従来の食肉生産はサステナブルなプロセスとは程遠いものであり、また人々に「本物」の肉を食べるのをやめてもらうという課題は先が見えていない。そんな中、バイオリアクターと培養細胞を使って、動物由来の肉と区別がつかないような肉を作ろうとしている企業の1つがAnimal Alternative(アニマル・オルタナティブ)だ。同社はデータとAIを活用したカスタマイズ可能なプロセスによって、地元の生産者にこの方法を活用してもらおうと試みている。
米国時間9月22日にTechCrunch Disrupt Startup Battlefieldで発表したAnimal Alternativeは、ケンブリッジ大学でバイオテクノロジーを専攻していた時に度々出会う機会があった2人の卒業生が考案した会社である。食肉生産業界は生まれ変わる必要があるという信念を共有していたClarisse Beurrier(クラリス・ボーリエ)氏とYash Mishra(ヤッシュ・ミシュラ)氏。2人はお互いが持つスキルがその目的のために補完し合っていることに気づく。彼らは培養肉の生産を、ハードウェアだけでなくソフトウェアの観点からも取り組むという、データを多用した新しいアプローチを追求するために会社を設立することを決めたのである。
細胞培養肉という言葉に馴染みのない読者のために説明をしておこう。細胞培養肉とは動物の組織から採取した細胞を、人工的な環境下で一般的に「肉」とみなされるだけの数になるまで増殖させたものである。しかし、牛肉をただ切り落として栄養タンクの中に入れておけば500グラムのリブロースに成長するわけではない。自然界で成長するように組織を再現するというのは非常に困難なことなのである。しかしAnimal Alternativeは、データがその答えだと考えている。
研究や医療目的で、細胞や組織の生体電気信号モニタリングを行う研究室出身のミシュラ氏。ある時、同氏とボーリエ氏はこれと同じ技術を食肉生産に応用できるのではないかと考えた。
「親指よりも小さなバイオリアクターを作りました。最小限の資源で多くの情報を得ることで、持続可能な方法で食肉を作るための最適なプロセスを見つけることができました」と同氏は話している。
どんな目的であれ、細胞をモニタリングするというのは非常に複雑な提案であり、多くの場合染色や他の場所でテストするためのサンプルの収集など時間のかかる旧式の技術を必要とする。彼らの革新的な技術は、リアルタイムの細胞モニタリング技術の向上と、それによって細胞成長のプロセス全体を導くことができる即時のフィードバックの両方にあるとボーリエ氏説明している。
「すべてがうまく連動しなければいけません。例えば顧客がラム肉を作りたいと思っても、そこにはあらゆるパラメータがあり、非常にダイナミックなプロセスとなっています」とボーリエ氏。特許出願中のバイオリアクターについてあまり多くを語らないようにしていた2人だが、このバイオリアクターが強力なモニタリングとAIによるフィードバックを提供するものであるということは教えてくれた。
「栄養素、流量、pH、温度など、多くのパラメータが、製造される肉の味、食感、品質に大きな影響を与えます。当社が独自に開発したバイオエレクトロニック分析によって、これまでにないレベルの洞察を得ることが可能になりました」とミシュラ氏は説明する。「また、当社の革新的なプラットフォームには、AI駆動のソフトウェアが搭載されているため、当社が持つ全データを利用してコスト削減と効率向上につなげることができます。これにより、必要なコストとエネルギー量は、開始時に比べてすでに92%以上削減されています」。
畑で作物を育てる際に、水や窒素の量が適切であるかどうかを調べるのと同様に、培養細胞が期待通りに成長しているかどうかをリアルタイムでモニターする必要がある。単に組織の成長と健康を維持するだけでなく、実際の肉にありそうな場所に脂肪や血管の組織を作るなど、これによって積極的に組織を分化させることが可能になる。今後は培養肉に関する世界で唯一のデータベースを構築し、そこからラムやポーク、さらには和牛やアンガス牛などの品種に特化した数多くのAIエージェントを育成、配備していく予定だという。
今の段階ではすべて小規模なスケールでしか実証されていないが、同社はむしろ大規模から小規模へという順序でのスケールアップを計画しているという。「バイオリアクターの設計は大規模なものですが、マイクロスケールのシステムは、そのシステムのモデルとなるように意図的に設計されており、マイクロフルイディクスとバイオエレクトロニック・モニタリングを用いて分子スケールまで再現されています」とミシュラ氏は話す。
つまり言い換えれば、現在試作している卓上スケールでできることは、もっと大きなスケールでもできるはずなのだ。そして同社は「ルネッサンス・ファーム」と呼ばれる大型のバイオリアクターを、食肉生産者がターンキープロセスとして利用できるようにしようと計画しているのである。
食肉は世界的な産業だが、すべての国や地域に食肉生産を支えるだけのスペースや資源、インフラがあるわけではない。それでもどの国でも食肉は消費されているため、多くの国が多額のコストをかけて食肉を輸入しなければならないのである。鉱物や石油には恵まれていても、牧草地には恵まれていない国が、自分たちの資源だけで肉を生産できたらどうだろう。それがAnimal Alternativeの目指すところなのである。
「私たちの目標は、最大規模の商業用工場の代替となる、実行可能な手段を提供することです」とボーリエ氏。彼らの試算によると、1000リットルのバイオリアクターなら、わずか5%の土地、水、排出ガスで、年間100万キログラムの肉を従来の農業と同程度の価格で作ることができるはずだという。
ハードウェアはAnimal Alternativeが提供するが、顧客は定期的に新しい幹細胞(動物を傷つけずに採取される)を購入する必要があるという。生産施設での主なコストは、動物以外から調達した液体培地や成長ホルモンなどの原材料である。販売した商品のレベニューシェアが同社の主な収入源となる。
自社工場に資金を投入して自社製品を作るという決断にいたらなかったのは、スケールの問題が理由だ。
「私たちだけではできない問題です。私たちは野心的ですが、これは非常に大きな挑戦となるため、エコシステムの他のすばらしい企業と協力しなければなりません」。
食肉生産の脱炭素化と民主化という目標を一刻も早く達成するためには、食品業界の大手企業と提携してこのプロセスを強化するのが一番である。培養肉を作るための商業規模のプロセスが確立されれば、本物の肉と区別がつかないサステナブルな製品として、人気商品になることだろう。
さてどの程度本当に区別がつかないのか。その結果は近日中に行われる試食会でのお楽しみである。
画像クレジット:Animal Alternative
[原文へ]
(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)
- Original:https://jp.techcrunch.com/2021/10/11/2021-09-21-animal-alternative-makes-a-platform-play-in-the-growing-market-of-cultured-meat/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:Devin Coldewey,Dragonfly
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