます。今回食べ比べした4ブランドの中では最も歴史が若い「ますすし」で、生業として確立されたのが昭和21年。しかし、「吉田屋鱒寿し本舗」の先祖は、かつて富山藩に勤め、当時の神通川(現・松川)にかかっていた舟橋の守役に従事するかたわら、漁業を営んでいたと言います。そこから「ますすし」の生産に着手したのが発端とのことで、特に鱒の味わいには期待が膨らみます。
▲厚めカットの鱒、少なめの酢飯のバランスはお酒のおつまみにも◎
口にしてビンゴ! やはり酢飯が少なめで、その代わりしっかり押された旨み強めの鱒が厚目にカットされており、これが美味。一般的にご飯物はお酒のアテには重すぎるという意見が多いものですが、この絶妙のバランスによっておつまみとしても十分好まれるであろう一品だと思いました。
口に入れた瞬間、優しく広がる酢の感じも素晴らしく、晩酌好きの方へのお土産には一番向いている「ますすし」のようにも思いました。
>> 吉田屋鱒寿し本舗
■【ますのすし本舗 源】やっぱり外せない定番。みんな大好きな優等生的味わい
▲「ますのすし本舗 源」の「ますのすし一重」(税込・1800円)
▲古き良き富山・神通川が描かれた紙が添えられたわっぱです
そして、最後にいただくのがやっぱり外せないど定番「ますのすし本舗 源」の「ますのすし一重」です。料亭として出発した後、駅弁業に着手。全国に「ますのすし」の名とその味を知らしめた一大ブランドで、そのパッケージはあまりにも有名です。
「ますのすし本舗 源」の「ますのすし」は伝統的な製法を守り抜いた味わいだと思いますが、ここまでの他ブランド食べ比べを経て、どう感じるかを改めて口にし確認したいと思います。
▲どれを買おうか迷った際にはやっぱりこれ! やはり安定の美味しさです
程よく押され旨みを十分感じる鱒、程よい酸味の酢飯とのバランスは、まさに黄金比的な印象。やはり優等生的な安定した味わいだと思いました。
この安定感にして、税込1800円というコストパフォーマンスの良さもありがたく、どの「ますすし」を買おうか迷った際には、「ますのすし本舗 源」を買っておけば間違いがないとも思いました。
>> ますのすし本舗 源
■伝統守り抜き系から個性派まで実に多彩な富山の「ますすし」
ここまで富山の「ますすし」4ブランドを食べ比べしましたが、それぞれ伝統を守り抜いた味わいだったり、独自の個性を打ち出したものだったりと、実に多彩であることがわかりました。
いずれも絶品だったことには違いがありませんが、それぞれの個性や特長を前に、自分好みの「ますすし」をチョイスするのが良いと思いました。
酒飲みの筆者個人的には「吉田屋鱒寿し本舗」がかなりオススメでしたが、ここまで読んでくださったあなたはどのブランドの「ますすし」が気になりましたでしょうか。本記事を参考にあなた好みの「ますすし」をゲットしていただければ幸いです。
<取材・文/松田義人(deco)>
松田義人|編集プロダクション・deco代表。趣味は旅行、酒、料理(調理・食べる)、キャンプ、温泉、クルマ・バイクなど。クルマ・バイクはちょっと足りないような小型のものが好き。台湾に詳しく『台北以外の台湾ガイド』(亜紀書房)、『パワースポット・オブ・台湾』(玄光社)をはじめ著書多数
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